美しい伝統工芸「つまみ細工」を未来へつなぐ。支援プロジェクトへの挑戦

写真協力:一般社団法人つまみ細工協会  文:つくりら編集部

かんざしや髪飾りとして知られるつまみ細工は、布の折り紙ともいわれる日本の伝統工芸。つくりらでも2019年の春に『小物づくりからはじめる やさしいつまみ細工book』の著者、鳥待月(とりまちつき)さんを訪ね、その魅力を伺いました。

 

「つまみ細工 一凛堂」のこと

その後、つまみ細工のことをもっと知りたくなり、東京・浅草橋にある専門店、「つまみ細工 一凛堂(いちりんどう)」を訪ねました。店内では、つまみ細工講師の方々が、小さな布をピンセットで巧みに操りながら、美しい花を次々と生み出しています。作品もさることながら、その所作のなんと美しいこと! これぞ日本の伝統工芸、と、あっぱれな思いでした。

店長の鴨下美代子さんによると、長年、髪飾りの卸業に携わってきた先代オーナーが、つまみ細工職人の減少と伝統工芸の衰退の危機感から、一般消費者向けにつまみ細工のお店「つまみ堂」を開いたのだそう。「つまみ細工は国際的なクラフトになりうる」と確信していた先代オーナーは、日本古来の伝統的な手法を広めるために講師養成にも力を注ぎ、「つまみ細工で世界80億人を笑顔にする!」が口ぐせだったと言います。

先代オーナーは、「東京オリンピックの再来は、海外の人々にもつまみ細工を知ってもらうまたとない機会」と、準備に勤しんでいた矢先、病に倒れ、帰らぬ人に。突然の事態に「つまみ堂」はやむなく閉店。その遺志を引き継ぎ、元スタッフとつまみ細工協会が一丸となり、店名を「つまみ細工 一凛堂」と改め、再スタートを切りました。2019年夏のことです。

 

コロナ禍の危機を乗り切るために

仮オープンの店内が日一日と整い、レッスンも再開し、少しずつ軌道に乗ってきた「つまみ細工 一凛堂」。さあ、これから、というときに、新型コロナウイルスが蔓延、営業自粛を余儀なくされてしまいます。

「営業自粛要請を受け、活動の根幹である講座運営が約2か月の間止まってしまいました。講座を行うことで、材料が販売でき、その資金を使って体験やワークショップを行い、そこから専門的な講座につなげていくという流れが途切れてしまったことで、運営資金が自主的に作れない事態に陥ってしまいました」(一般社団法人つまみ細工協会・代表理事 齋藤健太さん)

公的な助成金なども社団法人には適用されないものもあり、メンバー全員で頭を抱えていたときに、クラウドファンディングの存在を知り、応募したと齋藤さんは言います。

 

人を幸せにできる「伝統工芸」を未来へ

クラウドファンディングのプロジェクト紹介文には、齋藤さんはじめ、講師やスタッフ全員の想いが切々と綴られています。

「この『つまみ細工』は、老若男女国籍問わず誰でも気軽に楽しめるものです。先代オーナーが『つまみ細工で世界80億人を笑顔にする』とよく口にしていたのですが、人にほほ笑みを与えられる、人を幸せにできる『伝統工芸』であると、私たちは強く感じています」(プロジェクト紹介文より)

クラウドファンディングは、支援する側から見るとリターンの内容も大事な点ですが、このプロジェクトのリターンは、どれも“つまみ細工愛”にあふれたものばかり。つまみ細工体験チケットから、道具や材料、完成作品まで、ワクワクする企画が目白押し。実にバラエティに富んだ内容となっています。

なかでも、現役つまみかんざし職人 (荒川区無形文化財保持者) 戸村絹代さんの特別講座は、つまみ細工作家をめざす方や伝統工芸に興味のある方には、まさに垂涎の企画です。

全員が一丸となって取り組む。これも日本の“伝統芸”なのではないか、と思うほど、魂のこもったプロジェクト。紹介文を読み進み、心が動かされました。人の心に響いたことは、人を行動へと誘います。江戸時代から続く伝統工芸、つまみ細工は、幾度の危機に見舞われながら、その度に人々の熱き想いを呑み込んで、したたかに、そして、しなやかに生き長らえてきました。

「遺したいものは、職人や作家さん、技を持った『人』の心」。そう語る齋藤さんの情熱は、きっと未来へとつながっていくに違いありません。

伝統工芸「つまみ細工」存続のための支援プロジェクト
https://camp-fire.jp/projects/view/280606

つまみ細工 一凛堂
〒111-0053
東京都台東区浅草橋1-4-6 遠藤ビル2階
営業時間:11:00~18:00 日曜・祝祭日
TEL:03-6874-1852
https://tsumami-ichirindo.com/

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