消しゴムはんこで魅せるアートの世界。田口奈津子さんの「季節を紡ぐ消しゴム版画展」2020.1.7〜2.2 東京

写真協力:田口奈津子 会場撮影:つくりら編集部  取材・文:つくりら編集部

テレビ番組「プレバト!!」でも活躍中の消しゴムはんこ画家の田口奈津子さん。『押して描く!消しゴムはんこ』を上梓した2018年には、つくりら編集部もアトリエにおじゃましてインタビューさせてもらいました。

テレビ出演や書籍の制作など多数の仕事を抱えながらも、ツイッターやインスタグラム、facebookなどを通じて、日々、精力的に新作を発表している田口さん。最近では動画投稿の再生が200万回を超えるなど、田口さんの消しゴムはんこ作品は、国内外問わず、注目度がますます高まっています。その珠玉の作品の数々が一堂に会するという作品展が1月7日からスタート。東京では2回目となる作品展とのことですが、大きなギャラリーでの開催は初めてです。


▲作品展ギリギリに仕上がった作品「春陽に舞う」。色いっぱいの花束みたいな作品をつくりたかったそう。使った版は88版。

会場は、東京・杉並区の杉並区立杉並芸術会館「座・高円寺」内のGalleryアソビバ。エレベーターで地下2階へ降りると広々としたギャラリーが広がり、その空間はまるで美術館のよう。

 

ド肝を抜かれた超大作「桜障子」

会場に入り、まず目に飛び込んできたのは4枚の障子に描かれた作品、「桜障子」です。

「祖母の家を訪れたときに障子を見つけたんです。その瞬間、あ、障子にはんこを押したい!って思ってしまって・・・。その季節が春だったので桜が題材となりました」と田口さん。そのときの障子は古いものだったので、作品には新しい障子を使用。「ロールになっている障子紙にはんこを押して、会場で障子に貼って仕上げました」

和室の障子を開けたときに、こんな風景が広がっていたらいいな。そんな思いで桜の大作に取り組んだそう。数種類の花びらの版をつくり、色を変え、版を変え、ひたすら押し続けること数週間。「1枚仕上げるのに1週間。どんなにやっても1日8枠、障子1枚の3分の1くらいしか進みませんでした」

「桜障子」のとんでもないスケールの大きさに、「これなら描いたほうが早そうですね」と思わず口をついてしまった記者のつぶやきに、「版画のような温かい感じが好きなんです」と、にっこり。気の遠くなるようなはんこ作業もまったく苦にならないといったご様子です。

田口さんの場合、意図的に大作をつくろうとしているのでなく、小さな消しゴムはんこがだんだんと進化した結果、大きな作品ができ上がるだそう。「消しゴムはんこをやりたくて、常に押せるものを探しているんです」

近い将来、パリのオランジュリー美術館にあるモネの「睡蓮」のように、田口作品専用の部屋ができてもおかしくないゾ。そんな無粋な記者のつぶやきに、田口さんの目がほんの一瞬、輝いたように見えました。

 

消しゴムはんこの技法が生きる作品の数々

吸い寄せられるように「桜障子」から観覧してしまったのですが、実は田口さんご自身が考えていた順路は反対側からの壁からでした。そこには、1版でつくったもの、2版でつくったもの、多版でつくったもの、と順番に並び、作品の下には使用した版もディスプレイされています。一瞬、難易度順?と思いきや、1版だけで仕上げた作品のなんと細かいこと! 「版の数によって見せ場も変わってきます」。なるほど。消しゴムはんこ、深い。


▲作品に使用した版。はんこの大きさがリアルに分かる。

順路に沿ってさらに歩を進めると、技法を凝らした大きな作品が現れました。2018年、2019年と連続受賞した板院展(ばんいんてん)の出品作品です。板院展とは、1952年に棟方志功の呼びかけで結成された日本版画院が主催する版画作品の展覧会。木版画や銅版画が並ぶなか、消しゴムはんこ作品を出品したのは田口さんただ一人だったそう。

2019年の作品「碧晄の奏でる」に描かれているのは、石畳、ツバメ、紫陽花、そして糸のように細く長く降りしきる梅雨どきの雨。描かれた風景の上にまっすぐに伸びる白く細い線。この描き方は木版画などではできないそうで、消しゴムはんこだから為し得た表現方法。もちろんそこに田口さんの神テクニックがあってこそ。作品展会場でじっくり味わってほしい作品です。


▲2019年板院展で院友推薦大矢鞆音賞W受賞した作品「碧晄の奏でる」。使った版はなんと125版。

こちらは、朝露に濡れた朝顔を背景に浴衣姿の女性を描いた「朝顔と浴衣」。右下にちらりと見える蚊取り線香も日本の夏の原風景を思い起こさせます。


▲「朝顔と浴衣」。ツイッター再生回数218万回という人気作品。

 

クラフトからアートへの挑戦

2018年にインタビューした際に、田口さんは今後やってみたいこととして、絵本づくりとパッケージデザインを挙げていました。今でもそれは変わりませんか? と尋ねると、少しだけ違った角度からの答えが返ってきました。

「絵本もパッケージも興味はありますが、今は、もっと消しゴムはんこを広めたい、もっと大勢の人に認識してもらいたいと思うようになりました」

クラフトとしてすっかり定着した感のある消しゴムはんこ。もう十二分に浸透しているのでは?と尋ねると、じつはアートとしての広がりはまだまだなのだそう。「板院展でも消しゴムはんこの作品は私一人。こういったところに消しゴムはんこの作品がどんどん出品されるようになってほしいんです」。


▲ツイッター再生数が216万回となった大ブレイク作品「手毬」。海外からの反響も大きく、アラビア語などの言語でのメッセージもあったそう。

テレビに書籍に企業からの依頼・・・。もはや休む暇なしの田口さんが、誰からも頼まれてない新作をつくり続け、SNSに投稿するのも、そんな思いがあってこそ。

「ブログを始めた当初は、『こういう使い方をすると、こんなものができる』ということを伝えたくて、消しゴムはんこでクッションなどもつくっていました。『こんなのできるんだ!』って声が届くのが嬉しくて・・・。あっと驚かせるのが好きなんですよね」

「これを消しゴムはんこでつくれるか?」というあくなき好奇心と、「みんなをあっと驚かせたい」というシンプルで純粋な気持ち。「思いついたら、それを形にしてみたくなってたまらないんです」と田口さんは言います。アートへの挑戦もそんな思いの表れなのでしょう。

SNSで可能性に挑む最新作を見せてくれる一方で、テレビ番組やワークショップでは、クラフトとして楽しみたい人々のために、わかりやすく、楽しく、教えてくれる。そう、田口さんは、消しゴムはんこの伝道師。「はんこは続くよ、どこまでも〜」なのです。

「季節を紡ぐ消しゴム版画展」

期間:2020.1.7(Tue)- 2.2(Sun)
開催時間:9:00〜22:00 *会期中無休
場所:Gallery アソビバ
東京都杉並区高円寺北2-1-2 座・高円寺 B2F
問い合わせ先:03-3223-7500(代表)
ホームページ:https://za-koenji.jp/home/index.php

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