田口奈津子さん(後編)|紙だけじゃない、小物だけじゃない。さまざまなアイデアで広がる消しゴムはんこの可能性

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田口奈津子さん(後編)|紙だけじゃない、小物だけじゃない。さまざまなアイデアで広がる消しゴムはんこの可能性

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前編では、田口さんのインスピレーションの源や著書『押して描く!消しゴムはんこ』についてご紹介しました。後編では、消しゴムはんこづくりの様子や、今後取り組んでいきたい活動などについてお届けします。

撮影:奥 陽子 取材・文:酒井絢子

消しゴムはんこだからこそできるいろいろな楽しみ方

「消しゴムはんこは、同じ配置だったとしても色を変えて違うものにできるし、構図を変えたり、いろいろと楽しめるのも魅力」と田口さん。


▲著書『押して描く! 消しゴムはんこ』に掲載された「春の花」「母の日」「誕生日」「ウエディング」などのパーツを使ったアレンジアイテム。押すものやレイアウトによって雰囲気も変わってくる。

紙の大きさを変えて何パターンか押してみたり、ほかのペーパーアイテムとコラージュをしてみたり、専用の粉をかけエンボスヒーターでぷっくりさせてみたり・・・。消しゴムはんこの“遊び”もいろいろ。


▲お花や鳥など、汎用性のある単体のはんこは、プレゼント袋、タグ、レターセットなどに便利。

押す数やインクの色を変えたり、アレンジ次第で表情ががらりと変化する自由自在の消しゴムはんこ。はんこができ上がったら嬉しくなってたくさん押してしまいがちですが、田口さんはどれも絶妙なバランスで上品に仕上げます。

 

わずかな妥協もゆるさない職人技!

『押して描く!消しゴムはんこ』でははんこを彫り、色づけをして押すところまで、工程がかなり細かく説明されています。掲載されている写真や図案はすべて手作業で制作したものを撮影したと聞き、さらに脱帽。

今回の取材では、実際に制作する田口さんのお手元も撮影させてもらいました。

制作した作品はお花のはんこ。まずはトレーシングペーパーに丁寧に図案を描き写していきます。線を描くペン先はとてもなめらか。失敗してしまったときは消しゴムで消すのではなく、新しい紙に替えるか、練り消しでそっと叩くようにするといいそう。


▲シャープペンシルはステッドラー社の製図用を愛用。生み出される作品とは対照的に、使い勝手を重視して選んだ道具は無機的なもの。


▲トレーシングペーパーがずれないよう、しっかりと押さえて。ペーパーは少し厚手のものの方が、汗などでもヨレず、転写の際に失敗が少ない。

なぞった図案をはんこ用の消しゴムに転写する前に、消しゴムの表面についている粉を落とします。この工程はとても大事で、粉が残っていると鉛筆の線がぼやけてしまうんだとか。田口さんはおそうじ用練り消しでぺたぺたと取ったり、水道の水でジャーっと流してしまうこともあるそう。

消しゴムに図案を写したらいよいよ彫っていきます。鮮やかに、シャッシャッと小気味よく刃を動かしていく様は完全に職人技! あっという間にひとつのはんこができ上がりました。

田口さんの相棒ともいえるアートナイフ(デザインカッター)ですが、消しゴムを彫る道具に特別な決まりはなく、カッターでも彫刻刀でも自分の手と相性のいい道具を見つけるのが大事と教えてくれました。


▲刃の方ではなく、消しゴムの方を回しながら彫っていく。線の内側の余白は印刀曲を使うと、刃の跡が残らずはんこの見た目もきれいに仕上がる。

 

「押すこと」への愛着とこだわり

消しゴムはんこでは、印鑑を朱肉につけるときとは違い、インクを手に持ち、はんこの印面をしっかり見ながらインクパッドをトントンと優しくはんこに当てていきます。インクパッドは小さめの方が扱いやすく、ムラになりにくいからおすすめだそう。


▲ムラがないかよく見ながらパッドを動かしインクをつけていく。端から端までぴったりつけて。

ムラや偏りがなくぴたっと押すコツは、小さなはんこでも片手ではなく両手で押さえ、力を入れすぎないようにすること。それに加えて、消しゴムの表面のわずかに浮いているところを指先で感じとりその部分は強めに押す、というポイントも教えてもらいましたが、それこそまさに熟練の感覚! 


▲レッドとグリーンでかわいらしい薔薇の花のでき上がり。同じ図案で彫る部分を反転させたはんこをつくれば、花びらの余白にも色が入る。

 

暮らしと共にあるお気に入りの作品たち

田口さんの作品は、アトリエのみならずリビングや廊下にも飾られ、明るくシンプルな空間を華やかに彩っています。紙に押した作品だけでなく、ブランケットやクッションなど、布にプリントした図案も多数。


▲展示用に額装した作品。その後ろにある、写真に収まりきらなかった作品のサイズはなんとA1! 手前の丸い形に描かれたかわいいお顔と花や鳥の図案は、リビングのクッションにもなっている。


▲アトリエのキャビネットの中に納められた原版。ハガキサイズ4枚を並べて横長にし、奥行きのある世界観を表現した作品。森の中でかわいい動物たちが遊んでいる。

納得がいくまで、図案を何枚も描き色を吟味して、押し具合にもこだわって、仕上がった作品は田口さんご自身もお気に入りのものばかり。丁寧に額装された作品を見ると、まず誰よりもご自身が作品を愛していることが伝わってきます。

さらに、お気に入りの図案はさまざまにアレンジして暮らしにも取り入れています。幅広く図案の応用ができるのも、消しゴムはんこならでは。

たとえば、こんな大きなブランケットになることも。


▲もともとはハガキの2倍の大きさの消しゴムはんこ作品を、印刷専門店に依頼し、拡大・プリントして制作した大きなブランケット。昨年のデザインフェスタに出展した際にも飾り、一際目を引いていたそう。

オーダーなどの問い合わせやはんこのみの販売の依頼もあるそうですが、「どうしても自分で押したい気持ちが強くて、真っ白なはんこのままお渡しできないんです(笑)」と田口さん。今後は、展示や講師の活動で消しゴムはんこの魅力を伝えながら、長年の夢である絵本づくりや、パッケージデザインも手がけたいそう。

次はどんな作品で見る人を感動させてくれるのでしょう。田口さんが広げていく消しゴムはんこの可能性に、ますますワクワクがつのります。

 

 

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