更新日: 2021/11/06
文:猪飼牧子 撮影:清水美由紀 文・つくりら編集部
明日11月7日から二十四節気は立冬(りっとう)です。
暦の上では冬のはじまりです。耳をかすめる風はいつしか冷たく、風になびく草木も寒々とした姿になってきました。
この頃になると野に咲く草花も少なくなってきますが、冬の間、私たちの目を楽しませてくれる植物にスイセンがあります。
スイセンはヒガンバナ科スイセン属、地中海沿岸原産。ヨーロッパ、アジア、中国を渡り、日本に入って野生化しました。現在、日本に多く自生しているのは、花が小さめで真ん中の王冠のような部分が黄色いニホンズイセン。一本の茎からたくさん花が咲くフサザキスイセンの変種とされています。
日本名の水仙(すいせん)は中国名を音読みしたもの。水辺のそばで咲いている清楚な姿やその香りを仙人に例えて名づけられました。
花びらのように見える部分は、外側三枚は萼、内側三枚が花弁。中心の黄色い王冠のようなところは副花冠(ふくかかん)と呼ばれ、花冠 (かかん、花びらの総称) や雄しべなどが変形してできたもの。ずいぶん変わった形態をしているのです。
スイセン属の学名はナルシサス (Narcissus) 。この学名はギリシャ神話のナルキッソスという美少年の話が由来となっています。ナルキッソスは、他人への冷淡な態度から、自分しか愛せない呪いをかけられてしまいます。
ある日のこと、ナルキッソスは泉のほとりで水面に映った自分自身に恋をしました。恋い焦がれた彼はその場から離れられなくなり、ついに命を落としてしまいます。すると、彼がいた場所から見たこともない美しい花が咲きました。この花こそがスイセンであり、美少年の名前をとってナルシサスやナルシスなどと呼ばれるようになったのです。
美少年ナルキッソスのように凛とした姿を湛えるスイセンは、濃厚で妖艶な芳香を持っています。その香りに誘われて思わず顔を近づけてしまいますが、じつはスイセンは毒草なのです。花や葉、茎、根にいたるまで、アルカロイドという有毒成分を持っています。葉の形がニラと似ていることもあり、誤って摂取して食中毒になってしまう例が毎年ニュースになるほど。切り口を触るだけでも炎症を起こす場合があるので、小さな子どもやペットがいる家庭では、手が届かない場所に置くよう注意しましょう。
清純そうで小ぶりな花形ながらも、魅惑的な香りを漂わせ、毒性も併せ持つスイセン。それはほかの草花に容易に溶け込まない、独特な存在感を物語っている気がします。
Instagram:@tsukurira0714
【書誌情報】
『二十四節気 暦のレシピ』
猪飼牧子・清水美由紀 著古くから季節を表す言葉「二十四節気 七十二候」をテーマに、季節の移り変わりを花や植物で感じながら、ものづくりの楽しみを提案。
小さな変化を繰り返しながら、季節とともに四季をたどっていく植物。その時季の植物をアレンジメントや料理やおやつに生かしたり、心と体を健やかするハーブやアロマを活用したり、ちょっとしたおもてなしの小物をつくったり。二十四節気を植物とものづくりで体感できるアイデアとレシピ120を紹介します。
NEROLIDOL(ネロリドール) 猪飼牧子
フラワーアレンジメントやエディブルフラワー(食用花)、アロマテラピー、ハーブなどの植物教室を開催する傍ら、季節の花束、オリジナルブレンドハーブティー、ドライフラワーやプリザーブドフラワーなど本物の植物を使用したアクセサリーの販売などを手がける。植物が姿を変えながらも、生活に寄り添ってくれている「植物のある暮らしと装いを」を伝えている。
ホームページ:http://nerolidol-flower.com
インスタグラム:@makiko_nerolidol/
清水美由紀
フォトグラファー。生活を感じる旅、暮らしのあれこれ、健やかな食&住が興味の対象。雑誌やWebなどで「LIFE(生活、暮らし、人生)」にまつわる写真を撮影。日本&世界を娘とふたりで旅しながら写真を撮って暮らしている。美しい日常の瞬間を切り取った透明感のある写真は、国内外問わず、多くのファンを魅了している。
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