更新日: 2020/01/17
写真協力:D&DEPARTMENT PROJECT、白田のカシミヤ、桐染 取材・文:つくりら編集部
若者文化の発信地として知られる東京・渋谷に、“ものづくりの聖地”として、定期的に訪れているスポットがあります。それは渋谷ヒカリエ8階にある「d47 MUSEUM」。dはデザインのd、47は47都道府県の数のことで、2012年の開館以来、「旅」「クラフト作家」「これからの暮らしかた」「修理と手入れ」「発酵」など、さまざまな切り口で47都道府県の個性をフィーチャーしている場所なのです。
その第26回として企画されたのが「着る47展」。「ファッション」をテーマに47都道府県の衣服・靴・鞄・アクセサリーなどを販売しながら展示するというもの。タイトルを聞いただけで「わぁ、面白そう〜」とときめいて、開催初日に行われたプレス発表会にいそいそと出かけていったのでした。
日本という国はなんと美しい手仕事が息づいているのだろうか。柳宗悦の『手仕事の日本』を読んで以来、日本のものづくりにすっかり魅せられてしまい、手仕事の展示と聞けば、見たい、触れたいという衝動に駆られ、鉄砲玉のようにすっ飛んでいってしまう日々。
d47 MUSEUM 館長、黒江美穂さんによれば、ファッションという視点で47都道府県を見ると、その土地に根づいた織り・染め・縫製などの伝統技術や産業、独自の素材、気候風土から生まれる形や柄など、さまざまな“その土地らしさ”が存在しているのだそう。
▲(写真:左上から時計まわりに)富山県「CanRuler」の起毛技術から生まれる山ウェア、茨城県「奥順」の結城紬の技から生まれるストール、東京都「DOUBLE FOOT WEAR」の皮革産業の地域でつられる靴、広島県「Tolerance」のグラスビーズが施されたバッグ。
「ファッション業界にもトレンドサイクルに左右されない普遍性や、サスティナブルな考え方が広がりを見せています。リアルな需要に応えながら、世界観やメッセージと共に、その土地ならではのものづくりによって生まれる『ファッション』が、これからさらに注目されると考え、『着る47展』を企画しました」(黒江さん)
開催初日にはいくつかの出展ブランドの方々も在廊し、直接、お話を伺うことができました。そのなかで心に響いた2つのブランドをご紹介します。
ひとつめは、宮城県からの出展者「白田のカシミヤ」です。
歳を重ねてきたせいか、だんだん化学繊維がつらくなり、軽くてあったかい、ということも手伝って、冬のセーターにはカシミヤを選ぶようになりました。そんなカシミヤファンにとっての悩みは、自分で洗えないこと。ところが、「白田のカシミヤ」の赤津信也さんはにこにこしながら「カシミヤは水洗いできますよ」と言うではありませんか。
赤津さんは、「どんな糸を使っているのかにもより、一概には言えないですが」と前置きをしたうえで、「白田の製品は洗えます。ほつれや虫食いなどのお直しもできます。同じ糸で修理しますので安心ですよ」と教えてくれました。
「白田のカシミヤ」のホームページには、懇切丁寧な解説&イラストつきで「ご自宅でのお洗濯・保管方法」が掲載されています。ああ、こんな細やかな配慮からも、一着一着を少しでも長く着続けてほしいという思いが伝わってくるなあ。
聞けば、「白田のカシミヤ」では、手動の機械を使っているそう。ニットの機械編みといえば、昭和の時代、一家に一台の勢いで普及していましたよね。ザーッザーッと小気味よい音を立てて編みあがるその機械の記憶が、母の手さばきとともによみがえってきました。「白田のカシミヤ」が使っているのは、その工業用。今では製造している会社もないので、廃業したニットの工場から譲り受けたりしているそう。なんという衝撃の事実。どうかいつまでも機械が動いてくれますように。
次にご紹介するのは、群馬県桐生市に工房を構える染工房、「桐染(KIRISEN)」です。桐生は昔から織物がさかんで、西は西陣、東は桐生と称された、織物で栄えた街。『手仕事の日本』にも「全町これ機屋(はたや)といいたいほど仕事は盛であります」と綴られています。
▲「桐染」の得意する染色技法の1つ、筒染め。反物を筒状に縫い合わせ、筒にかぶせて染め上げる。細かな波模様は、職人の感覚を頼りに地道な手作業によるもの。
昭和8年に「山﨑染色」として染色技術を継承し、平成26年に屋号を「桐染」と改め、再スタート。二代目の山﨑貞治さんは桐生織り染色部門の伝統工芸士で、同業者や学生たちへ染色指導なども行っています。
展示会会場でお話を伺ったのは、平本ゆりさん。山﨑貞治さんのお孫さんです。2019年、三代目であるお父さまの山﨑晃さんと二人三脚で、はじめてのプロダクトとなる涼やかな浴衣を世に放ちました。
グラフィックデザイナーとしても活躍している平本さんですが、お父さまとのものづくりは、ダメ出しに次ぐダメ出しだったそう。伝えたいことがなかなか伝わらない、そんなもどかしい日々のなか、お父さまが唯一うなづいてくれたのが「涼しそうな浴衣」という言葉。以来、「涼しそうな浴衣」を共通言語にものづくりに邁進、かくて世にも美しい桐染の浴衣ができ上がったのです。
▲板締め絞でつくられたあずま袋。
浴衣は気に入った柄や色をオーダーするスタイル。まだまだ寒いですが、大寒を過ぎれば、二十四節気も春の節。春の訪れとともに次の季節への準備を始める・・・。めぐる季節と追いかけっこをするように、先回りして夏を迎えるのも粋だと思いませんか?
思わず手にとって身につけたくなようなアイテムと出会える「着る47展」。3月2日までの会期中、冬から春先にかけての季節に合わせた展開も行うそう。会場では展示品の販売に加え、出展者を招いたトークイベントや、出展者に直接相談できるオーダー受注会なども開催します。ワークショップやイベント情報は展覧会公式サイトにて随時更新されるそう。
47都道府県をファッションで「着る47展」
会期:2019.12.6(Fri)~2020.3.2(Mon) 11:00~20:00、入場は閉館30分前まで
会場:d47 MUSEUM(東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8階)
お問い合わせ:03-6427-2301
入場料:無料
主催:D&DEPARTMENT PROJECT
URL:https://www.d-department.com/item/DD_EVENT_15006.html