更新日: 2019/03/18
もうすぐ4月。新しいことを始めたくなる季節です。お裁縫にまつわるあれこれを、針仕事研究家の安田由美子さんが深掘り解説する「大人の家庭科」。今回は、そんな新生活応援企画、雑巾のお話です。つくりおろした新しい雑巾で身のまわりを清めれば、心機一転、気持ちも引き締まりますよ。
文:安田由美子(針仕事研究家 NEEDLEWORK LAB) 撮影:天野憲仁(日本文芸社)
雑巾の起源は浄巾(じょうきん)で、拭き清めるための布だったという話を聞きました。現代では、台の上を拭くには台布巾、床などを拭くのは雑巾でしょうか。台の上を拭くには新しい布で、雑巾は使い古した布でつくると分けていることもありますね。
いまや雑巾も買う時代になってきましたが、この場合は新しい布で雑巾がつくられます。まだ使える布を活かしてあげる意味でも、古いタオルなどで雑巾をつくるのがいいように思います。
よく「ミシンの練習で雑巾を縫いましょう」と言うのを聞きますが、ミシンで縫った雑巾はちょっと硬い感じがします。手縫いの雑巾の方が柔らかく、手になじむように思います。あくまでも好みですが。
雑巾には綿の手縫い糸がよいように思います。20番や30番の糸だと2本どりにします。私は刺し子糸などを使うことも多いです。1本どりでも太いのでしっかり縫えますし、2本どりのようによじれてしまわなくて縫いやすいです。刺し子糸を通すのには普通の針だと穴が小さくてちょっと通りにくいときは刺し子針も使います。
▲左上から、手縫い木綿糸20番(カセ)、手縫い木綿糸30番、中段:刺し子糸、下段チューリップ刺し子針(太番手、細番手)、クロバー刺し子針、手縫い木綿糸20番(カード巻き)。
タオルは二つ折りでも三つ折りでも、あるいは四つ折りでも、好きな大きさに折ります。タオルが厚い場合は二つ折りがよかったりしますし、会社の名前などが入っているときは文字を隠すように三つ折りにしたりすることも。お子さんには薄手で小さめの方が絞りやすいですね。
薄手のタオルなどで小さめにつくりたい場合、両側を中心に折り込み、さらに半分に折ります。大きさがよくても厚みが気になる場合は、四分の一を切り取って、3枚重ねで縫ってもいいですね。
▲左から、フェイスタオルを4つに折って縫ったもの、3つに折って縫ったもの、2つに折って縫ったもの。
タオルの端はだいたい三つ折りになっています。このまま使うと、硬くて縫いにくく、乾きも遅いので、平らにしてから縫うとよいでしょう。使い古したタオルなら、糸も弱っていて、ミシン目は簡単にほどけます。ほどくのが苦手な方、タオルの端が擦り切れてしまっている場合などは切り落としてしまってもいいでしょう。
▲右上から、タオルの端を全部ほどいたもの、途中までほどいたもの、三つ折りのままの状態のもの。
縫い方に決まりはありません。人生でいったいどのくらい縫ったかわからないほど雑巾を縫ってきた母に言わせると、基本的には縦横に縫い、斜めには縫わない方が絞りやすいのではないかとのことです。斜めに縫うとバイアスに動くはずの織り地に無理がかかってしまうということでしょう。そこで、私がおすすめするのは、縦横のマス目に縫う縫い進め方です。
1 両端の三つ折りのミシン目をほどくか、切り落とします。
2 三つ折りの端の折り目だけは折ったまま、タオルを3枚重ねになるように折ります。
3 糸の端に玉結びをつくり、目立たない場所から針を入れ、端から並縫いします。
4 真ん中を縫います。
5 縦横にマス目になるように縫います。
▲マス目に縦横縫ったところ。
脇は並縫いで縫うか、厚かったりしてやりにくい場合はかがります。
6 玉どめをし、縫い目に針を入れ、玉どめの玉を布の中に引き込んで糸を切ります。
剣道で竹刀を握るような握り方で持ちます。この形で絞るとしっかり絞ることができます。
雑巾を十分に絞れないこともあります。その場合には雑巾の形を工夫します。輪になるように縫うことで、比較的簡単に絞ることができます。
▲2枚重ねでわになるように縫った雑巾。
こうすると裏返して使うこともできますし、重なっているのは2枚なので乾くのも早いです。
綿の25番刺繍糸はつやが命。刺し間違えてほどいたりするとつやが無くなってしまうことがあります。新しい糸に取り替えると、そのたびにちょっとずつ残ってしまう刺繍糸。まだ色がきれいですし、もったいないですよね。試しにこの余った刺繡糸を使って布巾をつくってみたら、とてもきれいにでき上がりました。
▲余った刺繍糸を使って縫った布巾。
刺繍に使った針でそのまま布巾を縫う場合、フランス刺繍針を使っていたら、タオルや晒、リネンの生地などに刺します。先が丸いクロスステッチ針は普通の布には刺せないので、先丸の針でも刺せるドビー織りの生地などに粗く並縫いしていきます。余った糸を、ただ、縫いつけていくだけで、雑巾や布巾になります。糸の最初と最後は重ねて縫い、一針返し縫いをしておけば糸は抜けません。
▲水で消えるペンで先にマス目を書いておき、余った糸を縫いつけていくだけ。
雑巾のお話、いかがだったでしょうか? 後編では、お裁縫がいっそう楽しくなる、知っておくと便利なあれこれをご紹介します。
安田由美子
針仕事研究家。文化服装学院で洋裁とデザインを学び、卒業後は同学院の教員として勤務。現在は洋服や刺繍作品のデザインとつくり方を手芸書に発表し、フランス手芸書の日本語版の監修も行っている。「つくりら」のコラム「素材と道具の物語」に執筆中。2017年11月に『はじめてでもきれいに刺せる 刺しゅうの基礎』(日本文芸社刊)を出版。10年続くブログ「もったいないかあさんのお針仕事 NEEDLEWORK LAB」では手芸書を中心に幅広く手芸の情報を発信している。http://mottainaimama.blog96.fc2.com/
第1回 指ぬきとシンブル(前編)|正しく使うと手放せなくなるくらい、お裁縫の大切なパートナーです。
第1回 指ぬきとシンブル(後編)|シンブルは一針ずつすくっていくような縫い方のときに威力を発揮します。
第2回 運針(前編)|縫いたいところを適度な針目で縫えて、思ったように針を自由に動かせる。そのための練習が「運針」です。
第2回 運針(後編)|正しい姿勢が大事。針を持っていない方の手で布を上下に動かし、針が布に対して直角に入るようにしながら縫い進めます。
第3回 まつり縫い(前編)|裾のほつれを繕ったり、まつり縫いができれば、暮らしのなかで役立つことが結構あります。
第3回まつり縫い(後編)|「奥を流しまつりにする」や「和裁の三つ折りぐけ」。美しく仕上げる方法はまだまだあります。
第4回 布を切る道具(前編)|糸は糸、布は布。それぞれに使い勝手のいいはさみを揃えるのが、お裁縫が好きになるひとつの方法です。
第4回 布を切る道具(後編)|ロータリーカッターは、厚い生地や直線には直径45㎜、袖ぐり、衿ぐりのカーブには28㎜が便利です。
第5回 製図の道具(前編)|型紙をつくるときは、細くて濃い線が描ける筆記具を選びます。鉛筆なら「HB」よりは硬いものがおすすめです。
第5回 製図の道具(後編)|いちばん使う方眼定規は50cm。小回りの利く30㎝、少し長い60cmも揃えておくと作業がはかどります。
第6回 しつけ糸としつけの方法(前編)|1本持つなら、カセの綿しつけ糸「しろも」がダンゼンおすすめ。同じ長さに揃えておけば作業もはかどります。
第6回 しつけ糸としつけの方法(後編)|布がずれにくい「置きじつけ」、印つけ用の「切りじつけ」など、覚えておくと制作スピードと仕上がりに差が出ます。
第7回 待ち針とクリップ(前編)|長さ28mmの待ち針がミシンにも手縫いにも小物づくりにもちょうどいいです。
第7回 待ち針とクリップ(後編)|待ち針は、両端、真ん中、そしてその中間、と打っていくと、均等に打つことができます。
第8回 ほどくということ(前編)|目打ち、小ばさみ、リッパー。この3つの道具を使いこなせると、ほつれたときも、リメイクしたいときも、縫い目をほどくのが苦にならなくなります。
第8回 ほどくということ(後編)|手縫い、ミシン、刺繍。縫われ方や糸の密度によって、ベストなほどき方があります。
第9回 アイロンの種類とかけ方(前編)|仕立てのときも、洗濯後にも欠かせないアイロン。選び方とかけ方で、仕上がりが格段に変わります。
第9回 アイロンの種類とかけ方(後編)|綿や麻なら、スチームアイロンよりも霧吹きしてドライアイロンをかけるほうが、シワがきれいに伸びます。
第10回 作品の仕上げ方(前編)|刺繍やレース編みの作品を洗うときは振り洗いか押し洗いで。色落ちが心配なときはお湯ではなく水で洗います。
第10回 作品の仕上げ方(後編)|紫外線対策にはUVカットのアクリルケースが、湿気対策には桐箱での保管がおすすめです。
第11回 繕うということ(前編)|ほつれや破れを未然に防ぐのが「力布」や「力ボタン」。「虫食い」や「かぎ裂き」を直すには、アイロン接着の樹脂シートが手軽で便利です。
第11回 繕うということ(後編)|わざと目立たせてデザインを楽しむダーニングは、専用の道具がなくても、日用品や余り毛糸などでもできます。