更新日: 2020/07/09
刺繍作家・マカベアリスさんが、めぐる季節のなかで出会った自然の景色や植物から刺繍作品ができ上がるまでをエッセイで綴ります。第4話はハーブがテーマです。
撮影:マカベアリス、奥 陽子(マカベさん) 作品制作・文:マカベアリス
夏至が過ぎ、陽の出ている時間がだいぶ長くなりました。朝は早起きの私ですが、ついこの前まで真っ暗だった時間も、もううっすらと明るんでいます。
陽がすっかり昇ってしまうと、真っ青な空に白い雲。今年もじわじわとあの暑い夏がやってきています。
特にここ数年は、地球温暖化の影響なのか、日本の夏も東南アジア並みに灼熱の季節となりました。
昔から暑いのは苦手でした。まず食欲がなくなり、そうすると体力がなくなり、夏バテで寝込む・・・ということを毎年繰り返していたように思います。
この頃はそうならないために、何とか工夫を凝らして栄養を摂るようにしているのですが、そんな夏の料理に欠かせないのがハーブ類です。我が家の小さなベランダでも数種類のハーブを育て、この時期の料理に役立てています。
オムレツにバジルを刻んで入れ、豚肉のローストにはローズマリー、鶏肉にはタイム・・・といつもの料理に爽やかな香りが加わって、自ずと食欲が湧いてくるのです。
なかでも気に入っているのは繊細な葉のディル。白身魚のカルパッチョやゆで卵のオードブルなど何にでも合うのですが、夏の時期よくつくるのはきゅうりのサラダです。
一口大に輪切りしたきゅうりに塩、レモン汁、オリーブオイルを入れて和え、ディルを刻み入れるだけなのですが、きゅうりとディルの香りのバランスが絶妙で、火照った体をスーッとクールダウンしてくれるのです。
また、忘れてはならないのがミントです。この清涼感のある香りを嗅ぐと、私の心は20代の頃、一年あまりを過ごしたイスラエルに一気に飛んでいくのです。
その頃、語学を学びながら過ごしていた小さな部屋の入り口には、びっしりとミントが自生していました。紅茶を飲むときなどはよく摘んできてミントティーにして楽しんでいたものです。
イスラエルの夏、日中は気温40度以上になる時もあり、外に出るのは危険なほどです。太陽が沈みかけ、涼しい風が吹いてくると、ようやく外に出て、歩いてすぐのホストファミリーの家に出かけます。
そんなある日の夕方、外のテラスで涼みながら、ホストファミリーのお母さんが出してくれたのが、ミント入りのレモネード。一口飲んで、その美味しさに驚きました。暑さを過ごした体が、まさに欲していた味。
「おいしいでしょう?」とお母さんは私の顔を見ながら微笑んでくれました。
ゆっくりと陽の光が落ちていく中、テラスの白い椅子に座り、庭の植物を眺めながら、共に過ごしたあの時間は忘れられません。
ミントとレモンの輪切り、蜂蜜をたっぷりジャグに入れて少しの湯を注ぎ、氷で一気に冷やして作るミントのレモネード、今でも夏になると時々つくり、あの頃を懐かしんでいます。
さて、7月はこの素晴らしいハーブたちに、尊敬と感謝の意を込めて、ハーブの刺繍をすることにしましょう。暑さに弱りそうな時も、このハーブたちが、良い香りとともに励ましてくれるかもしれません。
マカベアリス
刺繍作家。手芸誌への作品提供、個展の開催、企画展への参加、ショップでの委託販売などで活動中。著書に『野のはなとちいさなとり』(ミルトス)、『植物刺繍手帖』(日本ヴォーグ社)、『刺繍物語 自然界の贈りもの』(主婦と生活社)。共著に『彩る 装う 花刺繍』(日本文芸社)ほか。季節の流れの中に感じる、小さな感動や喜びをかたちにしていけたら…と 日々針を動かしている。
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