インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 季節のイベント, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 季節のイベント, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2021/01/06
フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第23話はローズ・ド・ノエル(クリスマスローズ)のお話です。
撮影・文:斎藤由美
ローズ・ド・ノエル(クリスマスローズ)は、ノエルの頃に咲く品種があることから名づけられ、庭に彩りのない時期に花を咲かせるため「冬牡丹(フユボタン)」「寒芍薬(カンシャクヤク)」または「冬の女王」と呼ばれています。
冬、お花屋さんの店先に並ぶ鉢植えのローズ・ド・ノエル。これを使い、本当に簡単で、プレゼントにも好適なアレンジをご紹介しましょう。
第22話に登場したコケボク、手に入らなければミズキやヤシャブシを、花や葉を傷つけないよう、鉢の土に挿します。流れの美しい枝を選ぶのがポイントで、高さは花の1.5倍から2倍を目安に。高低差をつけて数本あしらえば「冬の森」のできあがり。土が見えている部分はコケ、白い化粧砂、あるいは綿で隠して。同じものをいくつか並べ、テーブルの中心、あるいは玄関チェストの上に飾るのもいいと思います。
切り花も白、緑、ピンク、モーヴ、黒に近いワインレッドなど種類豊富にそろい、また一重のものと八重咲きでは異なった魅力を放っています。
フェチダスと呼ばれる木立ちタイプは茎がしっかりして、自立するので扱いやすいですが、恥ずかしそうにうつむいてしまう品種も多く、ブーケを組むときはちょっとしたコツが必要です。
ローズ・ド・ノエルと枝を組み合わせ、枝の股に花をはさんだら、茎をそっと下方に引いてみてください。花がすっと上を向きます。ラナンキュラスやカラーの上に、うつむいたまま乗せ、茎を下に引っ張ると、ローズ・ド・ノエルの顔がほかの花の上に起き上がってきます。
ローズ・ド・ノエルはうつむいたままでもかわいいのですけれど。いえ、うつむいている姿がいいともいえます。その場合は、棚の上のような高い場所に飾り、下から見るといい眺めです。
以前、ロンドンに住んでいたAさんが、毎月1回パリまでレッスンに通ってくださいました。それまでにさまざまなデザインをお伝えしてきたので、ごくシンプルに、モミの枝とローズ・ド・ノエルだけを小さく束ね、極細の白いベルベットリボンでさっと結わえました。プロコースにしては簡単すぎるかと心配したのですが、Aさんは「今までで一番印象に残る、大好きなブーケです」とニッコリ。
その後、Aさんは東京・西荻窪に花とアンティークの店を構え、ヨーロッパに買い付けの際、レッスンにいらっしゃいます。
ある時、レッスン会場であるフラワーショップ「ローズバッド」の都合で、予定していた日にAさんのレッスンができないことになりました。「フランスではよくあることですから」と理解していただいたとはいえ、翌日に変更したのが申し訳なかったので、カフェでアペリティフすることに。
私が白ワインにカシスのリキュールを入れた、典型的な食前酒「キール」をオーダーするとAさんも「初めてですが、それにしてみます」とトライ。楽しく会話をしているうちに、私の脳裏にひらめくものがありました。
翌日のレッスンに、家で20年寝かせていたカシスリキュールの瓶を持参。ヴィンテージ感の出た瓶の周りに、アイビーを巻きつけて装飾してローズ・ド・ノエルを一輪、あしらいました。たったこれだけのレッスンですが、Aさんは私が「ローズ・ド・ノエル」と「カシスリキュール」の思い出を表現したことをわかってくださったのです。
花の量が多いとか、レッスン時間が長いからよい、という価値観ではなく、アイディアやその奥に潜むストーリーに共感いただけて、私もとてもうれしく、印象に残るレッスンになりました。
大きなブーケを持っての移動は難しいと思い、器を持ち帰れる小さな作品にしたことも喜んでいただけました。「瓶も古道具としてお店で売れますね」とAさんを見送ると「これは宝ものだから絶対に売りません」。またも満面の笑顔でローズバッドを後にされました。
ローズ・ド・ノエルの水あげ法は、ちょっと変わっています。できればハサミではなくナイフで茎を斜めに鋭くカットした後、十文字に切り込みを入れ、ぬるま湯につけておきます。いつもこれだけで、ぐったりした花がシャンとしてきます。もしこの方法で水が揚がらなかったら、全体を新聞紙で包み、茎から1〜2cmを熱湯につけ、1〜2分したら水に入れる「湯あげ」を試してみてください。すぐにぐったりしてしまう、という印象を持たれがちなローズ・ド・ノエルですが、いったん水がきちんと揚がると、花びらに見える部分は「萼(がく)」なので、とても長持ちします。
驚くことに、この可憐なローズ・ド・ノエルはスズランと同様、葉や根に毒性があるそう。今まで扱ってきてとくに問題はありませんでしたが、一応知っておいた方がいい知識です。
私が提案している「シャンペトル」スタイルは、花と同等に「葉もの」も重要な存在。この季節は柔らかい色のユーカリがローズバッドのスタメンです。主流は濃い緑灰色のユーカリで、ニュアンスカラーのものは200本に1本の特別変異なのだそう。もちろん花市場の価格も高め。花より高価なときもあるくらいです。しかし、この明るい色としなやかな曲線が冬の花を引き立ててくれます。日本からレッスンに来る方々が、最もうらやましがるのがユーカリですが、最近日本でも徐々に入手できるようになった様子。お花屋さんに行ったら、ぜひ葉ものにも注目して、花と組み合わせてみてください。花あしらいが格段に上達したように思えますよ。
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/
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