更新日: 2020/03/29
撮影:村川麻衣 文:つくりら編集部
月森文(つきもりふみ)は、つくりらで連載「Favorite things」を担当してくれている村川麻衣さんの詩人としての活動名。「溢れ出る感情を忘れたくない」と、13歳の頃から教科書の余白に言葉を書いていたのをきっかけに詩を書き始めたそう。
その月森文さんの個展が、東京・高円寺のブックショップ&ギャラリー「タタ」で始まりました。
個展のテーマは「次の春には、」。
「梯子を上った先にあるギャラリーを月森文の部屋に見立て、世界を旅して生まれた詩、生まれる詩の途中を発表する。閉ざされた小さな世界(部屋)から、どんな感情が溢れてくるかの実験とも言える個展」とは、「タタ」店主、石崎孝多さんからいただいたプレスリリースからの引用。月森さんの言葉です。
「タタ」は、高円寺の路地裏にある小さなお店。扉を開けると、中にはカウンターがあり、一見、バーのよう。ギャラリーはというと、その言葉どおり、梯子を上った先にあるのです。ディスプレイのように壁に佇む梯子の先を目で追うと、そこにはぽっかりと穴が空いています。
「ここを上るのですか?」。スカートやヒールのある靴をはいてこなくてよかった(元々持っていないが)と思いつつも、やっぱり怖い。おそるおそる梯子に手をかけ、足をかけ、ああ、もうだめかも、と思った瞬間、白い空間にたどり着きました。
そこはまさしく月森さんの部屋。正面のテーブルには彼女の好きなものがひそやかに並べられ、右側の壁には便箋にしたためられた詩がずらり。それぞれの詩には、「Bristolにて」、「Amsterdamにて」と、詩を綴った場所が書かれています。
22枚の手書きの詩。幼い頃からこんなふうにせっせとつくり続けたであろう書き慣れた文字は、端正ではあるけれど、親しみやすく、まるでこちらに語りかけてくるかのよう。文字は人なり、といいますが、確かにこの文字は月森さんそのもののような気がしました。
壁にひとつだけ、英語の詩が飾られていました。
これは月森さんの詩をアーティストのAya Takahashiさんが英訳し、コラージュしてくれたものだそう。
そしてこちらは、紙事さんとのコラボレーション展、「envelope poems | quiet zone kamigoto x tsukimorifumi」のときのもの。月森さんの詩を紙事さんの文字で表現した作品です。
床に置かれたガラスのトレイにも詩がありました。ちりばめられた銀色のビーズは、よく見ると三日月のかたち。こぼれ落ちた粒が月の涙のようにも見えました。
テーブルに置かれた小さなメモ帳には、最新作の月森さんの詩が綴られています。「次の春には、」。個展のテーマとなったタイトルです。
ゆっくりと読み進めていくと、今、世界中の人たちが感じているであろう思いを代弁してくれているようにも、励ましてくれているようにも思えてきました。
桜が咲けば花見もしたいし、宴もしたい。でも、2020年はそれが叶わなくなってしまった。そんなやるせない、行き場のない陰鬱とした気持ちを、その詩はしっかりと受け止めて、抱きしめてくれるようでした。
こんな時こそ
一粒の詩があれば
世界を変えるため
私には詩がある
(月森文)
「詩人の使う言葉も、諸君が日常使っている言葉も、同じ言葉だ。言葉というものは、勝手に一人で発明できるものではない。ただ、歌人は、そういう日常の言葉を、綿密に選択して、これを様々に組合せて、はっきりした歌の姿を、詩の形を、作り上げるのです。すると、日常の言葉は、この姿、形のなかで、日常、まるで持たなかった力を得て来るのです」
これは小林秀雄の「美を求める心」に出てくる一節。月森さんの詩も普段の言葉をつなぎながら、なんと強い力を放っていることでしょう。
今回の展示タイトルの「次の春には、」には最後に「、」(読点)があります。なぜ、読点を打ったのですかと月森さんに尋ねると、「てん(読点)は、止まること。立ち止まって考えてほしいと思って」という言葉が返ってきました。読点ひとつに込めた詩人の思い。言葉を紡ぐという営みのなんとまあ奥深いことか。
「次の春には、」。できれば一人でも多くの方に「タタ」のあの空間で、月森さんの詩と向き合ってもらえたら・・・。会期は4月19日まで。幾分長いので、それまでに少しでも「外出自粛」の状況が緩むことを期待して。それも叶わないとなったなら、せめて月森さんのインスタグラムに投稿されている詩を、ご自宅でゆっくりと愉しんでいただけたらと。
詩は世界を救う。そうあって欲しいと願いつつ。
月森文「次の春には、」
会期:3.27(Fri)- 4.19(Sun) 13:00-21:00 (休廊日:月・火・水曜日)
会場:bookshop / gallery タタ
(〒166-0002 東京都杉並区高円寺北2丁目38-15)
入場料:無料
URL:tata-books.com
月森文
長崎県にある生月(いきつき)という小さな島に生まれる。溢れ出る感情を忘れたくないと13歳の頃から教科書の余白に言葉を書いていたのをきっかけに詩を書きはじめ、今に至る。
2018年6月 「envelope poems | quiet zone」at ALNLM(大阪)
2016年4月 「12ヶ月の詩、12ヶ月の匂い」at SEWING GALLERY(大阪)
2014年7月 「WHEN I CUT MY GANGS」 at MAISON ET TRAVAIL(神戸)
インスタグラム:@tsukimorifumi
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「68回目の朝に - FAVORITE THINGS – 」 2017.8.10(thu) - 14(mon)大阪
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