更新日: 2020/09/17
刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでをエッセイで綴ります。第6話のテーマは、パッチワーク。後編ではいよいよパッチワーク刺繍のポーチができ上がります。
撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス
9月に入って、美しい朝焼けを見られる日が多くなりました。朝暗いうちから起き、北向きの窓に向かって仕をしていると、ほんのりとガラス窓の外が染まっていることに気づきます。
慌てて東向きのベランダに出てみると、そこには素晴らしい光景が広がっているのです。コーラルピンクに染まった雲が、まだ仄暗い空に広がっていたかと思うと、太陽が昇るにつれオレンジ色になり、徐々に黄金色へと変わっていく。その美しさといったら・・・。
私は、このひと時を「大空劇場」と呼んで、密かな楽しみとしています。どんなに素晴らしいCGの技術を駆使しても、この美しさは作り出せないだろうなあと思うのです。
先日嬉しいことがありました。ベランダのオリーブの木が、3年目にしてようやく実ったのです。
実は、7月の終りに実をつけているのを発見し喜んでいたのですが、8月の日照りでこの実が全部シワシワになってしまったのです。どんなに水をやっても回復せず「もうダメかな」と半分諦めていました。ところが9月に入り雨が降ると、一雨ごとに生命を吹き返し、やがて丸々とした立派な実に育ったのです。あんなにシワシワになっていたのに・・・やはり天からの恵みの雨に勝るものはないのでしょう。諦めなくて本当に良かった。私まで天から励ましを受けているようで、心温まる嬉しい出来事でした。
植物の形の中でも「実」というのは命のかたまりのようで、何だかとても心惹かれます。今の季節、いつもの道の何気ない植え込みにも、よく見ると実がついているものもあり、思わずニンマリしてしまいます。
刺繍のモチーフにも私はよく何かしらの実を取り入れることが多いです。今回のパッチワーク柄刺繍にも実のモチーフを入れてみました。
さて、このパッチワーク柄。図案の参考にと引っ張り出してきたのは、以前集めていたリバティプリントの生地たちです。
ご存知の方も多いと思いますが、リバティプリントとはロンドンの老舗デパート、リバティが100年以上前からつくっているプリント生地のことです。柔らかで光沢のあるタナローンのコットンにさまざまなプリントが施された美しい生地たち。中でも植物柄は、伝統的なものから新しいものまでどれも素晴らしく、伸びやかに描かれた草花柄、かわいい色使いの小花柄、リズミカルな連続模様などどれも心惹かれるものです。
今手元にあるものは、娘たちの洋服づくりに熱中していた頃に少しずつ集めたものです。洋裁をほとんどしなくなり、ある時大量にあった生地を人に譲るなどして処分したのですが、リバティの生地だけは手放せず今も手元にあるのです。
今でも時々出してきては、色使いや構図の参考にすることもあります。今回のパッチワーク柄でも色使いの参考にしました。
さて、刺繍でつくったパッチワーク。ポーチの全面に刺繍するのは少し時間がかかりますが、小さな面積で次々と柄が変わるので、なかなか楽しい作業でもありました。みなさんもお気に入りの布を参考に刺繍でパッチワーク・・・いかがでしょうか。
マカベアリス
刺繍作家。手芸誌への作品提供、個展の開催、企画展への参加、ショップでの委託販売などで活動中。著書に『野のはなとちいさなとり』(ミルトス)、『植物刺繍手帖』(日本ヴォーグ社)、『刺繍物語 自然界の贈りもの』(主婦と生活社)。共著に『彩る 装う 花刺繍』(日本文芸社)ほか。季節の流れの中に感じる、小さな感動や喜びをかたちにしていけたら…と 日々針を動かしている。
https://makabealice.jimdo.com/
植物刺繍と季節のお話 第1話(前編)| 春は道草注意の季節です。
植物刺繍と季節のお話 第1話(後編) 小さな春の道草バッグ
植物刺繍と季節のお話 第2話(前編)| 風にそよぐやわらかい木の葉
植物刺繍と季節のお話 第2話(後編)| 新緑のカバークロス
植物刺繍と季節のお話 第3話(前編)| 雨が似合う6月の花々
植物刺繍と季節のお話 第3話(後編)| 「雨粒と6月の植物」の刺繍パネル
植物刺繍と季節のお話 第4話(前編)| ハーブの夏
植物刺繍と季節のお話 第4話(後編)| ハーブ刺繍のひもつきポーチ
植物刺繍と季節のお話 第5話(前編)| 青い花の数字サンプラー
植物刺繍と季節のお話 第5話(後編)| 青いリネンのハンカチ刺繍
植物刺繍と季節のお話 第6話(前編)| パッチワークにリスペクトを込めて