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第11回 繕うということ(前編)|ほつれや破れを未然に防ぐのが「力布」や「力ボタン」。「虫食い」や「かぎ裂き」を直すには、アイロン接着の樹脂シートが手軽で便利です。

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お裁縫にまつわるあれこれを、針仕事研究家の安田由美子さんが深掘り解説する「大人の家庭科」。今回は「繕う」がテーマです。

文:安田由美子(針仕事研究家 NEEDLEWORK LAB) 撮影:天野憲仁(日本文芸社)

「繕う」。使い捨ての時代ではあるものの、再び、「よいものを使い続けるのっていいね!」と、修繕しながら長く使うことが見直されているようです。

 

ほつれや破れを予防する「力布」や「力ボタン」

「繕う」と言っておきながら、まずはそれを未然に防ぐという話から。ここ、ちょっと大事なんです。そもそも、「ほつれ」を直すのと「擦れや破れ」を直すのでは、だいぶ違います。ほつれは、縫ってある糸を縫い直すことで元に戻せますが、擦れや破れは生地を隠すか取り替えるかしないといけません。

布に対して丈夫すぎる糸で縫われている場合は、ほつれやすくなります。たとえば、絹の布にポリエステルの糸など、布よりも丈夫な糸を使うと、力がかかったときに布の方が破れます。縫い糸は切れても布が大丈夫なように、布に極端に負荷のかからないような工夫をすることが必要です。

そのいい例が「力布(ちからぬの)」や「力(ちから)ボタン」です。シャツの衿先のボタン裏やコートやジャケットなどのボタンで、力がかかる場所についています。


▲ポケット口の裏側。丸い力布をつけてからポケットを縫いつける。返し縫いだけで止めるのではなく、三角や四角に縫って、力が一点に集中してしまわないようにする。


▲ボタンダウンシャツの衿先の裏側。ボタンつけ部分の裏側に力布がついている。


▲コートの裏についた力ボタン。

ニットのカーディガンなどでも自分でボタンをつけ直し、裏に力ボタンをつけておくと、ニット地が切れてしまわなくていいですよ。

 

ほつれの直し方1 縫い目が表に見えている場合

糸で縫われている部分がほつれている場合は、糸で縫うだけで直すことができます。ミシン目がほつれてしまった場合、たいていのところは手縫いで本返し縫いさえできれば直すことができます。

ミシンのステッチが表に見えている場合は、ミシン糸を使い、ミシン目と同じ針目の大きさで、バック・ステッチをしていきます。硬かったり、曲げにくかったりする素材や、厚いもの、裏に針目を出したくないものは、普通の針で「すくうようにして縫う」ことができません。そのようなときはカーブ針を使うのもいいでしょう。ミシンのステッチは目立つので、糸の色や太さはなるべく近いものを選び、直したところがわからないようにするのがコツです。


▲ミシンのステッチ(水色)を手縫い(赤)のバック・ステッチで直す。実際はミシン糸と同じ色の糸で縫う。


▲カーブ針。硬く曲げにくい素材、厚い素材や針を裏に突き抜けて縫えない場合に、すくって縫うことができるとても便利な針。

 

ほつれの直し方2 縫い目が隠れて見えない場合

2枚の布を中表に縫い合わせた「地縫い(じぬい)」は、表側からステッチが見えません。そこがほつれてしまった場合は、裏返すことができるなら裏から並縫い、または返し縫いをするのが簡単です。表からしか繕えないのであれば、布を交互にすくって引き締めます。

たとえば、クッションのミシンの縫い目がほどけてしまった場合などは、反対側の布と交互にすくう「渡しまつり」(「はしごかがり」ともいう)をします。「並縫いをしてから縫い代を割ったような」できあがりになります。丈夫に縫いたい場合は、これを本返し縫い、刺繍で言えばバック・ステッチのような返し縫いにするとミシンのようにしっかり仕上がります。


▲本返し縫い(左)と渡しまつり(右)で繕ったほつれ部分。縫い目を開いて撮影。

 

「虫食い」や「かぎ裂き」は修繕用品を上手に使う

ウール生地に生じやすい虫食いやかぎ裂きなどは、織り糸1本1本を織り込んでいく「かけはぎ」という手法で直せることもあります。これには高度な技術が必要で専門家にお願いすることになります。だからといって家庭で直せないかというと、修繕用品を使って直せるものもあります。

繕うための共布がない場合は、裏側に接着樹脂がついた布が便利です。必要なサイズに切り抜いてアイロンで貼り付けて使います。白や黒などはよく売られていますが、色数が少なく、ぴったりの色までは揃っていないのが難点です。


▲裏に接着樹脂がついたアイロンで貼れる修繕用品。市販のテープ状の補修布(左)や何色かセットになったもの(右)もある。

共布もしくは縫い代やポケットの内側などの布が使える場合は、その布を貼って修繕できます。布の接着方法はいろいろありますが、アイロンで接着できる樹脂シートが手軽で便利です。接着芯についている樹脂の部分だけがシート状になったようなもので、手芸屋さんで売られています。剥離紙ごと形に切ってアイロンで貼り付けます。引っかかりやすかったり、摩擦が大きい場所などは必要に応じて周りをかがるなどします。細く切ってテープ状になったタイプも売られています。テープも並べて貼れば広い面になりますから、たくさんは使わないという方はテープ状のものを準備しておくのもいいかもしれません。


▲左から、テープ状のもの、ボンドのような粘度のある液体のもの、アイロン接着できる樹脂シート。

アイロン接着できる樹脂シートは手軽に使えるのですが、はがすときにコツがあります。形に切ったあとに端からはがすと、生地の端が伸びて汚い仕上がりになります。面倒でも、剥離紙の中心のあたりを針などで破いてから外に向かってはがすと、端がきれいなまま貼ることができます。


▲アイロン接着できる樹脂シート。剥離紙をはがした状態。


▲剥離紙つきの樹脂シートをアイロンで布に貼り、剥離紙を真ん中から針で破く。


▲真ん中から破いたところから剥離紙をはがす。

 

編み地を目立たせないように直す方法

ニット、つまり棒針での編みものをする方であれば、ちょっとした穴でも毛糸のとじ針を使って、編んだときと同じように直すことができると思います。下の写真は全く同じ色の毛糸ではなかったのですが、近い白の毛糸を使って穴が開いてしまったところをとじ針で直したものです。


▲虫食いで穴が開いたところを直したもの。

縦方向にほつれてしまった場合は、「タッピ」や「ベラ針」といった昔からある道具で、一目ずつ編み直していくことができます。これは編み機で編み地をつくる際の針と同じ構造で、編み地の糸に適したサイズのベラ針があるとスムーズに直すことができます。


▲縦方向にほつれていった編み地。


▲タッピを使って直しているところ。


▲タッピ(ベラ針)。毛糸の太さに合ったものが使いやすい。

後編では、デザインとして楽しめる繕い、ダーニングについてお話しします。

 

 

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