更新日: 2019/01/21
お裁縫にまつわるあれこれを、針仕事研究家の安田由美子さんが深掘り解説する「大人の家庭科」。今回は手芸作品などの仕上げや保管の方法についてお話しします。
文:安田由美子(針仕事研究家 NEEDLEWORK LAB) 撮影:天野憲仁(日本文芸社)
お菓子を食べながらお茶を飲みながら楽しく刺繍をするのもいいですね。でも、その手、毎回洗ってから布をさわっていますか?
刺繍をする際に最初にしていただきたいのは手を洗うことです。手洗いができないときはウェットティッシュなどで拭くなどして、必ず手をきれいにしてから始めます。
でき上がったときはきれいに見えても、1年、2年すると時間の経過とともにシミのようなものが出てくるときがあります。絹糸の刺繍、リボン刺繍、洋服などに仕立てる刺繍など、でき上がってからでは洗えないものは、手で触る刺繍枠は当て布をして使う、台付きの大きな枠に張るなどして、できるだけ刺繍布に触らないで刺繍しましょう。そうすると後で洗わずに済みます。
▲テーブルの上に置くタイプの脚付きスクロールフレーム。2本の棒に布の端を留め、刺し場所を移動するときにスクロールさせると縦に長い布でも刺せる。
▲丸く穴を開けた当て布を刺繍布の上にのせて丸枠にはめた状態。当て布をつかむことで刺繍布が手の汗などで汚れるのを防ぐ。
▲左の脚つきの枠は、Apollonの刺繍台Delphes(デルフ)。右側は画材のキャンバスを張っていない木枠。刺繍布を画鋲などでとめても使える。
「手をきれいに」が大事なのは、レース編みも同じです。また、レース糸をそのまま転がしておいて編むのではなく、箱や器に入れて汚れないようにしながら編むようにしましょう。ケースに入って売られているレース糸もあります。
▲左のレース糸立てはDIYショップで見つけた丸い板と円柱の木材で手づくりしたもの。中央と右はプラスチックケース入りで売られているレース糸で、ふたにあいている穴からレース糸を引き出して使う。
刺繍枠を使わなかったり、手で布をつかんで刺繍したりすると、仕上がるまでになんとなく薄汚れてしまいます。その場合は、洗える生地、糸、技法であれば、洗ってから仕上げます。
まず、布がゆったり入る大きさのたらいなどを準備し、できるだけしわにならないように水に浸します。色落ちの心配のないものはぬるま湯で、色のあるものはお湯ではなく、水を使った方が色落ち、色あせを防げます。洗い方はもんだりこすったりしないで、優しく振って洗うか、押して洗うくらいにします。長時間浸けると色落ちの可能性が出てきます。
洗剤は蛍光増白剤などの入っていないおしゃれ着を洗う洗剤を使いましょう。
▲左から、「海へ」、「プロウォッシュ」、糊付け用の粉末ふのり、洗濯糊「キーピング」(酢酸ビニル系ポリマー)。「海へ」は、水でも汚れがよく落ち、絹やウールにも使えてすすぎは1回でよい洗剤。粉末ふのりは工業用で、ふのりから成分を取りだして使いやすいよう粉末にしたもの。
洗いは手早く終わらせて洗剤が残らないようによくすすぎます。必要な場合は薄く洗濯糊に浸してから、少し水気を切り、白いバスタオルなどに挟んで水分を取ります。できるだけ平らな状態になるようにして乾かします。
▲新しいバスタオルだと水分を吸わなかったり、作品にタオルの繊維がくっついたりすることがあるので、洗って糊を抜いた白いバスタオルを用意する。
なかには色落ちが心配な刺繍糸もあります。少し古い時代の糸や花糸、赤系の糸などです。そんなときはいったんお湯に浸けて、色を出してしまい、乾かしてから使うこともあります。染料も日々改良されているので、最近ではそんなに色落ちする糸には出会わなくはなってきましたが。
事前に色落ちを見抜けず、刺し上がって洗ったら色落ちしてしまったこともあります。このときは、濡れている状態で色落ちを確認したので、濃い洗剤液に浸け、赤がにじまなくなくなるまで押し洗いをしたら生地は赤く染まりませんでした。乾いてしまうと染まった状態になって落ちにくくなる気がします。
水洗いして汚れをとった後、完全に乾いてしまうとしわがとれにくくなります。バスタオルなどで水分を取ったら生乾きの状態でアイロンをかけ始めるといいでしょう。
刺繍作品の場合、表の刺繍をふっくら仕上げたいので、アイロンマットの上に白いバスタオルを敷き、その上に作品を裏にして載せます。生地は横に伸びるので縦方向にアイロンを動かすようにします。必要に応じて当て布をして、アイロンをかけます。接着芯を張ってから刺繍した場合は、芯を張ったときと同じようにクッキングペーパーなどを当てるとよいです。
▲接着芯を張って刺繍した作品は、クッキングペーパーを当ててアイロンがけする。
綿のレース糸のレース編みでドイリーなどを編み上げると、少しよれっとしていますが、きれいに伸ばすと見た目がとてもよくなります。刺繍と一緒で、編む際にはよく手を洗ってから編みます。見えない汗などもついているので、特に白い糸などは刺繍と同じように少し洗ってもいいですね。仕上げに薄い洗濯糊に浸してから、タオルなどで水気を取り、手でのばして平らな状態で乾燥させるだけでもきれいになるときもあります。
編み目の種類や大きさによっては手で伸ばすだけではうまくいかないときもあります。その場合は、作品の下に型紙を置いたり、目安になるものを敷いてピンで押さえてアイロンでつぶさないように押さえて仕上げます。
レース編みドイリーのアイロン仕上げ
待ち針は、アイロンで溶けてしまうプラスチックのものは避け、シルクピンやガラスの頭のシルクピンを使いましょう。太い待ち針では刺した穴が残ってしまうことがあるので細い針に。
針の刺せるアイロンマットの上に置いて、あれば、型紙に合わせてピンを打ちます。私はスチーム用の当て布や不織布(接着芯のような樹脂のついてないもの)に印をつけてだいたいの目安にして、ピンを打っています。ピンはアイロンがけのじゃまにならないように打ちます。レース糸にピンのあとが残ってしまう場合は、ピンをはずしたあと少しスチームを当てて手で整えます。
ウールの毛糸で編んだものも、レースのドイリーと同じように仕上げます。型紙があれば、型紙をアイロンマットに置き、その上に作品を載せてピンを打ちます。つぶさないように気をつけながらスチームアイロンをかけて、冷めてからピンをはずします。
手編みニットのアイロン仕上げ
後編では、作品の保管方法についてお話します。
安田由美子
針仕事研究家。文化服装学院で洋裁とデザインを学び、卒業後は同学院の教員として勤務。現在は洋服や刺繍作品のデザインとつくり方を手芸書に発表し、フランス手芸書の日本語版の監修も行っている。「つくりら」のコラム「素材と道具の物語」に執筆中。2017年11月に『はじめてでもきれいに刺せる 刺しゅうの基礎』(日本文芸社刊)を出版。10年続くブログ「もったいないかあさんのお針仕事 NEEDLEWORK LAB」では手芸書を中心に幅広く手芸の情報を発信している。http://mottainaimama.blog96.fc2.com/
第10回 作品の仕上げ方(後編)|紫外線対策にはUVカットのアクリルケースが、湿気対策には桐箱での保管がおすすめです。
第9回 アイロンの種類とかけ方(前編)|仕立てのときも、洗濯後にも欠かせないアイロン。選び方とかけ方で、仕上がりが格段に変わります。
第9回 アイロンの種類とかけ方(後編)|綿や麻なら、スチームアイロンよりも霧吹きしてドライアイロンをかけるほうが、シワがきれいに伸びます。
第8回 ほどくということ(前編)|目打ち、小ばさみ、リッパー。この3つの道具を使いこなせると、ほつれたときも、リメイクしたいときも、縫い目をほどくのが苦にならなくなります。
第8回 ほどくということ(後編)|手縫い、ミシン、刺繍。縫われ方や糸の密度によって、ベストなほどき方があります。
第7回 待ち針とクリップ(前編)|長さ28mmの待ち針がミシンにも手縫いにも小物づくりにもちょうどいいです。
第7回 待ち針とクリップ(後編)|待ち針は、両端、真ん中、そしてその中間、と打っていくと、均等に打つことができます。
第6回 しつけ糸としつけの方法(前編)|1本持つなら、カセの綿しつけ糸「しろも」がダンゼンおすすめ。同じ長さに揃えておけば作業もはかどります。
第6回 しつけ糸としつけの方法(後編)|布がずれにくい「置きじつけ」、印つけ用の「切りじつけ」など、覚えておくと制作スピードと仕上がりに差が出ます。
第5回 製図の道具(前編)|型紙をつくるときは、細くて濃い線が描ける筆記具を選びます。鉛筆なら「HB」よりは硬いものがおすすめです。
第5回 製図の道具(後編)|いちばん使う方眼定規は50cm。小回りの利く30㎝、少し長い60cmも揃えておくと作業がはかどります。
第4回 布を切る道具(前編)|糸は糸、布は布。それぞれに使い勝手のいいはさみを揃えるのが、お裁縫が好きになるひとつの方法です。
第4回 布を切る道具(後編)|ロータリーカッターは、厚い生地や直線には直径45㎜、袖ぐり、衿ぐりのカーブには28㎜が便利です。
第3回 まつり縫い(前編)|裾のほつれを繕ったり、まつり縫いができれば、暮らしのなかで役立つことが結構あります。
第3回まつり縫い(後編)|「奥を流しまつりにする」や「和裁の三つ折りぐけ」。美しく仕上げる方法はまだまだあります。
第2回 運針(前編)|縫いたいところを適度な針目で縫えて、思ったように針を自由に動かせる。そのための練習が「運針」です。
第2回 運針(後編)|正しい姿勢が大事。針を持っていない方の手で布を上下に動かし、針が布に対して直角に入るようにしながら縫い進めます。
第1回 指ぬきとシンブル(前編)|正しく使うと手放せなくなるくらい、お裁縫の大切なパートナーです。
第1回 指ぬきとシンブル(後編)|シンブルは一針ずつすくっていくような縫い方のときに威力を発揮します。