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第6回 しつけ糸としつけの方法(前編)|1本持つなら、カセの綿しつけ糸「しろも」がダンゼンおすすめ。同じ長さに揃えておけば作業もはかどります。

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手芸や洋裁の基礎本にはあまり詳しく載っていない・・・お裁縫にまつわるそんなあれこれを、針仕事研究家の安田由美子さんが深掘り解説する「大人の家庭科」。今回のお話は、しつけ糸としつけの方法。前編では、しつけ糸の種類をご紹介します。

文:安田由美子(針仕事研究家 NEEDLEWORK LAB)  撮影:天野憲仁(日本文芸社)

 

しつけははずす前提のもの

一般的な言葉として「しつけ(仕付け)」は、「しつけのいい」「厳しくしつける」のように、マナーを身につける意味の「躾(しつけ)」としてよく知られている言葉です。

縫い物では、「しつけをする」「しつけをかける」「しつけで押さえる」などと使い、ミシン縫いで縫い目がずれないように仮止め、あるいは仮縫いで粗く縫ったり、縫い代の落ち着きをよくするために固定するようなときに使います。

下の写真は、スカートのベンツ(重なりのある「あき」のこと)で、新しいジャケットのベンツやスカートのプリーツを押さえてあるしつけも着るときにははずします。このように、しつけは縫い目が落ち着くまで付けておき、着る前にはずすものでもあります。


▲しつけされたスカートのベンツ。


▲留め袖の衿先。縫い代が落ち着くようにしつけがかけられている。新しい着物には衿下や袖や裾などにもしつけがついている。

洋裁の縫い代付きパターンをつくって縫う場合は、待ち針などもしないで縫っていきますから、ましてや、しつけをして縫うという部分はほとんどありません。それでも仮縫いや、一点物の仕立て、高級素材など、しつけを必要とするものもあります。取ってしまうものだからと安易に考えず、適した糸と縫い方を選びましょう。

 

しつけ糸の種類


▲上から下、左→右の順に、ダルマ綿しつけ糸(しろも)、しろもチーズ巻き、ダルマ綿しつけ糸カード巻、ナカガワ絹しつけ糸カード巻き、絹しつけ糸スプール巻(あい白)、オリヅル瓦斯しつけ、日本刺繍用のぞべ糸(金茶)

 

綿しつけ糸 

「しろも」とも呼ばれる、さらしていない生成りのカセ糸が一般的。撚りが甘くて毛羽があります。ギャザーやぐし縫いをしたときに、つるつるした縫い糸だと動いてしまうところを、毛羽があることによって、布が動かず、安定します。また、切りじつけのときには布から抜けにくくなります。2本どりにすれば甘撚りでも丈夫ですし、1本なら手でも切れます。何かにつけて活躍する糸です。カード巻きで真っ白な「綿しつけ糸」も売られています。

 

しろもを使う前の準備

カセ糸は輪にしたものを一か所切って、いつも一定の長さのものが取り出せるようにしておくと作業がはかどります。また、布や和紙でくるんでおくと手でつかんだり保管する時の汚れを防ぐこともできますし、糸がからまったりしてしまうことなく、最後まで使い切れます。

まず、カセ糸をほぐし、輪にします。

輪にした状態のカセ糸の幅よりもやや短めの布を用意し、片端に熱接着両面テープを貼っておきます。一番上が売られている状態のカセ糸、真ん中が輪にした状態、一番下がカセ糸をまとめた状態です。

しろものカセ糸のまとめ方

色が付いているのは「いろも」と呼ばれます。主な使い道は縫い方を教えるために目立つ色で見せるためでした。でも、仕立ての時は使いません。白い生地に「いろも」の繊維が残ってしまうと、目立ってしまうからです。ですから、まずはしろもだけ持つようにするといいと思います。


▲最初に切ってから使っていく「しろも」「いろも」は、からまったり汚れたりしないで最後まで使えるように糸を束の状態でくるんでおくとよい。上3本はソーイングペーパー(和紙)で巻いたもの。下3本は布で巻いたもの。

 

瓦斯しつけ糸

真っ白な、綿100%のしつけ糸です。瓦斯(ガス)しつけ糸というのは木綿糸の毛羽をガスの炎で焼き切ってつやを出す加工してある、毛羽の少ない滑りのよい綿しつけ糸です。綿ですから絹のしつけ糸より安価です。細く毛羽が少ないため、切りじつけには向かず、縫う印つけや押さえじつけに使うことが多いです。

 

絹しつけ糸

絹製のしつけ糸。和裁にも洋裁にも使われます。洋裁では絹物や高級素材の縫う印つけにも使います。カードやスプールに巻かれた形状のものがあります。「ぞべ糸」とも呼ばれます。「ぞべ」というのは、留め袖や喪服などの格の高い着物でよく見かけられる縫い代を押さえるための細かい白い点の並んだしつけのことです。「ぞべ糸」と呼ばれるのは本来、片撚り(単糸)の糸のこと。糸巻きにミシン糸と書かれている「絹しつけ糸」は片撚りではないですが、「ぞべ糸」と呼ばれることもあるようです。

「ぞべ糸」という名前では、朱色、金茶もあります。これは日本刺繍で金糸や銀糸をとめ付けるもので刺繍用として売られています。

綿のしつけ糸、瓦斯しつけ糸、絹しつけ糸を比較してみると、毛羽の違いがよくわかります。


▲一番上は、比較のための木綿手縫い糸。その下から順番に、しろも、しろもチーズ巻き、綿しつけ糸カード巻き、ガスしつけ、絹しつけ糸(カード)、絹しつけ糸(スプール)、日本刺繍のぞべ糸

後編では、しつけの方法についてお話しします。

 

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