更新日: 2020/11/12
刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでをエッセイで綴ります。第8話のテーマは秋の葉です。
撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス
11月に入ると急速に季節が進むような気がします。日に日に朝夕の空気は冷たくなり、次の季節がすぐそこまでやってきているのを肌で感じます。しかし、本格的に寒くなるその前に、木々の葉が美しく染まる素晴らしい紅葉の時を迎えるのです。
晩秋の澄んだ青空には、赤や黄色のグラデーションがよく映えます。近づいてみると、ハナミズキの赤く染まった葉は、陽の光に照らされてステンドグラスのよう。少し日陰に入ると、今度は葉のシルエットが鮮やかな遠景に映し出されて、細やかなレース模様のように見えます。
赤い実をつけて、鳥がついばんでくれるのを待つ木々たち。その周りを小鳥たちは賑やかに嬉しそうに飛び回っています。
冬がやってきて命の休息の時を迎えるその前に、こんなにも美しい季節が用意されているなんて、いつもながら自然を司る神様の芸術に心は満たされます。
私がよく行くこの近所の公園は、明治時代に蚕糸業の試験場として使われていた場所で、往時を偲んで「蚕糸の森公園」と名がついています。森のように植えられた木々も当時のままなのでしょうか。どっしりと大地に根を下ろし、長い間その場所にいた安心感のようなものを感じます。
以前、まだ小学生だった息子とこの木々の間を散歩した時のこと。
「どうして大きな木のそばにいるとこんなに心が安らぐのだろうね」と言ったら、「にんべんに木って書いて『休む』って言うんだよ」と、何とも気の利いた言葉を返してくれたことがありました。多分誰かの入れ知恵だと思いますが、妙に納得したことを覚えています。
時に日々を生きるのが精一杯の人間は、その何倍も営々と命を保ってきた木々に、安らぎを覚えるのかもしれません。
この公園では他にも思い出があります。ちょうど今と同じ、落ち葉が散る頃のこと。小さかった子どもたちを連れて遊ぶうちに、このきれいな色とりどりの葉っぱを持って帰って、貼り絵を作ろうということになりました。
それで一生懸命きれいな葉っぱを選び出し、ビニール袋に入れる・・・という作業をしていると、一人の初老男性がじっとその様子を見つめているのに気がついたのです。失礼ながら、「怪しい人か・・・?」と緊張していると、ゆっくりとその人は近づいてきて一言・・・「芋でも焼くんですか?」と。
にこやかなその顔に、一気に緊張は溶けましたが、「貼り絵をするのです」とも言えずに、適当に笑ってごまかしたことを覚えています。落ち葉といえばその手もありましたね。
さて、当時を思い出し、私もきれいな葉を拾い集めました。ついでにカサつきの椎の実やサネカズラの赤い実も。帰ってきて並べてみると、その色合いの美しいこと。
今回はこの葉を主役にして、図案を作ろう。スケッチをしながら、何を作ろうか・・・構想を練り始めました。
マカベアリス
刺繍作家。手芸誌への作品提供、個展の開催、企画展への参加、ショップでの委託販売などで活動中。著書に『野のはなとちいさなとり』(ミルトス)、『植物刺繍手帖』(日本ヴォーグ社)、『刺繍物語 自然界の贈りもの』(主婦と生活社)。共著に『彩る 装う 花刺繍』(日本文芸社)ほか。季節の流れの中に感じる、小さな感動や喜びをかたちにしていけたら…と 日々針を動かしている。
https://makabealice.jimdo.com/
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