更新日: 2022/05/20
黄金色の麦の穂が実り、収穫の時季「麦秋」を迎えます。生命の強い気が天地に満ち渡ります。
文:猪飼牧子 撮影:清水美由紀 文・つくりら編集部
明日5月21日から二十四節気は小満です。
小満とはすべてのものが成長し、天地は生き生きとした生命で満ちあふれるという意味です。穏やかで暖かく、少し汗ばむような陽気の日も出てきます。陽射しに負けない鮮やかな色合いの草花が増え、目にも楽しい時季。青い空に映える紅色のベニバナもそのうちのひとつです。
ベニバナはキク科ベニバナ属、エジプト原産といわれています。紀元前2500年のミイラの衣服はすでにベニバナで染められていました。日本へは中国、朝鮮半島を経由して渡来。現在は日本全国で栽培されていますが、山形県の産地が特に有名です。
美しい紅色の花から採れるベニバナ色素は、古くから着物などの布帛(ふはく)や化粧品、食品の染料として人々の暮らしに寄り添ってきました。ベニバナの中には黄色と紅色の2色の色素が入っていますが、ほとんどが黄色で紅色はほんのわずか。紅色に染めるためにはまず黄色の色素を抜き、残った紅色の色素を採るという細かな作業をしていました。
このベニバナ色素を用いた有名なものに江戸時代の紅猪口(べにちょく)があります。これは手のひらサイズのおちょこに、ベニバナから抽出した紅を塗ったもので、紅猪口ひとつ分に約千輪ものベニバナが必要なほど、大変高価なものでした。
可愛らしい姿とは裏腹にベニバナには鋭いトゲがあるため、ベニバナ摘みは早朝、朝露でトゲが少しでも柔らかいときに行われました。それでもトゲに刺され、産地の娘たちの指は血で真っ赤に染まります。過酷な作業に、ベニバナの紅色は娘たちの血の色などといわれるほど。なんとも胸が締めつけられるお話です。
ベニバナの種子はベニバナ油 (サフラワーオイル) の原料としてよく知られます。花弁を乾燥させたものは紅花(こうか)と呼ばれ、血行促進や女性特有の不調や冷え性などに有効な生薬です。高級な黄色の染料、サフランの代用品としても使われたそう。
観賞用切り花としての用途もとても多いベニバナ。切り花として出まわるときは蕾のことも多く、一見、地味に感じますが、変化の過程は可愛らしく、固い蕾が一花ひと花、ほころんでいく姿はまるで花火のよう。咲きはじめはほんのりと黄色みを帯び、頬を染めるかのように少しずつ紅色になっていくのです。
*一部、再編集し掲載しています。
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【書誌情報】
『二十四節気 暦のレシピ』
猪飼牧子・清水美由紀 著古くから季節を表す言葉「二十四節気 七十二候」をテーマに、季節の移り変わりを花や植物で感じながら、ものづくりの楽しみを提案。
小さな変化を繰り返しながら、季節とともに四季をたどっていく植物。その時季の植物をアレンジメントや料理やおやつに生かしたり、心と体を健やかするハーブやアロマを活用したり、ちょっとしたおもてなしの小物をつくったり。二十四節気を植物とものづくりで体感できるアイデアとレシピ120を紹介します。
NEROLIDOL(ネロリドール) 猪飼牧子
フラワーアレンジメントやエディブルフラワー(食用花)、アロマテラピー、ハーブなどの植物教室を開催する傍ら、季節の花束、オリジナルブレンドハーブティー、ドライフラワーやプリザーブドフラワーなど本物の植物を使用したアクセサリーの販売などを手がける。植物が姿を変えながらも、生活に寄り添ってくれている「植物のある暮らしと装いを」を伝えている。
ホームページ:http://nerolidol-flower.com
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清水美由紀
フォトグラファー。生活を感じる旅、暮らしのあれこれ、健やかな食&住が興味の対象。雑誌やWebなどで「LIFE(生活、暮らし、人生)」にまつわる写真を撮影。日本&世界を娘とふたりで旅しながら写真を撮って暮らしている。美しい日常の瞬間を切り取った透明感のある写真は、国内外問わず、多くのファンを魅了している。
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