更新日: 2018/03/01
文:安田由美子(針仕事研究家 NEEDLEWORK LAB) 撮影:天野憲仁(日本文芸社)
リボンエンブロイダリー、リボン刺繍は洋裁を勉強していた学生の頃、服飾手芸という授業の中で勉強しました。糸に比べ、広い面積がどんどん埋まっていくのがとてもおもしろく、リボンの刺繍は糸とはまた違ってきれいだと思いました。
授業では、先に基本的なカラードエンブロイダリー、つまり、フリーステッチ(自由刺繍)をしっかり勉強してから取り組むカリキュラムなので、テクニックとしては、すでに習得しているテクニックでできる技法であって、むずかしいという意識がありませんでした。逆に糸の刺繍をやったことがなくてリボンを先にやっていたらまた違った感覚だったかもしれません。
著書『刺しゅうの基礎』を書くとき、最初はリボン刺繍を載せるか載せないか検討されました。フリーステッチが習得できればリボン刺繍もすぐに取りかかれるのに載せないのはもったいないということで、リボン刺繍についても載せることにしました。ぜひ、参考にしてリボン刺繍を楽しんでいただきたいです。
リボンを使う刺繍は糸の刺繍に比べて幅があるため、早く刺し埋めることができます。ステッチの針の運びは糸とほとんど同じです。引きすぎないよう注意して刺します。
糸の刺繍と同じように針が刺せる布ならたいてい刺すことはできますが、リボンには幅があるので、薄すぎる布や毛足の長い布は避けた方がよいでしょう。
▲『刺しゅうの基礎』に掲載したリボン刺繍のサンプラー。
最初に刺すなら、刺繍用のリボンとして売られているものが刺しやすく、色数も豊富です。
MOKUBAは世界でも有名な日本の高級リボンのメーカー、木馬のブランドです。手芸店の刺繍のコーナーにもよく並んでいてご存じの方も多いと思います。
▲MOKUBAのリボン。刺しやすく色数も多い3.5㎜、幅広の7㎜が基本。リボンの幅の中でグラデーションのあるもの、ピコットのあるもの、一定の間隔で色が変化していく段染めになっているものなどがある。
手に入れやすいのは使いやすい量がカードに巻かれたもの。色や幅はたくさんあって、選ぶのに迷うほどです。素材もポリエステル、ナイロン、アクリル、レーヨン、絹などがあります。刺してみると、巻いてあるときや平らな状態の時とはまた違った感じになるので、ほんとに初めての方は試しに買って少し刺してみて、それからいろいろ選んでいくといいと思います。
以前、MOKUBAのリボンの素材ではAzlonというのが使われているものもありました。Azlonは天然蛋白を再生して繊維にした再生蛋白繊維の総称です。現在は、品番・色番は同じでも、ポリエステルに代わったものもあります。
たしかに昔買ったAzlonと書かれた刺繍用リボンは、買ってしばらくは気になりませんでしたが、経年劣化するらしく、かなり古いものは刺していてリボンの耳の部分がほつれたようになってくることもありました。古くなってしまうと摩擦に弱いようです。でも、発色もきれいで絹のように柔らかです。
▲同じ48番の色の3.5㎜幅のリボン。左の古いものはアズロン100%、右の新しいものはアクリル100%。
余談ですが、たんぱく質というと、だいぶ前のこと、発色がきれいということで選んだ布で縫ったドレスは、プロミックスという牛乳のたんぱく質から作った繊維の生地でした。絹のようにつやがあり、色鮮やかで縫っているときもたしかに絹のような感じでした。これもやはり摩擦などに弱い性質があります。いまはつくられていないのか見かけません。
▲それぞれ、No.1540-3.5㎜で、左からアズロン100%、アクリル100%、ポリエステル100%
リボン刺繍の素材としてやはり一番好きなのが絹です。絹のリボンは発色、しなやかさ、刺しやすさ、そして刺しているときの心地よさもあります。絹ということで高いかと思われるでしょうが、昔から使っているカードに巻かれていないものは、たっぷり入っていて、計算すると意外とお得です。
▲絹100%のリボン。袋の上に付いている厚紙を筒状にしてリボンを巻いてから使う。
このほかにも、これはリボン刺繍に使えそうと思ったリボンは、試しに刺してみるといいですね。実際に布に刺してみないとなかなか使えるかどうかはわかりませんが、しなやかで、針に通すことができたら試す価値はあります。そして、布との相性がいいかどうかも大事です。織ってある布ではだめでも、ニット地ならリボンが通る穴が広がるのでいいということもあります。
▲意外と刺しやすいオーガンジーのリボン。
リボンに折り目やしわがあるのでは作品がきれいに仕上がりません。低温で軽くアイロンをかけておくといいですよ。
▲アイロンは動かさず、リボンを引くようにすると楽にまっすぐにできる。
カードなどに巻かれて売ってないリボンは、アイロンをかけてから使い終わったミシン糸の糸巻きに巻いておくとすぐに使えて便利です。
私が勉強したときの教材は絹のリボンでした。袋に入っていて自分で巻いて使います。付いている厚紙で紙の筒をつくって巻くようにと書かれていました。服飾手芸として勉強していましたので、学生はみんなミシンで服を縫っているわけですからミシン糸はたくさん持っていました。ミシン糸の糸が終わった糸巻きにリボンを巻くように教わりました。
だから、いまでもミシンの糸巻きは捨てずにリボンを巻いているのですよ。他にも折り目が付かないように厚みのある木の板でもつくってみました。
▲木の板でつくった糸巻きとミシン糸の糸巻きに巻いたリボン。
刺繍糸のお話でも書きましたように、保管は桐の箱にしまっています。紫外線が遮られることと、やはり日本ですから、湿気対策には桐です。桐の箱はわりと身近なところではそうめんの箱があります。ほかにも風呂敷や和装の草履とバッグなどでも桐の箱は使われているので、探してみるとよいでしょう。
▲桐の箱はそうめんの箱を利用。
後編ではリボン刺繍の道具についてお話しします。
Instagram:@tsukurira0714
安田由美子
針仕事研究家。文化服装学院で洋裁とデザインを学び、卒業後は同学院の教員として勤務。現在は洋服や刺繍作品のデザインとつくり方を手芸書に発表し、フランス手芸書の日本語版の監修も行っている。「つくりら」のコラム「素材と道具の物語」に執筆中。2017年11月に『はじめてでもきれいに刺せる 刺しゅうの基礎』(日本文芸社刊)を出版。10年続くブログ「もったいないかあさんのお針仕事 NEEDLEWORK LAB」では手芸書を中心に幅広く手芸の情報を発信している。http://mottainaimama.blog96.fc2.com/