みなみざわななえさん(後編)|つくった作品も好きだけれど、つくっていることに没頭している時間、それが何よりも楽しみです。

みなみざわななえさん(後編)|つくった作品も好きだけれど、つくっていることに没頭している時間、それが何よりも楽しみです。

『ほんものみたいなジュエルソープ』の著者、みなみざわななえさんのインタビュー。前編では、宝石せっけんとの出会いについて伺い、「クラックジェルソープ」のつくり方を見せてもらいました。後編では、子ども向けのワークショップがきっかけで編み出した独自の手法、「マーブルジェルソープ」のつくり方をご紹介します。

撮影:清水美由紀 取材・文:つくりら編集部

長野県小諸市で「宝石せっけん教室」を主宰しているみなみざわななえさん。著書『ほんものみたいなジュエルソープ』では、人気の宝石30種類の作り方を紹介しています。

 

「70名が一気にできる方法」を編み出した

宝石せっけんの一般的なつくり方は、MPソープの層をつくって重ねていくのですが、みなみざわさんのつくり方を見ると、そのほとんどが薄い板状にしてそれを丸めていく方法です。とってもユニークなつくり方の背景には、小学校で行った大規模なワークショップの経験がありました。


▲著書掲載作品「ローズクウォーツ」を実演。着色した2種類のMPソープをクッキングシートの上に流し入れる。

「小学校でのワークショップを頼まれたことがあったんです。1クラス40名、保護者も入れると70名くらいの大規模なものでした。それは『70名が一気にできる方法』で、みんなが失敗しない方法でなければなりません。このときに考え出したのが、あっという間に固まって、まるめてできる方法です。MPソープをクレープのように薄く伸ばして平たくしたら、そこに模様も描けます」


▲2液が混ざり合った様子。この工程で竹串などを使ってマーブル模様などを描くことができる。

ワークショップの当日は、大きなテーブルに6人1組。薄く伸ばしたソープをペラペラッとはがして、ビリビリッと破いて、美味しそうな生ハムみたいになったところを、一気にまるめて、今度はおにぎりに。


▲固まったらシートからはがす。


▲ビリビリと破いてパーツに分ける。


▲ビリビリッと破ったパーツは、まるで美味しそうな生ハム!


▲両手で包むようにして、丸くひとまとめにする。

クレープから生ハムに、そしておにぎりに変化する・・・。次々と美味しそうな姿を見せながら、最後に美しい宝石せっけんが誕生。まさに子どもの喜ぶポイントがぎゅっとつまった、ななえ式ジュエルソープ!子どもたちの瞳は宝石せっけん以上にキラキラと輝いていたに違いありません。

「ワークショップに参加した子どもからは、『いやなことがあったときに、この香りをかいで元気が出た』なんて言われたり。嬉しいですよね」

 

「簡単」と「きれい」に腐心した本づくり

著書発刊の経緯をお尋ねすると、「ホームページかSNSを見てくださった編集者さんから連絡をもらいました」とのこと。日々、美しいジュエルソープや楽しそうなワークショップの様子が更新されるみなみざわさんのインスタグラム。そこからは気さくなお人柄が垣間見え、「ああ、この人から教えてもらいたい!」という気持ちになってしまいます。


▲著書と一緒に掲載作品「ラピスラズリ」をディスプレイ。実物は本から想像してより大きかった。

小学校のワークショップでのお題は「70名が一気にできる方法」でした。本づくりにおいて編集者から出されたお題は「天然石にちなんだ30作品」。

さっそく天然石をおさらい。図鑑だと1つのイラストや写真だけしか載っていないことが多いので、インターネットを駆使してありとあらゆる写真をチェックし、その特徴をとらえていったのだそう。そして、天然石を美しく再現することに加え、みなみざわさんが自身に課したことは、「簡単にできること」と「きれいにできること」の2つ。

「つくり方が難しいとつくらないじゃないですか。色のバランスを考えるとちょっと変えたいところもありましたが、料理レシピもわかりやすい分量のほうがつくりやすいですよね。だから、最初に流し込むのは○gです、のように分量を統一したり、レシピも同じ製法でつくれるように心がけました」


▲同じような工程も混ぜる色が変わるだけで雰囲気の違う作品ができる。そのことが一目瞭然のつくり方ページ。


▲つくり方やテイストの異なる作品を集めたボックス。中段右から2晩目の白い作品はアロマストーン。こちらもみなみざわさんの手づくり。

天然石30種類といっても、実際は色が違っているだけという石も多い。そこに簡単だからこその難しさがある、と、みなみざわさんは言います。「それぞれの天然石の特徴が色を変えるだけで表現できる。そんな本になればと考えました」

 

楽しい時間は、美しい記憶をつくる

「みなみざわさんは、ご自身の作品の特徴、独自性はどんなところだと思いますか?」。これは、作家インタビューでいつも尋ねる質問。その人の美意識はどんなところにあるのだろう。どんな言葉が飛び出すか、毎回、全身を耳にして聞き入るのですが、みなみざわさんの答えは予期せぬ方向から飛んできました。

「クリエイターには2つのタイプがあると思います。1つは作品の完成度を求める人、もう1つはつくっていること自体を楽しみたい人。私は後者です」

清々しいまでの即答。そして、こう続けました。「『ペラペラッ、ビリビリッ』を、子どもたちと一緒に楽しみたいですね」と。


▲みなみざわさんが監修した『きらきら宝石せっけん 型つきでかんたんにつくれるキット (ガールズクラフト)』(学研プラス)は、おもに小学生を対象にしたキットつきの本。


▲キットはハートやダイヤモンドパンプスなど、可愛いモチーフのオリジナル型つき。「石けんを溶かす→着色→固める」という、子どもたちが大好きな実験的要素も盛り込まれている。

美しい手工芸。それは、完成品の美しさだけでなく、それをつくる工程においても人の心を豊かにするもの。みなみざわさんとお話しして感じたのは、美しいのは作品そのものだけではない、ということ。ものをつくり出す時間も、人の心を豊かにし、潤いを与えてくれるものなんだなあと。

作品には楽しかった記憶がつまっています。みなみざわさんのワークショップに参加した小学生がいみじくも言った言葉、「いやなことがあったときに、この香りをかいで元気が出た」といったような・・・。眺めるたびにそれが思いだされ、そっと包み込んでくれる、心の拠り所のような記憶。

「つくった作品も好きだけれど、つくっていることに没頭している時間、それが何よりも楽しみです。何かに没頭できる時間って、とっても素敵だと思いませんか?」。みなみざわさんは、きっぱりと、迷いなく言い放ち、黙々と行動に移す。唯一無二の楽しい時間は、こうして紡ぎ出され、多くの人たちに届いているのです。

 

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