更新日: 2017/09/14
コサージュ作家・伊藤貴之さんのレッスンにおじゃましました。布を染めてつくる花は、専用の生地を使うアートフラワーで、布花(ぬのはな)や染花(そめはな)などと呼ばれています。前編、後編、2回にわけて紹介。前編では、編集記者が挑戦した実もの、ブラックブリオニーづくりの体験レポートです。
撮影:田辺エリ 取材・文:つくりら編集部 協力:パセリセージ
今回、参加させていただいたのは、「自分で染めてつくる植物 ドングリ・松ぼっくり・実ものコサージュレッスン」。全5回完結クラスの第1回めです。
お花をつくる布花レッスンでは珍しく、“実もの”がメインです。秋から冬にかけて1つずつ制作し、最後はスワッグに仕立てて飾れるようにする、というもの。8月下旬から毎月1回、1作品のペースで進み、最後のレッスン日はなんとクリスマスイブ!
上の写真は、5回のレッスンで制作する実もをスワッグに組んだ状態。下の写真が制作する4つの実ものです。左上から、ドングリ、松ぼっくり、コロチカム&枝垂れ柳。左下はブラックブリオニー。
レッスンに参加する生徒さんは全部で7名。染めを行うため、テーブルが汚れないように新聞紙を敷くのですが、その新聞は伊藤さんがオランダに買い付けに行った際に持ち帰ったフリーペーパー。伊藤さんの美意識を感じさせる細やかな演出に、俄然、気分があがります。
▲生徒さんが集まる前にテーブルを準備する伊藤さん。
第1回目の実ものはブラックブリオニー。新聞紙の上にカット済みのパーツを並べ、まず材料をチェックします。テーブル中央に並べられた色とりどりの染料に早くもお絵描き気分に。
染め色をきちんと定着させるために、浸透液のなかに各パーツをくぐらせたら、いよいよ染色。このレッスンのいちばんのお楽しみです。
まず実を染める色を決めます。実といえば、やはり赤でしょう。そんなステレオタイプ的な発想で、迷わず赤の染料を手に取ります。粉末の染料をほんの少し筆にとり、水で薄めると、あっという間にボウルに色が広がって、美しい色水が現れました。
染料1色だと平板な印象なので、少しだけブラウンを足してみると、やや深みが出てきました。満足。
「色出しは、黒と赤がいちばん難しい」。これは伊藤さんが職人さんから言われたことなのだそう。童心に返れる色水づくりですが、極めるには奥が深そうです。
今回使った布は3種類。葉はビロード、実はシルク、茎はサテンです。シルクはとても薄いので、染めるときは、何回か重ねて筆で色をつけていきます。布の種類によっても色の出方が変わるそう。厚手のビロードは何度も重ね塗りします。
1枚のパーツの中に色の濃淡をつくると、完成したときにニュアンスがでます。葉はオリーブグリーンにブラウンを足して、実と同様、ちょっとくすんだ感じにしました。
「色は自由にどうぞ」という伊藤さんの言葉に、みなさんのびのびと染めています。隣りのテーブルをのぞくと、私が赤く染めた実を、黒っぽい紫に染めている方もいらっしゃいました。まさに発想は人それぞれ。「作品見本は参考にしない」。そんな伊藤さんの“粋な計らい”に、普段眠っている想像力や創造力がむくむくと起き上がってきます。
葉っぱを乾かしている間に実をつくります。全部で13個。丸い玉をかるくつぶして楕円形に。伊藤さんが器用に指を動かして実演してくれます。
あらかじめ緑色に塗っておいたワイヤーを実の数だけニッパーでカットします。
楕円にした玉に目打ちで穴をあけ、ワイヤーにボンドをつけて、穴に刺します。小さなボールに穴をあけるとは、なんて細かな作業! 伊藤さんがお手本に1個つくってくれました。
実を束ねたら、小さくカットした茎布を巻きます。これでひと束が完成。指先に神経を集中して、あせらず、丁寧に。
今回は実ものなので、コテをあてるのは葉っぱのみ。コテをあてる前に葉っぱの裏側にワイヤーをつけておきます。
2台用意されたコテ。今回使うコテ先は筋ゴテ。これで葉っぱの葉脈をつけます。コテを置いているのは、オランダの古いトラック。こんなところにも伊藤さんらしい心にくい演出が。
実際のブラックブリオニーの葉と同じように放射状に葉脈を走らせます。
2台あるコテを順番に使います。こちらの二人は偶然、どちらも左利き。
ぐっとコテをあてると、平面だった布が立ち上がり、生き生きとした表情に。この瞬間がたまりません。
コテをあて終わった葉。同じ型紙を使っても、色も違えば、形も違います。
いよいよ最後の工程。茎に葉と実をつけていく作業です。「組み立てはそれぞれの想像力を生かして、バランスよく」と言われたのですが、自信がないので、ここは伊藤さんの見本を見せていただき、その寸法で組み立てることにしました。
バランスよく組むための秘訣は、「実際の花や植物をとにかくよく観察すること」なのだそう。「基本的に自然のものはすべて違うので」
そして、「最後までちょっとしたところに手を抜かないこと」とのアドバイス。先が見えたと思うと、とたんに気が緩んでしまいがちですが、そこをもうひとふんばり、ということなのですね。「そこでクオリティーに差がでます」。なるほど。
レッスンの最後に撮影した全員の作品。いちばん上が伊藤さんの作品見本です。
濃い紫で実を染めて渋くしたもの、黄緑の葉っぱとオレンジの実で明るい印象のもの、それぞれがイマジネーションのおもむくままに色を塗り、組み立てて、7通りの作品ができ上がりました。
伊藤さんご自身は、完成したあとに、さらに「くずし」を入れるそう。「あまりきれいに見せたくないので。これは男性だからかもしれませんが」
後編では、伊藤さんの作品をたっぷりご紹介しています。アンティークコサージュを復元した美しいコサージュとその背景のストーリー、ぜひご覧ください。
伊藤貴之
コサージュ作家。 桑沢デザイン研究所卒業。グラフィックデザイナーを経て、2001年オランダへ移住。帰国後、布花のコサージュをつくり始める。2007年より那須に拠点を移し、オランダの古着や小物を扱うお店「TURBO」(ターボ)をオープン。ショップ運営と並行して、「パセリセージ」をはじめ、コサージュづくりのワークショップの講師を務める。
http://turbo15.com/turbo/
Parsleysage (パセリセージ)
素材やディティールにこだわりを感じるアーティスト作品をはじめ、アクセサリー、ウェア、インテリア雑貨など、自分たちが本当にいいと思うアイテムを厳選したセレクトショップ。日常を忘れさせてくれる古い一軒家の空間は、大人の女性のための隠れ家的サロンとして人気。遠方からもお客様が訪れる。「パセリセージ」に関わるクリエイターたちを講師に、満足度の高い作品をつくる「大人の手しごと塾」を開催している。
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