更新日: 2017/11/06
東京・西荻窪の栗農園で開催された「青空市」に合わせて、4日間だけオープンしたNutel(ヌウテル)さんの作品展。さわやかな秋の週末、カタカタと鳴り響くミシンの音に誘われて、小さなギャラリーにおじゃましました。前編、後編の2回に分けてお届けします。
撮影:田辺エリ 取材・文:つくりら編集部
東京にもこんなところがあったなんて! 西荻窪駅から歩くこと15分、静かな住宅街に、突然、栗園が現れました。色づいたイガがぱっくりと口をあけて、今にも栗がこぼれて落ちそうです。
栗の収穫の時期に企画された「青空市」。会場の入り口には、朝10時のオープンに先立ち、すでに行列ができています。みなさん、こちらで販売される栗がお目当てのよう。
会場に入ると、「栗、お売りしています」の看板を発見。その横の壁に飾ってあるのは、そう、Nutelさんの作品です。
まわりには、コーヒーを売る人、おやきを売る人、どの人も地元応援団といった雰囲気で和気あいあい。楽しそう。
食べ物のとなりには、栗イガ染めの布が。近江で織られた麻の生地、苧麻布とリネン。ストールや風呂敷、ハンカチなどもありました。
青空市の会場からのんびりと歩くこと数分、ぽっかりと光のオアシスが出現。全面ガラス張りの開放的なギャラリーがNutel exhibition「秋の実りをつんで」の会場です。
天井からモビールのごとく吊るされているのが、Nutelさんの作品です。
今回のテーマ、「秋の実り」のヒントになったと見せてくれたのが、狩野重賢(かの・しげたか)の『草木写生』(そうもくしゃせい)、秋の巻です。
「近くの植物園で見つけたんです。この本からインスピレーションを受けました。たとえば、サギソウとかマツムシソウ、ノウゼンカズラなど」
狩野重賢が描いた江戸時代の植物スケッチ。Nutelさんは、着彩された植物よりも、ラフなタッチの線画の下絵に惹かれたと言います。
Nutelさんの作品、線画のように見えますが、実はすべて黒のミシン糸。丸みを帯びた花びら、ギザギザとした葉っぱの輪郭、放射状に走る葉脈・・・。ミシンドローイングならではのふぞろいな線が、生き生きと語りかけてくるよう。
土台は布ではなくて、紙。「栗園のイガで染めた因州和紙を使っています。破れるかなと思ったら、意外に丈夫で」とNutelさん。ミシンで縫い描いたら、絵の輪郭に沿ってはさみでカット。花びらを何枚か重ねることで、造形的な表情に。
「モビールのように天井から吊るしてもいいし、キャンバスにつけて壁掛けにしてもいいですね。花を買うようにみなさんに選んでもらって、持って帰っていただけたらと思います」
因州和紙のもつやわらかなコシとハリ。重ねたり、つなげたりすることで、それとなく空気をまとい、軽やかな立体のオブジェとなって空間にやさしく溶け込みます。
いっぽう、ガラスのフレームに封じ込めたキノコは凛とした表情。二次元のアートとして、しなやかにその姿を変えていく様に、和紙×ミシンドローイングの懐の深さを感じます。
栗の形をした巾着ポーチがサイズと色違いで並んでいました。
「実家は縫製工場を営んでいるのですが、ここで製品にしてもらい、後染めしました。草木染めで、グレイは鉄媒染、茶は銅媒染を使っています」
ミシンで描いた絵は、猫だったり、葉っぱだったり。葉っぱは栗の葉をイメージしています。
インテリアとして愛でるだけでなく、Nutelさんの作品は、アクセサリーとしても人気です。こちらは紙ではなくて、布製。青のピアスは、藍染めの布、白のイヤリングは、コットンに耐水性の絵の具でペイントしたものだそう。
会場にはヘアゴムのような小さな雑貨も。英文字を綴ったものや、ウールの生地を土台にしたものなど、本当にさまざま。小さな絵画をながめるように、ひとつひとつ手にとって見入ってしまいました。
後編では、つくりら記者が参加したブローチづくりの様子をお伝えします。
Nutel (ヌーテル) 渡邊笑理
ソーイングアーティスト。嵯峨美術短期大学卒。2003年から、ミシンを使ったフリーハンドステッチで絵を描き始める。主に植物や動物を布にスケッチするような感覚で縫い描く絵画が特長。国内外から高い評価を得ている。
http://nutel.jp