更新日: 2017/10/06
文:安田由美子(もったいないかあさん NEEDLEWORK LAB) 撮影:天野憲仁(日本文芸社)
2回にわたって刺繍糸の話をしてきました。刺繍に使える糸は、ほかにもいろいろありますね。
釜糸と呼ばれる絹糸は生糸を精製したもので、日本刺繡独特のものです。撚りはかかっていません。蚕が口から出した糸21本で1菅、それを8~12菅合わせたものが1本となります。刺す目的によって自分で撚って使ったり、そのまま撚りをかけずに刺すこともあります。本数や撚りを変えて、目的の糸を自分の手でつくり上げて刺します。
一般には紙の管に2gずつ巻いて売られていることが多いです。
ハンガリー直輸入と聞いて買った糸があります。
▲『PUPPETS』8番のパールコットン糸。
よく見かけるDMCなどのコットンパール8番の糸と形も似ていて、でも、それよりはちょっと太い糸です。カロチャやマチョなどのハンガリー刺繍に使われます。
ハンガリーの刺繍でよく見かける色のように、どの色も発色がとてもきれいで、光沢があります。これで、ふっくらしたサテンステッチをするわけですが、色に励まされるというか、なんだか刺していてとても元気になるような色合いですね。
必ずしも刺繍用の糸として売られていなくても刺繡に使えるものもあります。
刺繍糸(2)の話でリネンの刺繍糸が気に入っていたけれど、つくられなくなってしまったと書きました。
刺繍に使う糸というものは、均一で途中にこぶのようなかたまりがあったり、細くなったり太くなったり、あるいは毛羽立ちすぎていたりすると、ちょっと刺しにくいのです。
リネンの糸でも、上質のアイリッシュリネンの編み糸などは刺繡にも十分使えます。つやがなく、素朴な感じで、未晒のリネンなどに刺すと趣があります。
▲リネンの編み糸。手前は小さな糸巻きに巻き直したもの。
刺繍の糸の仲間といえば、こぎん刺しや刺し子の糸もそうです。
こちらは、甘撚りで「こぎん刺し用糸」「刺し子用糸」として売られています。ちょっと花糸が太くなったような感じの糸です。技法にこだわらずにフリーステッチなどに使うとふんわりした仕上がりでそれもまたよいものです。
こちらは刺し子用の糸。
▲刺し子用の糸。奥の糸は「ぬくもり工房」の「日本の藍 刺し子糸」。瓶覗(かめのぞき)、浅葱(あさぎ)、納戸(なんど)、紺(こん)、紺青(こんじょう)の5色セット。手前は使い終わったカード巻きの紙に、好みのプリント柄を貼って再利用したもの。
インターネットの時代ですから、染物屋さんのオリジナルの糸なども手に入れることができるようになりました。個性的な素材だったり、色だったり、作品のアイデアを膨らませることができます。手芸屋さんではあまり扱っていない、絹や麻の糸もあります。コードやブレードなどを染めたものもありますので、刺繍糸と合わせてコーチングなどの技法で作品を作ってもいいですね。
ポリエステルの刺繍糸もあります。まず色落ちしないこと、そして、丈夫なのもいいですね。
▲右のカード巻きの糸がポリエステル。A.F.Eと書いてある糸は、京都の染色工房Endoの刺繍・織物部門として創設されたArt Fiber Endoのもの。上の糸2本は予め撚ってある絹糸。左の4本は麻糸。ブレード(手前)も刺繍糸と同じ色でブレード(手前)があるのも染織工房ならでは。
Instagram:@tsukurira0714
安田由美子(もったいないかあさん NEEDLEWORK LAB)
文化服装学院デザイン専攻を卒業後、同校に洋裁の教員として勤務。現在は刺繍や洋裁の手芸誌で作品を発表する傍ら、つくり方指導、フランス手芸書の日本語版の監修などを行う。2007年から始めたブログ「もったいないかあさんのお針仕事」は、手芸をたしなむ多くの人々に愛され、現在、480万アクセスを超える。 http://mottainaimama.blog96.fc2.com