更新日: 2020/04/24
『手彫りスタンプで、アレンジをたのしむ 植物図鑑 図案集』の出版に合わせ、「HUTTE.」加藤絵利子さんにお話を伺ったインタビュー。前編では紙ものの作品や制作エピソードをご紹介しました。後編では、紙だけでなくビニールや布など幅広い素材におして広がる消しゴムハンコの楽しみ方について、お届けしていきます。
撮影:寺岡みゆき 取材・文:酒井絢子
加藤さんは消しゴムハンコについて、「自分の描いたデザインをとても手軽にスタンプにすることができて、繰り返し楽しむことができ、一つの図案でも組み合わせることでバリエーションも生まれるのが魅力」と言います。
▲海外のパン屋さんの紙袋からヒントを得たという麦のスタンプのアレンジは、ラフにおしただけのように見えるけれど、絶妙な配置バランス。「本番の紙におす前に別の紙に自由におしてみて、角度やつなげ方のベストバランスを探ってみると、いろいろな表情が見えてきますよ」
消しゴムハンコの一連の作業である、描いて、彫って、おすという手順の中でも、「彫る作業が本当に楽しい!! とにかく楽しい!」と加藤さん。彫りながら、どんな素材におしてどうやって使おうかを考えているのかと思いきや・・・、
「まったくイメージしていないんです。むしろその逆で、でき上がったスタンプからインスピレーションをもらっています。おしながら、あれこれ考えを巡らせたり」
▲『植物図鑑 図案集』の代表作ともいえる野ばらのスタンプを、文字や小さな植物のスタンプとレイアウトしたギフトボックス。デザインはフランスの刺繍新聞からヒントを得たそう。同じ図案でも、線を残して彫ったものと、面を残した彫ったものとで、イメージががらりと違って見える。
「コレのココにおすものを!と最初に考えてしまうと、自由に描けなくなってしまうんです。本に掲載する図案を考える際も、なるべく最初から素材や使い方を決めることはせず、まずはスケッチを描いてから、こうしようかな、こんな風に使えるかなと考えるようにしました」
基本は紙におすことが好き、という加藤さんですが、著書では専用のインクでビニールや布、箱、石、ガラスなどさまざまな素材にスタンプが使えることも提案しています。
▲プラスチックにもおせるインクを使って、オーソドックスなポーチやバッグをランクアップ。つるつるとした面にはインクをのせすぎるとヌルッと滑ってしまうので、適度な具合を見定めて。おしたらスタンプを真上に持ち上げることで、ブレを防ぐ。
▲スティックとリボンで仕上げたバルーンは特別な1日にぴったりのアレンジ。スタンプのポイントは「深めに掘り、余白をきちんと落とし、余分なインクがつかないようにしておくこと。おす際は沈み込むことがないように、バルーンをしっかりと膨らませて」。
「布におすなら、あまり細かすぎないデザインや、ある程度線が太いもののほうがきれいな印影が出ると思います。また、布地はラフなものだときれいにおせないので、表面がなめらかなものを選ぶとよいですね。石やガラスなどの異素材におす場合は、簡単な図案か、面が多い文字をデザインしたスタンプがおすすめ」
「見せる作品が好き」という加藤さんは、隠れ家のような雰囲気が漂うこだわりのアトリエにも、額装した作品をディスプレイしているそう。「スタンプをおした布を、籠にフワリと掛けて埃除けにしたり、小さめの籠バッグの目隠しとして使ったりも。古道具と組み合わせて飾るのが好きですね」
▲植物の種を描いたスタンプをおした巾着袋に、タグでさりげなく飾りつけ。タグの枠線は直線の練習にもぴったり。図案を拡大・縮小してほしいサイズを作っておけば、アレンジの幅が広がる。
「HUTTE.の描く植物たちが、日常にそっと寄り添うものになれたら」という加藤さん。春になるとアトリエのお庭で草花の観察が日課になっているそう。
「昨年は1つしか見つけることができなかった菫を、今年は4つも見つけたんですよ。そんな発見が嬉しくてしょうがないです!」なんていう言葉からも、単なるモチーフとして植物を捉えているのではなく、心から愛おしんでいるということが伝わってきます。
モチーフを愛しているからこそ描ける、美しく生き生きとした表現。HUTTE.の世界観がたっぷりと詰まった図案やスタンプは、いつもの日々に瑞々しい空気を運んできてくれそうです。
HUTTE.加藤絵利子
2004年に消しゴムハンコと出会う。2013年にHUTTE.に改名し、植物画をメインとした制作活動を開始。徐々に作家活動を本格化させ、国内だけでなく海外でも個展を開催。イベント出店、オーダー制作、デザイン提供など幅広く活動。著書に『ボタニカル図案集』(ブティック社)『手彫りスタンプで、アレンジをたのしむ 植物図鑑 図案集』(日本文芸社)がある。
インスタグラム:@huttestamp