更新日: 2018/06/25
「大人の家庭科」お裁縫編、第3回の前編では、普通のまつり縫い、流しまつりについてお話ししました。後編では、「奥を流しまつりにする」という縫い方と、直線縫いに役立つ「和裁の三つ折りぐけ」をご紹介しましょう。
文:安田由美子(針仕事研究家 NEEDLEWORK LAB) 撮影:天野憲仁(日本文芸社)
ボトムスの裾などでよく使われるのは「奥を流しまつり」と呼ばれる縫い方です。
スカートの裾などはロックミシンで始末されることも多く、この折り上げた折り代を「すくい縫いミシン」でほんの少しだけすくうようにして止めてあります。先にも書いたように、1本の糸で縫われているので、縫い終わりから縫いはじめの方向に一気にほどけてしまいます。
ですから、これがほつれてしまった場合や、スカートを自分で縫って裾をあげる場合、折りしろをでき上がりに折り上げたら、ロックミシンの部分を少しめくって内側を「流しまつり」でまつるのがよいです。三つ折りなどにしないことで裾のラインが硬くならず、自然な裾になります。また、縫い糸が体と触れる部分に長く出ていないので擦れにくく、縫い目がほつれにくいです。
実際に「奥を流しまつりにする」をやってみましょう。まず、折り代を折り上げたらしつけでとめておきます。
ロックミシンの部分だけ手前にめくって表布の織り糸1本ほどと、ロックミシンの折れた山を交互にすくいます。厚い布の場合は、生地の厚みの半分くらいをすくい、表で針目が目立たないようにするのがきれいに仕上げるコツです。
ロックミシンの部分を手前にめくって、奥を流しまつりし終わった状態。
奥を流しまつりして折っていたロックミシンの部分を元に戻したところ。ロックミシンの縫い目にかかるように赤い糸が見えます。
「奥を流しまつり」では、織り糸を1本、生地の厚みの半分・・・と、説明が細かかったので、聞いただけでできそうにない、と思いますよね。たしかに慣れるまではちょっとむずかしいまつり方です。なんとかすこしでも表にひびかなくて、簡単にできる方法ないかと考えてみました。
それは、折り代のロックミシンをかけたところを折るのではなく、表に見えるスカートの方を折ってすくうやり方です。
しつけをかけたら、上下を逆にします。
折り代を向こう側にたおすとロックミシンの裏側が見えます。
ロックミシンの側を折って山になっているところを流しまつりでまつります。
▲普通と逆に持って向こう側に折ると、布を少しだけすくうことがしやすくなる。
このように、スカートの方を折って山をつくることで、織り糸1本、あるいは生地の半分をすくいやすくなります。この方法を思いついたのは、洋裁を勉強していた学生の頃です。
何となくうろ覚えで、「奥を流しまつり」しようとしたら、持ち方が逆になっていたようです。教科書で確認すると、なんと、逆に持って縫い進めていたのですね。つまり、折り代を自分に向けて持つところを、折り代が向こう側になっていたのです。折り代のロックミシン部分を折るのではなく、表にスカートとして見えるはずの方を折っていたわけです。
それでも、そこでいいことに気がつきました。
教科書とは逆のやり方でしたので、間違いなんだろうなと思いました。でも、折ることで、ちょっとだけすくうのが苦手という方でも表にひびきにくい小さい針目に仕上がると思います。ただ、このまつり方はパンツの裾など直線のものには向いていますが、カーブがきついものは折りにくいので、ほんとうのやり方で縫う方が楽です。
洋裁の「普通まつり」と和裁の「三つ折りぐけ」は似ています。私も和裁の先生に教わるまで「まつる」と「くける」は同じだと思っていました。表も裏も似た雰囲気で、何が違うのでしょうね。
三つ折りぐけの方法
洋裁において普通まつりでまつる場合は、折り山と表布の裏、どちらもちょっとずつすくいます。そして、糸が斜めに渡っているのが見えます。
和裁で三つ折りぐけの場合は、表布をすくうのは普通まつりと同じです。違うのは折り山の折れている中を糸が渡るということです。こうすると、糸が表に出ませんので、見えなくてきれいですし、擦り切れにくいですね。だから、もし、まつると書いてあってもくけでもよいと思います。ただし、直線だからくけることがしやすいのであって、どんなところにも使える訳ではありません。曲線の多い洋裁では見かけない縫い方ですが、直線を縫う場合はまつり縫いと同じように活用するといいと思います。
こちらの写真は、上が三つ折りくけ縫い、下がまつり縫いです。くけ縫いは三つ折りの折山の中に糸が渡っているので、表に糸が出ていません。
表から見た様子。同じく上が三つ折りくけ縫い、下がまつり縫いです。
まつり縫いのお話、いかがだったでしょうか。次回は、布を切るもの、はさみやロータリーカッターについてお話しします。
安田由美子
針仕事研究家。文化服装学院で洋裁とデザインを学び、卒業後は同学院の教員として勤務。現在は洋服や刺繍作品のデザインとつくり方を手芸書に発表し、フランス手芸書の日本語版の監修も行っている。「つくりら」のコラム「素材と道具の物語」に執筆中。2017年11月に『はじめてでもきれいに刺せる 刺しゅうの基礎』(日本文芸社刊)を出版。10年続くブログ「もったいないかあさんのお針仕事 NEEDLEWORK LAB」では手芸書を中心に幅広く手芸の情報を発信している。http://mottainaimama.blog96.fc2.com/