ビーズの縁飾り(後編)|トルコの伝統工芸、ボンジュックオヤで「パイナップルの縁飾り」を編む。講師:西田 碧さん

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ビーズの縁飾り(後編)|トルコの伝統工芸、ボンジュックオヤで「パイナップルの縁飾り」を編む。講師:西田 碧さん

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前編では、西田碧さんのボンジュックオヤの作品をご紹介しました。後編では、編集記者が「パイナップルの縁飾り」に挑戦したレポートと、レッスン会場となった「ワサビ・エリシ」さんのトルコのオヤをご紹介します。

撮影:田辺エリ 取材・文:つくりら編集部  協力:ワサビ・エリシ

「パイナップルの縁飾り」に挑戦

ワークショップの作品は「パイナップルの縁飾り」。CRK designさんの著書『ビーズを編み込むすてきアクセサリー』のなかで、西田さんが制作したネックレスです。なんと星3つ、上級レベルの作品!

材料は、糸とビーズとニットリング。レース針は10号を使用します。


▲糸はオリムパス金票#40、813ベージュと455チャコールグレー。青ビーズはトーホー丸大954、白は丸小401。ニットリングはハマナカニットリング8mm、そしてマグネット留め具。

「くさり編みができれば、大丈夫」。そんなやさしい言葉に励まされて始めてみたものの、久しぶりの「編み」。糸通しビーズを編み糸に通すところから早くも四苦八苦です。つくり目と糸の持ち方もすっかり忘れてしまっていたので、手が慣れるまでずいぶんと時間がかかってしまいました。

この日の生徒さんは私を含めて8名。みなさん経験者のようで、ご自身でつくったオヤアクセサリーを身につけていらっしゃいます。

「パイナップルの縁飾り」は3段構造。まずは土台となるくさり編みからスタート。西田さんに作品見本を見せていただきながらゆっくりと進めます。

レッスンには、西田さんの助っ人としてCRK designの今村クマさんも同席。おふたりとも、おぼつかない私の手つきをじぃっと観察し、私自身が自分の手で体得できるまで辛抱づよく教えてくださいました。「編み」に対して苦手意識とコンプレックスがあったのですが、要領がつかめてくると、だんだん編み図も解読できるようになってきました。

こちらの手元は、私ではなく、別の生徒さん。こま編みを5目編んだら、ビーズを編み入れる。その繰り返しでニットリングに編みつけ、サザエさんの頭のような形をつくっていきます。

ボンジュックオヤが初めてでも、かぎ針編みに慣れている生徒さんは、1時間半でここまで進みました。編みかけの目は、針を抜いて安全ピンでとめておきます。こうすると次回に編み始めるときにスムーズ。

初めて挑戦したボンジュックオヤ。なんともできの悪い生徒で、時間内にニットリング4つしか進みませんでしたが、要領がわかって、それに手がついてくるようになると、少しずつ楽しくなってきました。

レッスン終了後、西田さんにボンジュックオヤの魅力を尋ねると、「ほかの手芸に比べると、手軽につくれること」と。そう言った瞬間、悪戦苦闘していた私のレッスンを思い出し、「手軽」の言葉に、一瞬、苦笑していましたが。

「作品は、1つできるようになると糸やビーズの色を替えてバリエーションが楽しめます。糸にビーズを通しておけば、いつでも、どこでも、やりたいときにできるのも魅力。手に入りやすい材料で、しかもリーズナブルにつくれるのもうれしいですね」

「縁飾り」というだけあって、シンプルなTシャツやトップスにあしらえば、平板になりがちな装いに自分らしいエッセンスを加えることができます。


▲こちらもニットリングに編みつけていくモチーフ。トルコでは「スイカの一切れ」と呼ばれているそう。『ビーズの縁飾り Vol.3』では、ルームウエアの縁飾りとして、トップス、ショール、ルームシューズの3点セットで紹介。


▲ブラウスのピンタックに沿って縫いつけた縁飾り。同じ編み図でもビーズの色や糸の太さなどで印象が変わる。

 

トルコの針仕事を紹介するお店、「ワサビ・エリシ」

「ビーズのoya教室」が開催されていたのは、東京・世田谷羽根木にある針仕事の専門店「ワサビ・エリシ」。店内には店主の赤松千里さんが買い付けたトルコの手仕事の品々が並んでいます。


▲オヤのスカーフやアクセサリーが並んだコーナー。


▲イーネオヤやトゥーオヤで飾られたトルコのスカーフ。ヤズマといわれる生地は、バスクと呼ばれる木型に染料をつけてプリントする。花や植物といった素朴な柄が味わい深い。


▲トルコの女性たちが編んだイーネオヤ。現地でもこんなふうに紙に巻きつけて売られている。スカーフ用に40モチーフが仮糸でつながっているのが一般的。

 

その国、その土地に根づいた文化を想う

ワークショップを終え、手元に残った小さな編みかけを眺めながら、なんとかこれを完成させたいと強く思いました。西田さんや今村さんに言われた言葉と、指の動きを思い出しながら、ニットリングをひとつ、また、ひとつと編み進めていきます。

もっとうまく、速く編めるようになりたい。そんな気持ちと同時に、トルコのオヤについてもっと知りたい、という欲も出てきました。

取材前に“予習”と称して購入した『トルコの伝統手芸 縁飾り(オヤ)の見本帳』を再び繙きます。著者の石本寛治さん・智恵子さん夫妻がトルコで出会った数多のオヤから585モチーフを収録したその本は、まさにオヤ図鑑。よくもまあ、これだけたくさんの図案を考えついたものだとしみじみ。

数センチ編むのに数時間かかるモチーフもあるというオヤ。そんな“苦行”にもかかわらず、トルコの女性たちはずっと編み続け、今もトルコ最大のギョネンオヤ市場では、毎週、自分たちが編んだオヤを抱えて、たくさんの女性が集まってくるそう。

民藝運動を起こした思想家、柳宗悦は、「何千万個と同じ品を、早く、たくさんつくることは技術を非常に熟達させ、つくる意識を超え、無心でつくれるに至る」とし、無名のつくり手であっても、その作品は普遍的な美を湛えていると述べています(『無有好醜の願』)。

オヤに心惹かれるのは、トルコの女性たちが無心に編み続けた結果、とんでもなく美しくなってしまった“民藝”だからなのかもしれません。

どんな国にも、どんな地方にも、その土地と文化に根づいた手芸があります。表現方法こそ異なれど、根っこの部分は同じ。トルコの手芸を扱う「ワサビ・エリシ」さんが、こぎん刺しのワークショップも開催しているのは、そこに共通点があるからなのね、と、ひとり合点がいきました。

心ある研究家や手芸家が、口承の伝統工芸を解明してくれたおかげで、私たちが今、こうして手芸として楽しめる。この幸せなめぐり合わせに感謝です。

 

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