更新日: 2020/08/12
共著『連続模様で楽しむ はじめてのこぎん刺し』(日本文芸社)の出版に合わせ、こぎん刺し作家「hanakogin」はなさんにお話を伺ったインタビュー。前編では、数ある手工芸の中でもこぎん刺しを選んだ理由や、こぎん刺しの魅力について伺いました。後編では、本の制作エピソードや図案づくりのヒントについてお届けしていきます。
撮影:蜂巣文香 取材・文:酒井絢子
「もどこ」と呼ばれる、単純な法則で描く約40種の伝統模様を、組み合わせやアレンジで変化を楽しむこぎん刺し。決まった技法と模様を用いるからこそ、その組み合わせや色づかいで表現に大きな違いが出てきます。
▲「結び花」と呼ばれるもどこをいくつか組み合わせた「花つなぎ」の変形バージョンを、ツヴァイガルト ダブリン(ドイツ製リネン)に刺したもの。もどこはワンポイントとして刺しても可愛らしい。
hankoginのこぎん刺しは、基本的に布は麻、糸は草木染めのもの。「色合いがたまらなく素敵なんです」とはなさん。
「こぎん刺しは、布と糸の種類や色、もどこの組み合わせで本当にいろいろな表情が生まれます。作品の大きさで模様の出方も変わってくるので、その作品に映えるような模様、それに合わせた布、そして糸を決めていきます。私の場合は、頭の中で想像を膨らまし、図案は起こさず、自分の感覚のままに刺して仕上げていきます」
▲上記の「変形花つなぎ」を連続模様の総刺しに。こぎん刺し用の麻布に刺しているため、縦長の菱模様に仕上がっている。「同じ模様でも布と糸の色が違うとがらりと雰囲気が変わるのも、こぎん刺しの面白いところです」
余白を設け、布地を生かしたレイアウトのデザインも多く見られるhankoginの作品。全体のバランスにはかなり気を使っているそう。
「ちょっとした違いでしつこい印象になってしまったり、なんだか寂しくなってしまったり。この感覚は人それぞれなので、万人に通ずるものではないとは思いますが、自分の感覚を大切にして吟味しています」
また、「伝統模様は、表だけでなく、裏側から見ても素晴らしいんです」とはなさん。『連続模様で楽しむ はじめてのこぎん刺し』には、反転模様のアレンジも多く掲載。連続模様のデザインの幅広さをたっぷりと楽しめる1冊です。
▲魚のうろこを連想させる「うろこ形」というもどこを連続模様に。右は、その反転模様。菱の中の模様は小さな花のように見えることから、「花十字」とも呼ばれるそう。
共著に掲載された作品は、これまでの作品や刺しかけだったものから、編集者がセレクト。さまざまなバリエーションのこぎん刺し作品が数多く紹介されています。
「基礎から丁寧な説明があるので、こぎん刺しをこれからはじめる方におすすめです。経験者の方にも、図案がたくさん載っているので、とても楽しめると思います。また、こぎん刺しの由来も詳しく載っているので、ぜひ多くの人に知っていただきたいです」
hanakoginの作品は、素材のあたたかみを感じる柔らかな色使いが印象的。作品に合わせて、色の選び方にも変化をもたせているそう。
「伝統的なこぎん刺し作品をつくる際は、弘前の『つきや』さんの麻布とこぎん糸を使っています。現代の生活に合わせた色味の作品は、細かい目のリネン布を使い、色合いが素敵な草木染めの糸でつくっています」
地の布とのコントラストがはっきりとした作品も、目に眩しいような印象ではなく、落ち着いた雰囲気。
「もともとくすんだ色が好きなので、赤ひとつ取っても、鮮やかなものではなく暗めの赤を選んでいますね。また、季節に合わせて違う色味に変えたりもします」
▲直線的な模様は、「篭目」というもどこの一部を切り取って仕立てたもの。曲線的な方は、「糸柱」というこぎん刺しの基礎模様でドットを繋いだ「雨だれ」。くるみボタンは、繊細で素朴な印象のこぎん刺しを仕立てるのにぴったり。
また、はなさんがこぎん刺しの魅力として挙げることのひとつが「音」。静かな空間の中で糸を引いていると、ちょっと気分が落ち込んだ日も、無心で針を動かすうちに心が穏やかになっていくと言います。
「糸と布が擦り合う音に、癒されるんです。ワークショップで教える際も、全員が集中しているときはこの音が教室の中に響きます。参加者のみなさんと『いいねー』と共有できたのは、嬉しかったですね」
ワークショップやイベントでも、こぎん刺しの技法を伝えながらその楽しさを共有しているはなさん。こぎん刺しそのものに惹かれているからこそ、ふだんの暮らしにもご自身の作品だけでなく、いろいろな作家作品を取り入れているそう。
「自分の作品だと、コースターがいちばん出番がありますね。リビングにはこぎん模様を施した刺繍枠の時計を置いています。こぎん刺しのピアスやブローチを身につけることもあります。愛用しているがま口や、部屋に飾っている『こぎんくまさん』は、私が好きなこぎん刺し作家さんのものです」
▲「花こ」「亀甲つなぎ」「竹の櫛」と呼ばれる模様をあしらったコースター。弘前市にあるホビーショップ「つきや」で購入したというこぎん刺し用の麻布を使用。「布本来の手ざわりも楽しんでいただけるよう、こぎん刺しを施すのは一部だけにしました」
伝統もさることながら、現代のつくり手たちにも敬意を払いながら、自分の感性をまっすぐにこぎん刺しに向け作品づくりに励むはなさん。どんな色合いの作品からも柔らかさを感じるのは、その姿勢とお人柄が表れているからかもしれません。
布と糸の種類、そして色。もどこを絶妙に組み合わせ、さまざまな表現を形にしながら、こぎん刺しの新しい世界を広げ続けます。
hanakogin はな
こぎん刺し作家。糸と布の素材や色にこだわりながら、津軽の女性が生み出した古典模様を大切に、手仕事で作品を制作している。東京や千葉を中心にイベント出店やワークショップなどでも活動。インスタグラムにて作品を発表中。共著に『連続模様で楽しむ はじめてのこぎん刺し』(日本文芸社)がある。
ホームページ:https://www.instagram.com/hanakogin/
インスタグラム:@hanakogin