更新日: 2017/10/30
文:安田由美子(もったいないかあさん NEEDLEWORK LAB) 撮影:天野憲仁(日本文芸社)
ヨーロッパの手芸書は日本の手芸書に比べると、つくり方説明があまり載っていなかったり、図も寸法もなかったり間違っていたりすることもけっこうあります。ほとんど空白みたいなページもあって、これで1ページと数えるの?って思っちゃうことも多いです。でも、作品の色づかいや雰囲気、写真に写る撮影小物までもほんとうにすてきで、その空白でさえ、ゆとりのようにも感じられることも。ながめているだけで気持ちいいのが洋書のよいところかと思います。
上の写真、いちばん奥の本です。表紙からもわかるように、すてきなお花の刺繡・・・。そういう本はいくらでもあると思うのですが、この本は、何がいいって、いろいろいいのです!
この本を買った何年かあと、実際にこの本に載っているパリのお店に行かれたという方からお話を聞く機会がありました。気が遠くなるほどすてきなものが置かれていたのだそうです。そうでしょうね、この本に載っている刺繡、どれをとってもうっとりするものばかりですから。
写真で見るとリネンの布の質も、相当、上質。縫製もしっかりしている様子。刺繡の絵がいい、配置がいい、色がいい、ステッチがきれい。
糸の色番号は見開きの右ページに書かれており、写真の左ページとセットになっているからわかりやすいですね。本の版が大きいから、図案もめいっぱい印刷してあってありがたいです。
飾っておいても、ながめても、つくっても楽しく、どのページひとつとってもこれは要らないと思うページがない。手芸の本はたくさん見てきたつもりですが、こういう本はなかなかないです。
書名:Broder les saisons : 90 modèles de la Maison Noël (フランス語)
体裁:199ページ、オールカラー(ハードカバー)
サイズ:縦288mm×横254mm×厚さ22mm
出版社:Solar(2009年5月20日発行)
著者:Adeline Dieudonné ,Martine Roy
書名は「古い時代のアルファベットのクロスステッチ」という意味。アルファベットのフランスらしい雰囲気に惹かれて購入しました。
▲こちらは本のなかからアルファベットを選んで刺したもの。大文字と小文字を合わせて1 over 1(織り糸1本を1目として刺す)で「FLUTE」の文字を。
SAJOU、ALEXANDRE、ROUYERと、100年以上前のメゾンのチャートがずらり。これらのチャートは100年以上前のもので、著作権は切れているからでしょうか、ネットで探せば、蚤の市などで元の図案集を手に入れた人が公開していたりします。小さかったり、鮮明でなかったり、ぼろぼろだったりする原本をきれいなチャートに起こし直しているものも見かけます。
チャートはかなりの数がありますが、この本は、ほんとにすてきなアルファベットを選りすぐって集めてあります。そして、見やすい色と大きさのきれいなチャートにして、実際にステッチしたらこんなだよという作品もいっしょに載せてくれているのです。
それらを見ると、そんな100年以上前のデザインも、今の時代でも十分魅力的だと再認識できます。こういう昔のチャートを集めた本はたくさん出版されていますが、中にはくせのあるデザインもあります。この本がよいのは、比較的、だれでも使いやすいデザインが多いことです。
▲シンプルなリネンのスリッパに、私のイニシャルの「Y」を刺して。
西洋の方が刺繡でデザインする着物や和風のものや漢字って、なんか違う?と思うことがあります。やはりその中で育った人が表現するものはしっくりくるというか、洋書のなかの花文字やアルファベットはやっぱりすてきだと思いました。
書名:ALPHABETS ANCIENS. A broder au point de croix (フランス語)
体裁:156ページ:オールカラー(ハードカバー)
出版社:Flammarion (1999年1月4日発行)
著者: Veronique Maillard
こちらは、2006年に買った本(写真・左)。この頃は、いろいろ糸を取り替えるのが面倒くさいと思っていたのか、1色で刺すのが好きでした。この本はチャートも見やすかったし、1色、あるいはテーマカラーが決まっていて、クロスステッチの良さが全面に出るはっきりした色とデザインですごく気に入っていました。
その後、たくさんの色の糸を使うものを刺すことも、複雑なデザインを刺すことも増えましたが、基本的にこんな潔い感じのデザインは好きですね。自分でクロスステッチのデザインをしていて思うのは、細かくしたり、たくさんの色を使うのもそれなりにむずかしいのですけど、細かいとある程度の形は表現できるということです。
一方、粗い目で、少ない色で表現するのは結構むずかしいと思うのです。四角のマスで表すということは、粗くなるとなんだかわかんなくなっちゃうんですよね。それに1色だと境目をはっきりさせるのに色を変えることもできませんし、クロスステッチですから糸の方向やステッチの種類を変えることもできませんから、むずかしいのです。
その点、この本は、それほど細かくはないのに、それとわかる的確な表し方です。細かくすれば、たくさん刺すことになりますから、最小限で表現して、刺せる、つまり、初心者でも刺しやすいということです。
文字が組み込まれたデザインやサンプラーがいろいろあるのもいいです。キッチンがテーマのところは、にわとりや卵、牛や、キッチンツールなどがバランスよく配置されてステッチしやすく、飾ったら楽しいデザインがたくさんあります。
真四角のデザインは真ん中にイニシャルのアルファベットを1文字入れて、クッションや額などの作品にして紹介されています。アルファベットのサンプラーもすっきりしていて大人かわいい感じで好きです。
書名:Petits points & Toile de lin (フランス語)
体裁:141ページ:オールカラー(ソフトカバー)
出版社: Marabout(2006年3月1日発行)
著者:Marjorie Massey
Instagram:@tsukurira0714
安田由美子(もったいないかあさん NEEDLEWORK LAB)
文化服装学院デザイン専攻を卒業後、同校に洋裁の教員として勤務。現在は刺繍や洋裁の手芸誌で作品を発表する傍ら、つくり方指導、フランス手芸書の日本語版の監修などを行う。2007年から始めたブログ「もったいないかあさんのお針仕事」は、手芸をたしなむ多くの人々に愛され、現在、480万アクセスを超える。 http://mottainaimama.blog96.fc2.com