更新日: 2017/09/04
組みひも研究家の多田牧子さんのインタビュ―、後編です。前編では、組ひもの歴史や、多田さんが組ひもを手がけるようになったきっかけについてお話を伺いました。後編では、さまざまな組ひもの道具や素材、そして、世界じゅうに広がる組ひもづくりについてご紹介します。
撮影:上林徳寛 取材・文:梶 謡子
それまで専門的な技術書を数多く執筆してきた多田さんですが、ここ数年の組ひも人気に応えて、初心者に向けた本も手がけるようになりました。より手軽に組ひもづくりを楽しんでほしいという思いから多田さんが考案した「組ひもディスク」は、世界じゅうで大ヒットし、ミリオンセラーに。
▲多田さんが自ら出版した組ひもの本。専門性が高く、丸台や高台、組ひもディスクや組ひもプレート、アンデスの組ひもなど、多田さんがこれまでに培った組みひもの知識と技術が余すことなく紹介されている。
▲組みひもディスクと毛糸を使って、記者も組ひもづくりに挑戦。丸台と同じ原理で、より手軽に組ひもづくりが楽しめる。戸惑いながら手を動かし始めたが、要領がつかめるとすぐに夢中に。取材中にキーリングが2個完成。
「前著ではこのディスクを使った作品を提案したので、新著『うつくしい組ひもと小物のレシピ』では丸台に限定し、基本から応用までをじっくり紹介することに。丸台は何と言っても両手が使えますので、速く、そして美しく組むことができます。色づかいや用途については、編集部からの提案を取り入れ、アクセサリーなどを加えて、より身近に楽しめるよう工夫を凝らしました」
▲丸台を使って組ひもを組む多田さん。両手を同時に動かしながら、糸の位置を入れ替えることで、少しずつ糸が組まれていく。
▲こちらは高台。高台を使うことで平らに組むことができる。糸を1本ずつ交差させていくので、より繊細なデザインに。
▲糸を掛けている両端のコマ(汽車)は取り外して移動できるようになっているので、糸の移動がスムーズで、速く制作できる。
▲糸端についている糸巻きはおもり玉と呼ばれ、糸を巻きつけて使用する。糸の長さを調節し、糸に張力を与えるためのおもりの役割も果たしている。
▲組ひもづくりに欠かせない絹糸。8玉用、16玉用、24玉用という具合に、組ひもづくりがしやすいように束の状態にして販売されている。手前から3束の糸は多田さんのオリジナル。
▲初心者の方にも扱いやすい少量パックの絹糸は全80色。『うつくしい組ひもと小物のレシピ』の掲載作品は、すべてこの糸を使用して制作。
▲唐組台に使用される紛糸(まがいと)。細く撚られたもので、独特の風合いを持つ。
日本で組ひもが若い世代の注目を集めるようになったのはここ数年ですが、実は世界じゅうに熱狂的なファンが存在するときいてびっくり。
「国が違えば色づかいもガラリと変わって、とてもおもしろいんです。オリジナルの組み方を生みだすことができると知って、驚く人も多いんですよ」
▲「組ひもにビーズを加えたことで、ジュエリーのような美しさが加わり、組ひもの可能性がぐっと広がりました」。右は、友人でもある組ひも作家、エイドリアン・ギャスケルさんの作品。左は多田さんが制作。
「組みひもについてもっと知りたい」という希望も多く、2010年には組紐・組物学会を発足。多田さんは初代会長を務め、現在、理事に。学会では一般にも門戸を開いており、自らワークショップの講師を務めることも。また、大学で教鞭をとるかたわら、奈良・平安・鎌倉時代につくられた組ひもの復元作業にもあたっているそう。
同時進行でいくつもの仕事をこなしながら、10月にバンクーバーで開催される作品展に向けて精力的に準備を進めています。
「疲れたら気分転換に自分のための作品づくりをしています。まさに、寝ても覚めても組ひも。知れば知るほどますます興味がわいて、飽きることがありません」
▲多田さんが制作した半幅帯(右)とショール(左)。一見、織物のようにも見えるが、これも組ひも。高台を使用することで幅広のものが制作可能になり、用途も広がる。
多田牧子
1970年日本女子大学家政学部被服学科卒業。2003年京都工芸繊維大学大学院博士課程修了。組物複合材料、組機に関する研究で博士(工学)の学位を取得。現在、京都工芸繊維大学大学院の非常勤講師、組紐・組物学会理事。日本の組ひもを約50年、アンデスの組ひもを約35年にわたり研究制作。また、平安時代の経巻の紐の復元なども行っている。『組紐総覧1丸台の組紐120』『組紐総覧7組紐ディスクとプレート2』(テクスト)、など著書多数。最新刊は『うつくしい組ひもと小物のレシピ』(日本文芸社)。海外からの研修生の受け入れや、海外でのワークショップ、作品展への招待に応え、海外に向けても組ひもの魅力を伝え続けている。