カミキィさん(後編)|年齢・性別関係なく、紙さえあればつくれるのがおりがみの魅力。たくさんの人に実際に折って楽しんでもらうために発信し続ける。

カミキィさん(後編)|年齢・性別関係なく、紙さえあればつくれるのがおりがみの魅力。たくさんの人に実際に折って楽しんでもらうために発信し続ける。

初めての著書『カミキィの季節のおりがみ』が10万部を突破し、とどまることを知らない人気ぶりのおりがみ作家・カミキィさん。このたび待望の第2弾『カミキィの〈か和いい〉季節のおりがみ』が出版されました。インタビュー前編ではおりがみ作家になったきっかけ、アイデアの生み出し方などを伺いましたが、後編では、大人気のYouTube動画や本の制作エピソードなどをお届けしていきます。

撮影:鈴木江実子  文:酒井絢子

YouTube動画は時間をかけてつくる

YouTubeでは一番人気の「ねこのしおり」の折り方動画が再生数100万回を突破し、ますます注目が集まっているカミキィさん。人気作家ゆえ、ほかのチャンネルやサイトに無断で利用されてしまい、虚しい気持ちになってしまうこともあると言います。

「でもめげずにオリジナル作品の発信を続けてきたおかげで本を出すことができましたし、お仕事としての依頼もいただけるようになりました」

▲ライオンやネクタイをモチーフにした「父の日カード」。折ったものをカードにあしらったり、ラッピングに利用したり。カミキィさんのオリジナル作品は贈り物に添える提案も多く、折ったその先のアイデアが広がる。

見る側にわかりやすく、つくりながらワクワクがつのるカミキィさんのYouTube動画ですが、作成には丸一日くらいかかるそう。

「まず撮影前の準備。作品を用いた使い方の提案をするためのリース飾りなどを用意します。色や大きさのバランスを考えて修正しながらリース飾りをつくるだけで3時間くらい。サムネイル画像やオープニング映像のためにたくさんのモチーフをつくったりもします。つくりやすい折り手順を確認するのも大切。工程はひとつではないのですが、初心者の方にも伝わりやすく折りやすい手順になるよう何度も折って確認しています。撮影直前に『この方が簡単にできる!』と気づいて折り方を一部変更する、ということもたまにあるんですよ」

さらには、撮影が終わった後の編集作業やアップロードなどにも数時間。アップ後はSNSへの投稿で公開をお知らせするまでが、一連の流れ。

▲お菓子入れにもぴったりな「かぼちゃのおばけポケット」は、1枚でつくることができる。「1枚で2つのモチーフが作れたり、表と裏の色を効果的に使ったりといった、おりがみならではの表現ができたときはとても達成感があります」とカミキィさん。

最初の頃の動画は画像だけで音声はつけていなかったけれど、「声で説明して欲しい」というコメントを多くいただくようになってからは音声解説つきに。「ただ音声をオフにして見る方も一定数いるようなので、適宜、字幕解説を入れたり矢印を入れたりして画面だけ見てもわかるように気をつけています」とも。視聴者に寄り添い意見に柔軟に対応することも、人気の秘訣といえそうです。

▲和紙で作られた大人っぽい「サンタベル」。その折り方動画は、YouTubeでも人気。中に鈴を入れることができ、ツリーのオーナメントとしてはもちろん、並べて飾ってもかわいい。

 

手元にあればいつでも折れる、折り方の本

2018年に出版された初の著書『カミキィの季節のおりがみ』は、その当時、作品がたまってきて本を出せたらいいなと思っていたところに編集者からのお話が舞い込んだそう。「本当に出版が決まった時は信じられないような気持ちでした」

それまでの動画やSNS発信などはすべて一人作業。だからこそ、一冊の本をつくるために多くの人が関わることを実感したと言います。

「イメージカット撮影に立会って、スタイリストさんやカメラマンさんの仕事ぶりを間近で拝見できたのもいい経験になりましたね。初めて初校ゲラを手にしたときは出産のとき並みの感動でした!」

「本に掲載した作品は動画でつくり方を見られるものが多いにも関わらず、たくさんの方が本を購入してくださったのは本当に嬉しい」とカミキィさん。「ご自分の分だけでなく、お友達のお子さんにプレゼントしたり、学校の図書室に寄贈するためにもう一冊買いましたという声もあったり。ありがたいですね」

▲伝承作品のメダルを組み合わせた「七夕かざり」。昔から知られる折り方でつくられるものは伝承作品と呼ばれる。カミキィさんの本には伝承作品をアレンジした作品もいくつか掲載されている。

 

2冊目の本のテーマは「か和いい」おりがみ

第2弾である新著の『カミキィの〈か和いい〉季節のおりがみ』は、「和」がテーマ。

「実は5年ほど前につくったおりがみのこけしを配したカードに『か和いい』というタイトルをつけていたんです。こけしに限らず日本のモチーフにはかわいいものが多く、少しずつそういった和モチーフ作品の試作をつくりためていました。最近は手ぬぐいなど和モダンなデザインの雑貨も多く目にするようになり、和テイストのものは女性に人気のようなので私から『か和いい』というテーマはどうかと提案させていただきました」

▲『和テイストで楽しむ カミキィの か和いい季節の おりがみ』を象徴するような、「干支のおりがみかざり」。リースに飾ったり、年賀状に貼ったり。カミキィさんのお気に入りは、シュルっとした舌を出した「へび」。

 

前作同様、12ヶ月ごとに作品を紹介する形の今作。

「前作と被らないように作品を選び、ひと月ごとのリースなどをつくるのは大変でした。その月らしい提案をするためのモチーフ選びが難しく、二十四節気の本を買って日本の行事について調べたりもしました」

たくさんあった和モチーフの試作ストックの中で、季節ものではない「さるぼぼ」や「はにわ」などは残念ながら掲載することができなかったそう。

▲こちらもカミキィさんのお気に入り作品、「門松の置きかざり」。緑色のおりがみ1枚で3本の竹をつくることができる。自分で折って飾ることで、気持ちよく新年を迎えられそう。

 

たった一枚の紙がコミュニケーションツールに

「今回の本のためにまた和柄や和紙をたくさん揃えたので収納を圧迫しています(笑)」というカミキィさん。現在、紙のストックは通常サイズのおりがみ(15cm角)がちょうど入る25cmのケースが8個分くらいだそうですが、収納しきれなくなりそうなので最近はあまり増やさないようにしているそう。

カミキィさんのお好みは、柄物なら水玉やストライプなど幾何学模様のものや、リバティ調の小花柄。「水彩タッチでにじんだような色合いの紙は単色おりがみとも組み合わせやすく、いい雰囲気が出るので便利です」

現在は100円ショップなどでもいろいろな色柄のものが販売されていますが、使いやすいものは少ないそう。「いずれは私が欲しい・使いたいと思う柄のおりがみをつくれたらいいなと思っています」

▲「どんぐり」や「いちょう」と動物たちが飾られた秋色のガーランド。和柄のおりがみを随所に取り入れることでより華やかに、秋のイメージを演出。

「おりがみは一般的には子ども向けというイメージがあるようですが、『子どものために本を買ったけれど私の方が夢中になってしまった』というお声もありました。年齢関係なく楽しめるところがおりがみの魅力のひとつだと思います。また、『施設でおりがみの飾り付けをしていたら周りの人が興味を持って話しかけてくれた』という方もいました。おりがみはなんとなくその場を和ませたり、周りとのコミュニケーションツールになったりする要素もあるのかなと思います」

インタビューの最後には、「みなさんのお気に入り作品はどれでしょう? この作品のここが好き、というご感想を聞かせてもらいたいです!」と本を手にとってくれた人に対してメッセージ。

おりがみという誰もが知るクラフトの中で、カミキィさんの作品がこれほど多くの人の心を惹きつけるのは、いつでも本や動画の向こう側にいる折る人のことを考えているカミキィさんの姿勢あってこそ、なのかもしれません。

 

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