インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2020/09/16
フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第 16話は雑草のお話です。
撮影・文:斎藤由美
花のある暮らしをしたいと思うけれど、なんとなく気恥ずかしい。あるいはお花屋さんの敷居が高く感じられる人もいるでしょう。慣れてしまうと花がないのはさびしいものですが、最初は「花を飾るのは特別なこと」と思ってしまいがちです。また、どのくらいの本数を買えばいいのかわからないし、値段も張るのでは、と不安が先に立つ場合も。
そんなとき、まず雑草から親しむのはいかがでしょうか?裏山や庭がなくても、道路脇をよく見れば、生命力たくましい草が生えているはず。そこから数本抜いたとしても、咎める人はいないと願います。むしろ環境の手入れをしているくらいの気持ちで、自然の恵みをいただき、生活に取り入れる。こんな視点で歩くと、通り慣れた道でも違った愉しみが増えること請け合いです。「忙しくて道ばたを見ている余裕なんてない」と思うかもしれませんが、慣れれば大丈夫。いつも遅刻気味で小走りの私ですが、目はちゃんと植物をとらえています。
先日、我が家に活けてあった花農家のブーケを見て「うちの庭に生えている草も入っていますけど、これも花材になるんですか?こんなふうに花と一緒に飾ってもいいんですね」と感心した日本人女性がいました。
フランスでは花と雑草の区別がゆるやかな気がします。花壇にも公園にも日本だったら「え?雑草?」といわれてしまいそうなグラミネ(穂)を美しいものとして植えていますし、花市場には野にある草や実が、立派な「商品」として並んでいます。
サンジェルマン・デ・プレにある有名なパン屋さんが、その隣にレストランをオープンしたときのことです。各テーブルにはガラス瓶に入れた雑草が飾られていました。定期的に「ローズバッド・フローリスト」に花を買いにくるオーナーに聞くと、週末の家の庭に咲いている草を自ら摘んだもの、とのこと。素朴な田舎パンとお料理、ナチュラルカラーの内装にもぴったりでした。
同じくサンジェルマン・デ・プレにあるハイセンスなインテリアショップは、日本で庭木というイメージのマユミをシンプルにディスプレイ。
毎年1月と9月に開催されるインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」の会場も、フィトラカ(ヤマゴボウ)やグラミネを1種で投げ入れたブースが多く見られます。「花飾り=豪華な花々」というわけではありません。
シャンペトル(野山の風情)なスタイルで知られるローズバッドも、秋はグラミネと呼ぶ穂をはじめ、枝、実を多用します。花よりそれらがメインといってもいいかもしれません。あるカップルからは結婚式にグラミネだけのブーケを注文されました。このスタイルは都会の真ん中に住む、自然を愛する人たちから高い支持を集めています。
秋はレッスンにも雑草や枝を多用し、この季節ならではの空気感を取り入れています。コスモスとカラーがメインのブーケにグラミネを加えると、濃い色調に明るさと、風にそよぐ軽やかさを与えてくれます。
こちらのブーケはヤマゴボウを長いまま使い、大きなアジサイを支えつつ、大胆な動きを表現しています。枝分かれした花材を使うときは、茎をくるくる回しながらピタっと収まる場所や高さを見つけるのがコツ。ヤマゴボウを使ったパリのトップフローリストのブーケを紹介したとき、日本から「うちの裏に生えている雑草が、パリでかっこいいブーケになっている!」という驚きのコメントが多数届きました。
私はレッスンと執筆を主な活動にしているので、ブライダルの仕事は受けないのですが、ローズバッドの元研修生Yさんの結婚式がパリで行われたときは、お祝いに装花をさせてもらいました。
ドレスの色はアンティークレースを思わせるエクリュ(生成り)。すぐに教会の高い天井に映えるパンパスグラスと、秋の光を受けて渋く輝くクレマチスシードが目に浮かびました。しかし花市場に下見に行ったとき、まったく入荷がなかったのです。ほかの花を使う気になれず、花仲間のNさんととともに、第15話で紹介した森に行き、採取させてもらいました。
Yさんの挙式前にほかのカップルの式があり、提示された装花時間はわずか15分。その場で生けこむ時間はありませんから、置くだけでいいように大きなアレンジメントを2基準備しました。
黒いプラスチック桶に、森で採ったツタを巻きつけカバー。中に吸水スポンジを仕込み、パンパスグラス、クレマチスシード、ヘデラベリーと、花市場で調達したダリア、キャロットソバージュ(ノラニンジン)を挿していきます。
ローズバットの営業時間内には、私たちが作業に使える場所がなかったことと、つくったものをそのまま運べるようにと、オデオン広場に駐車していたトラックの荷台で制作。パリの渋滞には何度も辟易しているので、早めに教会に向かい、仕上げは公道、教会前のベンチで行うという思い出深い装花になりました。
パリの挙式に先立ち、花嫁が自らプロデュースした東京での披露パーティーで使ったセルリアをバージンロードに。セルリアの色に合わせたダリアと森の草が、教会に差し込む光を浴び、優しい空気に包まれた式でした。
最近のドライフラワー人気を受けてか、パリのカフェでもグラミネなど雑草系のドライフラワーをテーブルに飾っているところが多くなりました。うっかり水替えを忘れても、元々たくましい雑草は長持ち。穂や実はそのままドライになります。雑草に似合う小さな器を使うときは、下に1枚お皿を敷くと佇まいがよくなります。複数の器を使うときも、一緒に乗せることでまとまりが出ますよ。ようやく涼しくなる季節、気負わずに花と緑のある暮らしを始めてみませんか?
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/
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