更新日: 2019/11/20
つくりら海外取材スペシャル第2弾。2019年春のパリに続いて、今回の舞台はニューヨークのクリエイティブ地区、ブルックリンです。フォトグラファーの清水美由紀さんの特別寄稿で、第1話、第2話の2部構成でお届けします。
撮影・文:清水美由紀
11月の初めにニューヨーク(以下、NY)、ブルックリンに行ってきました。ブルックリンは、5つの行政区からなるニューヨーク市の1つの区。NYと聞いてパッと思い浮かべるマンハッタンとはイーストリバーをはさんだ東側です。青森県とほぼ同じ緯度に位置していて、11月の初めはちょうど紅葉が陽に照らされて美しく輝き、秋晴れのすこんとした青空が広がる、散策するのに気持ちのいい気候でした。
ブルックリンと聞いて私が最初に思い浮かべたのは、「ブルックリンスタイル」といわれるインテリアでした。4、5年くらい前からでしょうか、日本でもカフェや雑誌などで「ブルックリンスタイル」を目にするようになったように思います。そのスタイルをぼんやりと眺めていた私がブルックリンに対して持ったイメージは、レンガと黒アイアン、それから古材でした。それは、大きな倉庫をリノベーションした雰囲気のものが多く、無機質で男性的、それからアートの香りがどこからか漂うようなものを想像していました。
実際街を歩いてみると、どうでしょう・・・。イメージ通り、レンガの建物の多いこと!
ブルックリンは地価の高いマンハッタンからアーティストが移り住んだ街。壁面の落書きは、ブルックリン生まれのアーティスト、ジャン=ミシェル・バスキアによってアートとして認められたのだそう。
レンガに黒アイアンの窓枠や階段をよく見かけます。
レンガに挟まれて、別の色の建物も。
ここにもグラフィティが。階数の少ない建物がブルックリンののんびりとした雰囲気づくりに一役買っています。
ブルックリンに来るまでマンハッタンとの位置関係も認識していなかった私ですが、冒頭に書いたようにマンハッタンとはイーストリバーをはさんで向かい合っています。だからほとんど毎日、マンハッタンのビル群が目に入るんです。どちらかというと自然が好きな私だけど、これってとってもわくわくする!
ブルックリンとマンハッタンの雰囲気の違いを肌で感じたくて、ブルックリン橋を渡ってマンハッタンまで歩いてみることに。
▲ブルックリン側から見たブルックリン橋。その向こうに見えるのはマンハッタン。ブルックリン橋はアメリカで最も古い吊り橋なんだそう。
ブルックリンのダンボ地区からのんびりとしたプロムナードをマンハッタンに向かって歩きます。橋の真ん中あたりを過ぎ、マンハッタンが近づいてくると雰囲気が一転。小さなお土産屋さんが立ち並び、お土産を勧める大きな声などでざわざわとしてきました。
▲マンハッタン側からみるブルックリン橋。こちらは人も多く、賑やかな雰囲気。
▲マンハッタン・SOHOの街並み。ここもレンガが多いけれど、階数が多くてどっしりと堅牢な雰囲気。
レンガと黒アイアンの多いブルックリンですが、別の雰囲気のお店にも行くことができました。特に一番通い詰めたのは、Bakeriというパンと焼き菓子のお店。イートインもできます。
Bakeriはブルックリンに2店舗あり、1号店がウィリアムズバーグに、2号店がグリーンポイントにあります。ノルウェー出身の店主が、北ヨーロッパスタイルのパンをブルックリンで食べられるようにと始めたんだそう。
ウィリアムズバーグの1号店は5席とテラスしかないこじんまりとしたお店。パンの種類はそれほど多くなく、焼き菓子がメインです。ここで出会ってしまったラベンダーショートブレッドの美味しさったら!ほろほろとした食感、そしてラベンダーの香りに満たされたその気持ちは、もう恋とした言いようがない幸せでした。
NYといえばベーグル!だけど、バゲットやクロワッサン、キッシュが並びます。
使っている食器は国などにこだわらず、アメリカのものあり、フランスやイギリスなどヨーロッパのものありで、そのごちゃ混ぜ感が肩の力が抜けていて可愛らしい。
フレッシュなお花が飾られているのも嬉しい。
2号店のグリーンポイントのお店は広く、パンの種類も豊富です。外壁は煉瓦造りの建物ですが、窓ガラスに描かれた装飾はエレガントな印象です。
外観はヨーロッパの雰囲気。よく見るとコーヒーの絵が!なんだか茶目っ気を感じてしまいました。
そして特筆すべきはインテリア!お花のモチーフのカラフルな壁紙に、黄色やピンクにペイントされた椅子、白黒のタイル。これでもかと主張するものたちを詰め込んでいるのに、圧迫感はなく、それぞれの可愛らしさに胸がキュンとしてしまうほど。そして、食器類は1号店と同じく、クリーンな青ラインの白皿あり、ガーリーなアンティーク皿あり、東欧っぽい柄物ありのミックススタイル。シックな外観を一歩中に入ると、ジャンクでガーリーなおもちゃ箱のようです。
▲左のペストリーはココナツレモンドーナツ、右はキャロットケーキ。
次にご紹介するのは、こちらのレストラン。グリーンポイントのBakeriから歩いて5分ほどの場所にある、南イタリア料理の影響を受けたアメリカ料理のお店です。このお店で扱われている商品は、エシカルなものにこだわっているんだそう。
▲ロマンティックなスタイルの看板。
▲内装は重厚な雰囲気もありつつ、机の古材や乙女なランプシェードでリラックス感も。
このお店で気持ちの良かったのが、テラス席!ラフな雰囲気のテーブルがポンポンと置かれた中庭には、大きな木が数本。地面にもテーブルにも落ち葉がそのままにされています。なんというかこの、ある意味適当な感じがいいんですよね。
風の通り抜ける店内では、それぞれのグループがおしゃべりに花を咲かせていました。
パンケーキは日本のものと違って、もちもちもふわふわもしていない、いたって素朴なもの。その素朴さが中庭のラスティックな雰囲気と相まって、ブルックリンでののんびりとした時間をつくってくれるようでした。
▲いちごは野菜のようにしっかりとした食感で、素朴なパンケーキによく似合う。
こちらも同じくグリーンポイントエリア、Milk & Rosesから歩いて15分ほどの場所にあるティーショップです。日本にも取扱店があるので日本のファンも多いこのお店。日本や中国、台湾、ネパール、インド、スリランカ、ベトナムなどから集められた茶葉はそのほとんどがオーガニックなのだそう。お茶の種類は、紅茶、ハーブティー、緑茶、烏龍茶、プーアル茶をはじめ、ブレンドティも並んでいます。ブルックリンに来て、こうやってアジア発のお茶がいただけることや、西洋の雰囲気のインテリアにアジアの茶器が並んでいるのを見かけて、その組み合わせの妙に唸ってしまいました。
▲外壁は煉瓦造りの建物で、入り口は通り過ぎてしまいそうなくらいさりげない。一歩中へ入ると、この外観からは想像できないほどの世界が広がっている。
▲茶葉がずらりと並ぶ。この71g用の缶入り茶葉と、もう少し量の少ない紙袋から選べる。
店内に入ると、試飲をさせてくれる場所が。3種類の茶葉を飲み比べです。
インテリアのスタイルはエレガント。Still Life(静物画)のよう。
お花の飾り方もシックで独特の世界観。
今回の旅で、日々気分を盛り上げてくれた立役者がいるとするなら、それはユニークかつとびきりのセンスとフレンドリーさを持って迎え入れてくれたThe Hoxtonなんじゃないかと思います。
▲大きな建物に、小さなサインがこれひとつ。遠くから見たらここがホテルだとすぐには気がつかないくらい。
朝目覚めると、イーストリバー越しのマンハッタンが目に入る。
▲イーストリバー越しのマンハッタンが朝焼けに染まる。薄雲を背負うエンパイヤステートビルが美しい。
フロントで自転車を借りて街を散策する。レストランも素晴らしい。
▲温かみのある雰囲気のレストラン。
レンガと黒アイアンのシンプルな外観から一転、室内に入ると木製の家具や陶器の花器が温かみを加えている。壁という壁に掛けられたアートフレームには、とんがった作品からほっこりしたものまで並び目が離せない。
さらには色使い。印象的なくすんだピンクのファブリックと、薄い水色のコーヒーカップ。どうしてこんなに足し算しているのに、可愛いんだろうと不思議になるほどでした。
▲「掃除してください」の札は「YUP」(YESをカジュアルに表現したスラング)。ホテルでこの言葉を選んで使っているというところに、ユーモアと肩の力の抜けたセンスを感じる。
それからこのホテルで特に感じたのは、スモールビジネスやローカルの繋がりでした。フロントには、活版印刷や革小物、ジャムにキャンドルと、近隣で活動するアーティストの紹介を兼ねた、Hoxtonオリジナルの雑貨類が並んでいました。
ホテルは世界中の旅行者にとって、その街の窓口になる存在。このホテルに滞在したことで、ブルックリンというエリアに属するアーティストやスモールビジネス店主のコミュニティの存在を垣間見ることができてとても嬉しく感じました。
ブルックリンの街を歩いて、頭に浮かんだキーワードは「オーガニック」「エシカル」「ローカル」「スモールビジネス」。それからその全てに通じる「エコ」でした。街を歩けばたくさんのヴィンテージショップに出会うことができるし、フリーマーケットも賑わっていました。そこにはたくさんのスモールビジネス店主たちが。
▲スーパーマーケットに並ぶフルーツも可愛い紙袋に。
▲ヴィンテージショップや手仕事のお店が集まるフリーマーケット「Brooklyn Flea」
レストランやスーパーマーケットでもオーガニックの食材やお料理が多く、エシカルという文字も何度も目にしましたし、「Farm to Table」(「農場から食卓まで」食材が一貫した安全管理のもと、食卓に届けられる)をうたうレストランのテラスには畑があり、驚くような食材の組み合わせや調理法、盛りつけで楽しませてもらいました。
単純に可愛いと思うインテリアにも、すでにある物を活かそうと大切に思う気持ちがあるように感じてしまうのでした。
ブルックリン紀行、第2話では、待で出会った手仕事の風景を紹介します。
清水美由紀
フォトグラファー。生活を感じる旅、暮らしのあれこれ、健やかな食&住が興味の対象。雑誌やWebなどで「LIFE(生活、暮らし、人生)」にまつわる写真を撮影。日本&世界を娘とふたりで旅しながら写真を撮って暮らしている。美しい日常の瞬間を切り取った透明感のある写真は、国内外問わず、多くのファンを魅了している。
ホームページ:https://miyukishimizu.format.com/
インスタグラム:@uriphoto