インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, リース, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, リース, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2020/11/04
フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第19話は秋アジサイのお話です。
撮影:斎藤由美、FSO(中国・斎藤デモンストレーション)、MOMO(韓国・デモンストレーション) 文:斎藤由美
フランスは11月の始めに Toussaint(トゥーサン)という祝日があり、お墓参りに行くのが習わし。日本のお盆や、お彼岸といった感じでしょうか。墓地には丸く成形された鉢植えの菊を供えます。そのため、10月末から花屋さんの店頭やマルシェには大小、色もさまざまな菊が並びます。
この時期、花屋さんの店内に多く見られるのは立派なアジサイ。日本でアジサイといえば梅雨どき、6月の花というイメージが強いようで、秋のレッスンに使うと驚かれることがしばしばです。
最近は日本でも「秋色アジサイ」「アンティークアジサイ」という名前で流通するようになったので、以前に比べると違和感が少ないかもしれません。フランスではオランダ産のアジサイが1年中、手に入ります。ところでみなさんはアジサイの原産国を知っていますか?驚くなかれ、日本なのです。
世界一の花卉生産国、オランダが近いこともあり、日本にくらべると花の値段が安いフランスですが、アジサイは1本2000〜3000円相当と「高嶺」ならぬ「高値の花」。とはいえ2週間ほど持ちますし、そのままドライフラワーにもなるので、結局はコストパフォーマンスのいい花といえるでしょう。
レッスンに通ってくださるパリ在住の方々は、ドライにしたアジサイと藍染めから自作したテディベアを並べて飾ったり、別のレッスンで使ったコケボクと一緒に花器に入れて楽しまれたり、しているようです。
ナチュラルカラーのリボンやラフィアで結束し、逆さに吊るすとスワッグのできあがり。さりげない壁飾りになります。ツルを丸くからめて小房に分けたアジサイをボンドで接着し、リースにしてもいいですね。
大人の頭ほどもある大きなアジサイは存在感があり、長持ちするので、とくにアボンヌモン(定期装花)には欠かせない花材です。
ランジス花市場ツアーに行くと、フローリストたちの仕入れを見ることができます。ローズバッド・フローリストの台車は主にアジサイが積まれているのがわかります。
ローズバッドが担当する三ツ星レストランのピエール・ガニエール、天才パティシエと名高いピエール・エルメの本社の生け込みにもアジサイが大活躍。緑、青、紫、赤、ピンク、白、と色が豊富なので、毎週色を変え、雰囲気が違う投げ入れにできるのも魅力です。
フランスは10月末から冬時間になり、どんどん日が短くなります。その上、11月は毎日のように小雨が降って、とても陰気な季節。いくらフランスが好きな私でも、この暗い日々には堪え難く。また鮮やかな紅葉を愉しむため、日本に仕事を作り、パリから脱出するのが11月の恒例になっています。
第9話に登場した、中国で花店とフラワースクールを営む若き経営者が、パリの短期集中レッスンに参加してくださいました。それをきっかけにローズバッド・フローリストのオーナー、ヴァンソンとともに招聘され、3年連続で11月に中国出張。香港に近い東完市と広州市でデモンストレーションとレッスンを行いました。
また2019年には拙著が韓国で翻訳出版されたこともあり、韓国・ソウルでも同様の機会に恵まれることに。写真を見返すと、ヴァンソンも私も両国でアジサイを使用しています。ボリュームがあり、カラーバリエーションも豊富なアジサイは、こういったイベント時に頼もしい花材なのです。
とくに中国では国産のアジサイが安価に入手できるとのことで、ヴァンソンは参加者のみなさんと大きなアーチを制作。パリではなかなか実現が難しい、とても贅沢な装飾ができました。
フランスでは今年2度目のコンフィヌモン(外出規制)が発令され、日本はおろか、家から歩いて数分のローズバッドにさえ行けなくなってしまいました。
毎日深刻なニュースが続き、心躍る秋からは遠くなりそうですが、愚痴をこぼしてもしょうがありません。日々の小さな良きことに気づく感性を養い、ユーモアを忘れず、この状況を乗り切りたいと思います。
心がザワザワする、なんとなく気が晴れない、いつも不安だ、というときに驚くほど効果があるのが植物の力です。「自分に花なんて似合わない」と思いこんでいる人や「とくに花が好きというわけではない」という人にもぜひ一度、試していただきたい「花と緑のある生活」。たった1本でも構いません。花があることでどんなに心がやすらぐことか。この春経験した2ヶ月間に渡るコンフィヌモンで実感しました。今回も配達してもらえそうなので、花から元気をもらうことにします。
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/
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