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香ばしさが恋しくなったら燻製の出番! 茶葉がつくり出す煙の魔法に酔いしれよう

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撮影:宮濱祐美子 文:田村 亮(日用品&ワイン喫茶 Kirin Store店主、エアポケットマガジン「キリンダイアリー」編集長)

台風一過。
気温は季節外れの真夏日でも、光の透明感とそよぐ風の乾いたにおいに、つい先ごろまでの夏のそれとは明らかに違う微妙な差異を感じます。街は季節を確実に越えたようです。

こんな日は、自分が住む街から近くて少しだけ遠い、逗子の街を想います。住人の方にとっては日常以外の何ものでもないに違いないのだけれど、都心とその近郊で日々を送る私にとっては、ちょっとだけ非日常のトリップ感が味わえる、絶妙な距離感の海辺の街。とんびは空高く舞い上がり、過ぎ去った嵐をまるで名残惜しむかのようにまだ少しだけ高い波は、サーファーたちの恰好のバックスウェルとなっているのでしょう。

年に幾度か思い出したように訪れる逗子の街。その旅の積み重なったエピソードのいくつかを、自ら編集人を務めるエアポケットトリップマガジン「キリンダイアリー」創刊号でご紹介したことが、たかだか1年と少し前のことなのに、もう懐かしくさえ思い出されます。

「秋分を過ぎ秋の空気に包まれると、香ばしいものに惹かれます」と、逗子在住の人気料理家、中川たまさんは『暦の手仕事 季節を慈しむ保存食と暮らし方』で書いています。

ウッドチップを使わずに、茶葉とザラメで燻製料理。ほうじ茶、番茶、紅茶、ウーロン茶……と、使う茶葉によって燻香も変わってくるのだそう。ベーコンに卵やチキン、ソーセージ、プロセスチーズにサーモン、秋刀魚と、なんでもござれ!日本酒好きの私にとって、燻製はそれは魅惑的、蠱惑的。年季の入った深緑のル・クルーゼを使い、そんな煙の魔法をいとも簡単に操ってしまうなんて、たまさん、ずるい。

保存食でめぐる季節を表現するという、一見パラドックスとも思える業を、料理家として著述家として、いとも軽々と、さりげなくこなしてしまう、たまさんの料理の手腕と巧みな筆致。

たまさんが鍋から煙をくゆらせているのは、海岸線から坂道をくねくねと登った先の小高い山の上、草木が生い茂る何気ない庭に臨んだ縁側の傍らの台所。西向きの小さな窓からは、それは美しい一色海岸の夕暮れが見渡せるのかしら・・・などというのは、逗子暮らしに憧れを抱き続けてかなわない、都会暮らしの一読者の勝手な妄想というもの。

かなわぬのなら、まずは小さくかなえよう。たまさんも愛用しているアラジンのストーブを店に運び込むその前に、自家製の燻製あれこれ。まもなくオンメニュー予定です。

 

写真は『暦の手仕事  季節を慈しむ 保存食と暮らし方』より。

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