更新日: 2018/02/07
シートタイプのフェルトでつくるスイーツは、かわいいだけでなく見る人をほっこりさせるあたたかみがあります。共著『フェルトでつくる かわいい花とスイーツ』でスイーツを担当したフェルト作家のRUKOさんに、フェルトとの出会いや、つくることの楽しさ・魅力についてお話を伺いました。前編、後編、2回にわけてご紹介します。
撮影:奥 陽子 取材・文:庄司靖子 取材協力:Ange
今回お話を伺うためにお邪魔したのは、RUKOさんの作品も販売している、手づくり雑貨を扱うお店。取材開始とともに作品が並べられるや否や、スタッフが皆「わぁ!」と歓声を上げました。テーブルには色とりどりのケーキやパフェ。そのかわいさに顔を近づけ、細部まで見入ってしまいます。きれいな縫い目で丁寧につくられているスイーツは、どれもRUKOさんがひとつひとつ縫って仕上げたものです。
RUKOさんがフェルトスイーツをつくり始めたのは12年前のこと。小さい頃からものづくりが大好きで、手仕事が得意なお母さんに手ほどきを受けながら、縫い物をしたり、自由に遊ぶものを工作したりして過ごしました。
「母の本棚には手づくりの本がたくさんあって、それが絵本替わりでした。周りにはいつも資料や素材がそろっていて、5歳のときには編み物もしていたんですよ」
▲フェルトはマットな素材なので、透明感やきらっとした表現には不向き。そこで、ビーズを縫いつけたり、別の素材をプラスして光沢を表現している。
そんな手づくり好きな少女が小学生のときに出会ったのが大高輝美さんのマスコットの本。「大高輝美さんの本が大好きでした。思えばあれがフェルトとの出会いだったんですね。あの本でブランケットステッチを覚えました」
洋裁や編み物などをずっと続けてきたRUKOさんがフェルトスイーツを知ったのは、ある通販の頒布会でした。でもそれはおままごと用だったので、試すことはありませんでした。
同時期にハンドメイド品を委託販売しているレンタルボックスでフェルトケーキを見つけますが、気になりながらも素通り。その後、偶然にも遊びに来た友達が目の前でおままごと用フェルトケーキをつくり始めたのです。ずっと気になっていたフェルトスイーツが短期間に次々と目の前に現れ、RUKOさんは驚きました。「これは私もつくるしかない!」とフェルトのスイーツをつくり始め、すぐにその楽しさに夢中になりました。
そこからは、どうやったら本物らしく見えるか、新鮮な果物に見えるか、試行錯誤の連続。
「フェルトをひねってみたりくしゃくしゃにしてみたり。こうしたらフレークに見えるかなとか、絞り出しクリームの別の表現はないかなど、いろいろやってみるんです。ラズベリーやワッフルやモンブランのつくり方も、あれこれ悩みました。試したものが形になるとうれしくて、どんどんつくっていきました。作家の間でも、少しでもリアルに見せたい、自分が考えたものを出していきたい、という雰囲気がありました」
RUKOさんの作品を見ると、フェルトでできているのに本物のような瑞々しさが伝わってきます。フルーツの断面の配色や刺繍糸を使った表現などから試行錯誤の成果を感じることができます。創作のベースには実物の観察があるのだろうと思いきや、本物はあまり見ていないという答え。「ケーキ屋さんで売っているケーキは、実はとてもシンプル。本物を参考につくると、おいしそうに見えないのです」
例えば、チョコレートケーキの上にラズベリーがちょこんと載っているものは、スタイリッシュでおしゃれだけれど、それをフェルトで再現すると、ひどく寂しいものになってしまうのだそう。「土台の形と、上に載せるもののバランスを考える、そのアプローチを大切にしています。だから私のつくるスイーツはモリモリなんです」
確かに、スイーツやクリームやチョコレートがふんだんにデコレートされているから、RUKOさんのスイーツを見るとうれしくなって歓声が上がるのだと納得しました。
取材にお邪魔したときにRUKOさんが取り組んでいたのは、いちごのショートケーキ。なんとフォトスタジオから全部で20個の注文を受けたものだそう。
▲依頼されてつくった直径20cmのデコレーションケーキ。オーダーは20個。
まさに“モリモリ”にいちごがデコレーションされています。近づいてみると、いちごは丸みを帯びていたりとがっていたり、アイテムによって形が異なっています。アクセントになっている紺のブルーベリーはヘタの周りを五角形に浮き上がらせて本物っぽさを表現。細部へのこだわりが完成度の高さを支えています。
「依頼品のデコレーションケーキ20個もあと1個で完成します。制作に追われて大変、と思ったことはあまりないんです」
いちごを縫う、その手さばきの早いこと!「刺繍糸は縫っていくうちに毛羽立ってやせていくので、フェルトを縫うときはポリエステルのミシン糸を使います。絞ったときにシワができないよう、縫い目を細かくするのがコツです」
愛用しているピンクッションは、100円ショップで見つけた陶器の薬味入れをアレンジ。「持ち手があって重さがちょうどよくて、便利なんですよ」
オリジナルの型紙は書類のようにファイリング。クリームやいちごなどの型紙はパーツごとに分類され、すぐに取り出せるよう、インデックスで整理しています。驚いたのは、クリームだけでもたくさんの型紙があること。これまで何種類もの形を考案してきたので、写真以外にもっとあるそう。
シートフェルトはレターケースに色別に収納。フェルトにはウールとポリエステル素材がありますが、実用的な作品は毛羽立たないようポリエステルを使うなど、ものによって使い分けているそう。「たまご色など、使いたい微妙な色合いがポリエステルだと手に入りにくいのが悩みです」
刺繍糸やビーズは透明ケースに整理して収納。色別に分類しておけばすぐに作業に取りかかることができます。
RUKOさんがつくるのは、ケーキだけではありません。「手づくり雑貨のイベントに出展するときはメロンパンやクッキーなどもつくります。見たことのあるものは子どもたちの反応がいいですね」
比較的つくり方がやさしいというパウンドケーキやマカロンは、『フェルトでつくる かわいい花とスイーツ』にも写真解説つきでつくり方が載っています。
パウンドケーキやクッキーの焼き色はパステルやアイシャドウで着色。また、いちごの断面のグラデーションは、ほお紅で表現。「ほお紅を使うというのは大高輝美さんのマスコットづくりで覚えたことで、今も当たり前のように使っています」
後編では、本やキットをつくるときのエピソードやフェルトスイーツの魅力についてお話を伺います。
RUKO(南木裕子)
フェルト作家。小さい頃から手づくりが好きで、編み物、縫い物、刺繍、織物など、様々なジャンルのクラフトを手がける。12年以上になるフェルトスイーツの創作活動では、制作のほか、作品やキットの販売、数々の手づくり雑誌や書籍にも携わり、つくり方も公開している。細部にこだわった丁寧なつくりのスイーツが人気。著書に『RUKOのフェルトのスイーツ』(主婦の友社)『フェルトでつくる かわいい花とスイーツ』(共著)(日本文芸社)など。http://ruko.sweet.coocan.jp/
Ange
麻ひもバッグとハンドメイド雑貨の委託販売店。1階はハンドメイド雑貨を扱うお店、2階はレンタルスペースとなっており、ワークショップや講座などが開催されている。
栃木県宇都宮市陽東7-6-29
Tel 028-662-0333
営業時間:10:00~18:00
定休日:木曜 日曜 祝日
ブログ:https://ameblo.jp/ange24224/