更新日: 2020/07/16
刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでをエッセイで綴ります。第4話はハーブがテーマ。前編ではマカベさん愛用のハーブレシピを公開してくれました。後編ではいよいよハーブ刺繍のひもつきポーチができ上がります。
撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス
いくつかのモチーフを組み合わせ、試行錯誤しながら刺繍図案ができ上がると、今度は色選びです。これがいつも悩ましい。
第1話の後編でも少し書いたように、図案が浮かぶと同時に色のイメージが湧き上がってくることもあります。しかしほとんどの場合は、これも試行錯誤しながらの時間がかかる作業です。
刺繍作品にとって、色はとても重要な要素で、同じ図案でも色使いにより全く雰囲気の違うものになります。こちらは以前作った「funny flower」という図案ですが、色によって雰囲気が変わることがよくわかるのでは?と思います。
右側は辛子色のベース生地に、メインはブルーの花、オレンジ色の茎・・・とコントラストが強めのはっきりした色を合わせて元気なイメージに仕上げました。左側はそのバリエーションとしてつくったものですが、グレーがかったピンク色の生地にピンクの花、ベージュの茎やグレーブルーの実など、優しい色味で落ち着いたガーリーな感じになりました。
さて、色選びで試行錯誤して道に迷ってしまったとき、解決策としてひとつの方法をご紹介しましょう。これは美大出身の友人に教わったものなのですが。
自分の好きな画集や雑誌などを開き、直感で良いなと思った絵や写真をじーっと眺めます。そして自分がなぜそれに惹かれるのか、形なのか色なのか、色の場合はその絵(写真)はなに色で構成されているのか。それを色鉛筆などの画材を使ってスケッチブックなどに抜き出していくのです。そうすると普段自分の使わない色が入っていたり、「このグレーが入っているからピンクが引き立つのだな」などということがわかったりします。
それを今度は普段使っている刺繍糸に置き換えてみます。刺繍を始めた最初の頃は、この糸を厚紙に貼りつけた配色表を何パターンも作っていました。今は、普段使う刺繍糸なら、だいたいの色が頭に入るようになりましたので、つくっていないのですが。
さあ、今回はどうしましょう。
ハーブの刺繍、そして季節は夏。
ハーブの瑞々しさを表すのにはやはり、グリーンかと思いますが、より清涼感を感じる仕上がりにしたい。ありきたりのグリーンよりもブルーがかった明るめのグリーンにしよう。生地は、この糸に白だとコントラストが強すぎるような感じがして、少し素朴さも感じるベージュに。
糸の色は1色だと地味な感じもするので、アクセントにもう1色。このブルーグリーンの強い色に負けない、濃いめのピンクを加えたら大人っぽさの中に程よい可愛さが加わって良いかもしれない。
こんな風にしてようやく色が決まり、布に図案を写したら、あとはやっとチクチク楽しい刺繍時間が始まります。
これを革ひもでぐるっと閉めるポーチに仕立てました。
夏のお出かけの時に持つ山葡萄のカゴにもぴったりでした。
マカベアリス
刺繍作家。手芸誌への作品提供、個展の開催、企画展への参加、ショップでの委託販売などで活動中。著書に『野のはなとちいさなとり』(ミルトス)、『植物刺繍手帖』(日本ヴォーグ社)、『刺繍物語 自然界の贈りもの』(主婦と生活社)。共著に『彩る 装う 花刺繍』(日本文芸社)ほか。季節の流れの中に感じる、小さな感動や喜びをかたちにしていけたら…と 日々針を動かしている。
https://makabealice.jimdo.com/