更新日: 2020/08/11
「hanakogin」の屋号でこぎん刺しの作品を発表している、はなさん。やさしい色合いのなかに新しさも感じられる伝統模様のアレンジに、こぎん刺しの豊かな可能性が感じられます。共著『連続模様で楽しむ はじめてのこぎん刺し』の出版に合わせて、こぎん刺しの魅力についてお話を伺いました。前編・後編の全2回でお届けします。
撮影:蜂巣文香 取材・文:酒井絢子
繊細で美しい幾何学模様を、平織りの布に刺して彩る。こぎん刺しは、津軽地方で江戸時代に生まれた伝統の手工芸です。今もなお親しまれ続け、現代ではヘアアクセサリーやコースター、バッグなどの小物として実際に生活に馴染むアイテムを作る作家も増えています。
なかでも、伝統模様を絶妙に組み合わせ、柔らかな色合いで仕上げる「hanakogin」はなさんの作品には、ひときわ際立った感性を感じます。
「こぎん刺しは、農家の女性が冬の寒さをしのぐため、麻の野良着の粗い布目を木綿の糸で埋めて補強をしていたところから始まりました。女性たちの日々の暮らしの工夫と知恵で生まれた伝統模様は、それぞれに意味があり、想いもあります。その模様を大切に使わせていただいています」
こぎん刺しを始めてすぐの頃には、「こぎんの旅」と称して青森へ出向き、本場の作品に触れ、当時の生活を知り、津軽三味線を聴いたりしたというはなさん。歴史にますます感銘し、それからは民藝や伝統工芸品にも惹かれるようになったのだそう。
長く伝え継がれたこぎん刺しに惚れ込み、その長い道のりを慈しむように針を進めていることがわかります。
▲ホビーショーでビビッときて購入したという、藍染の糸で刺した作品、「糸流れ」「うろこ形」。染め具合によるグラデーションのような表情が楽しめるのは、幾何学的な模様だからこそ。
お母様の影響で、もともと手仕事に馴染みがあったというはなさん。編み物の基本も小学生時代にお母様から教わったそう。当時のことを伺うと、手芸にまつわる思い出話が次々とでてきます。
「妹が、母から一緒に習って自分で編んだポシェットを、いつも身につけている姿が可愛かったですね。私はフェルト小物もよく作っていて、作り方の本を眺めているだけでワクワクしました。当時お気に入りだったキュロットは母の手作り。布を買いに、一緒に自由が丘の手芸店までお出かけして、帰りにクリームあんみつを食べるのが楽しみでしたね」
自分の手でつくることの喜びと、つくったものへの愛着、そしてそれにまつわるさまざまな想いや思い出を、今も大切にしているはなさん。だからこそ、暮らしを背景とした伝統模様のこぎん刺しを敬う気持ちが作品に表れているのかもしれません。
▲こぎん刺しは直線的なイメージの模様が多いが、その繋げ方次第ではなめらかな曲線の表現も。波形の間に「かちゃらず」と呼ばれる基礎模様を配した、現代的なデザイン。
数ある手工芸の中でもこぎん刺しを選んだ理由は、ご主人の海外転勤でアメリカに滞在したことがきっかけ。アメリカで暮らすなかで、自分は日本の文化についてあまり知らないと感じ、日本らしいものをつくりたいと探し、たどり着いたのがこぎん刺しでした。
「刺し子にも挑戦したことがあるのですが、うまくいかず…。まず、線をちゃんと引けない。それに線の上を縫うだけなのに、なんだかまっすぐ刺せない。一度やって懲りました。その点、こぎん刺しは布の目を拾ってさすので、線を引く前処理をしなくて済むし、刺していくうちにどんどん模様が表れてくるのが楽しくて」
こぎん刺しは一つの模様ごとに刺して仕上げるのではなく、右から左へ横一列に刺し進め、段が増えるにつれ少しずつ柄全体ができ上がっていきます。「刺繍」と聞いて多くの人が思い浮かべるような、自由なフランス刺繍とは針の進め方も違います。
「編み物のような感じでしょうか。あと一段、あと一段と、刺せば刺すほどどんどん進めたくなります」とはなさん。
布の色、布目の大きさ、糸の色、糸の種類、そして「もどこ」と呼ばれる模様を、ご自身の感覚で選び取り、組み合わせ、たくさんの作品を生み出しています。
▲ワークショップでも課題になったしおり。「刺す部分が少ないので、参加者さんにゆっくりじっくり布と糸を選んでいただける」とはなさん。「布と糸の組み合わせでまったく雰囲気が変わるので、ワークショップは私も勉強になります」
日本らしいものを海外にも伝えたいと始めたこぎん刺し。現在はインスタグラムで発信し、海外の方からの反応も多いそう。
「知人に勧められてアカウントをつくってから3年ほど経ちますが、海外の方にもフォローしていただけるようになりました。微力ですが、こぎん刺しを世界の方に知ってもらえているのかなと思っています」
そして現在の夢は、「インスタグラムで発表している作品を本にすること!」。「自己満足ですが…」と謙遜しますが、集大成となる作品集は、日本のみならず海外でもきっと注目されることでしょう。
▲「石畳」のもどこを連続模様にしたコースター。「総刺しとは違い、部分刺しのコースターでは全体に占めるもどこの割合にこだわって作っています。納得がいくまで何枚もつくっているので、実は失敗作も数知れず……。」
3名のこぎん刺し作家さんによる共著『連続模様で楽しむ はじめてのこぎん刺し』でも、hanakoginの作品は数多く掲載されています。
編集者がセレクトしたという作品は、どれも色や模様のレイアウトのセンスに思わず唸ってしまうものばかり。はなさんに本づくりの感想を伺うと、「プロの方に撮ってもらうと、自分の作品がまた違うものに見えてきて新鮮でした」とのこと。
後編では、そんな『連続模様で楽しむ はじめてのこぎん刺し』のエピソードも交えながら、hanakoginのこぎん刺しについてさらにお話を伺っていきます。
hanakogin はな
こぎん刺し作家。糸と布の素材や色にこだわりながら、津軽の女性が生み出した古典模様を大切に、手仕事で作品を制作している。東京や千葉を中心にイベント出店やワークショップなどでも活動。インスタグラムにて作品を発表中。共著に『連続模様で楽しむ はじめてのこぎん刺し』(日本文芸社)がある。
ホームページ:https://www.instagram.com/hanakogin/
インスタグラム:@hanakogin