更新日: 2018/03/08
色鮮やかで美しい立体的な花、繊細な模様が施された昆虫、モチーフが贅沢に配置された豪華なバッグやネックレス。これらの作品をデザイン、制作したビーズ・フェルト刺繍作家のPieniSieni(ピエニシエニ)さんに、創作活動やフェルト刺繍の魅力についてお話を伺いました。前編、後編、2回にわけてご紹介します。
撮影:奥 陽子 取材・文:庄司靖子
昨年出版された共著『フェルトでつくる かわいい花とスイーツ』で花のモチーフを担当したPieniSieniさん。お話を伺うため、PieniSieniさんのアトリエにお邪魔しました。
アトリエは自宅リビングの一角。大きな窓から光が取り込める、とても気持ちのよい空間です。作業テーブルの周りには刺繍糸の見本帳や道具が首尾よく置かれ、動かずして必要なものがさっと手に取れるレイアウト。その配置はコックピットさながら。
こまごまとした材料の収納に大いに役立っているのが、閉店する手芸店に譲ってもらったという刺繍糸専用の引き出しです。大量の刺繍糸に加えて文房具のストックやビーズやフェルトの端切れなどがすっきりと収納されています。
刺繍糸専用ケースの隣りにあるのは、北欧のソーイングボックス。中を見せてもらうと、そこにはヴィンテージのボタン、セルロイドの石けん入れなど、PieniSieniさんの宝物がぎっしり。
「年代も国もバラバラですが、好きというフィルターを通して集めたものなので、何かしらの統一感があるのかもしれません」
DMCの糸見本帳は絶えずチェックするので、いちばん目につきやすいテーブルの上に。日本の古い家具は小引き出しがついているものが多いため、素材を入れるのに便利だそう。
「好きなものに囲まれて仕事をしたいので、ここに座って作業するのは至福の時間です」
刺繍糸ケースの上に積まれた色とりどりの花は、4月発売予定の著者本で撮影した作品。「花を組み合わせてブローチにするなど、実用的なものにアレンジもできるので楽しいですよ」
バラやガーベラ、ユリなどは繊細な刺繍で濃淡が表現され、フェルトが素材とは思えないほど。
近くで見てみると、土台のフェルトに隙間なく刺された刺繍糸によってグラデーションが表現されていることがわかります。
シートフェルトに刺繍して立体的な花に仕立てるこのクラフトは、PieniSieniさんが考案した、刺繍枠を使わないオフフープ技法による立体刺繍です。
「立体刺繍というクラフトは古くからありますが、私の考案したオフフープ技法は従来の立体刺繍とはやり方が違うんです。最大の特徴は、最初にフェルトをカットし刺繍糸でくるんでいくところ。フェルトをくるむので、縁の部分からも土台が見えなくなる、というところがポイントです」
考案した技法をもっと広く知ってもらい楽しんでもらいたいと、2017年、feltとartを組み合わせてfeltartという言葉をつくり、新しいジャンルのクラフト、フェルタートを誕生させました。フェルトに刺繍したりビーズで装飾したりして立体的な作品に仕上げていくクラフトです。
フェルトに刺繍を施す。百聞は一見に如かず、ということで、PieniSieniさんに制作方法を見せていただきました。
PieniSieniさんがフェルトに刺繍を始めると、そのスピードの早いこと!
「イベントでデモンストレーションをやることもあるので、スピードは大切です。刺繍のやり直しをしないこともきれいに仕上げるポイントです」
花びらの刺繍が終わったところ。大小数種類のパーツが重なって立体的なバラに仕上がっていきます。
フェルト刺繍に必要な道具も見せていただきました。フェルトに折り目をつけるのに便利なコテ、裁ちばさみ、つる首ピンセット、ボンドをつけるときに使う竹串。コンパクトデジタルカメラは記録用で、つくっては撮影し、パソコンに取り込んで整理しているそう。トレーは制作中に出るごみを置くためのものです。気になったのはエッグスタンド。「スタンド部分にパーツを入れて貼っていくと立体的に組み立てられるので重宝しています」
▲写真右は和裁用のコテ。裁ちばさみは人形町のうぶけやで購入したもの。
フェルトというなじみのある素材を使って芸術的な作品をつくり上げる。そんな発想と技術を合わせ持ったPieniSieniさん、さぞかし幼い頃から手づくりにいそしんできたのでは?と思いきや、「実は手づくりの経験はあまりないんです」とのお返事。なぜフェルト刺繍を始めたのでしょう?
「きっかけは、家を建て、カーテンやクッションカバーをつくり始めたことです。縫ったものが完成すると嬉しくて人に見てもらいたくなり、ブログを始めたんです。ところがブログに作品の写真をアップしていると、だんだんネタが尽きていってしまうんですよ」
▲リビングの奥の収納棚にはPieniSieniさんが集めた布がぎっしり。左奥の間仕切りカーテンなどご自宅のそこここに手づくりアイテムが。
そこで少し方向を変え、ハンドメイドレシピを紹介しているサイトにフェルトの花のつくり方を投稿するように。「それが、私が自分でレシピを考えてものをつくった最初でした」
しかし、フェルトを切って貼っていくだけの花では幅が広がらず、今度はフェルトに装飾を施すようになっていきます。フェルトに刺繍をし、さらにビーズやペップなど別の素材も加え、だんだん装飾性が増していきました。
「フェルトってどちらかというと子どもの手芸、というイメージが先行していますよね。それを、もう少し大人っぽくできないかと考えているうちに、刺繍でどこまで装飾していけるか試していきたくなり、今の形になったんです」
作品制作の仕事も舞い込むようになると、必要となる素材の量も格段に増えていきます。いまや作品の中核をなす素材となったシートフェルトですが、そのストック方法にもPieniさんならではの工夫が凝らされていました。
まだ使っていないシートフェルトは、日本の古い小引き出しに色別に分類。
使い始めでまだ面積の大きいフェルトは箱収納に。「こちらは義理の祖母から譲り受けた漆器の箱で、普段は机の上に置き、すぐに取り出せるようにしています」
小さくなった端切れや、型に切ったフェルトは刺繍用の引き出しに。新品のフェルト、使いかけ、端切れの順に収納場所を決めているので、探す手間がかからず無駄がありません。
フェルトとの“ツートップ”素材である刺繍糸も、実にシステマチック! 刺繍糸は専用の棒に巻き、見本帳と同じ順番にファイリングしています。
「デスクの上に置いた色見本帳で使いたい色を選び、実物を見てみると、雰囲気が違うなと思うこともあります。やはり面積が違うと色の感じ方が違うので、確認は大切です」
後編では、フェルトの魅力やコンテストに出品する意味、本に対する考えなどについてお話を伺います。
Instagram:@tsukurira0714
PieniSieni(ピエニシエニ)
ビーズ・フェルト刺繍作家。鮮やかな色使いと装飾性の高い華やかな作品が特徴。フェルトをカットしてから刺繍するオフフープ立体刺繍を考案。フェルトを装飾してモチーフに仕上げるクラフトをフェルタートと名づけ、普及に尽力している。AJCクリエイターズコンテスト金賞(文部科学大臣賞)、銀賞、銅賞受賞、手芸&クラフト展『贈る』展最優秀賞受賞など、数多くの受賞歴を持つ。著書に『フェルトと遊ぶ』(マガジンランド)、『フェルトでつくる かわいい花とスイーツ』(共著)(日本文芸社)など。3月に『いちばんやさしいフェルトの花づくり』(エクスナレッジ)、4月に『フェルト刺しゅうの花図鑑』(日本ヴォーグ社)の出版を予定。5月22日~27日まで東京・青山のGallery Paletteで作家3人の展示会「結う人 編む人 縫う人」展を開催予定。