インテリア, フラワーアレンジメント, 多肉植物, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, 多肉植物, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2020/08/19
フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第14話は、ランのお話です。
撮影:斎藤由美、坂元由佳(ランとグラミネのアレンジメント) 文:斎藤由美
みなさんご存知のように、フランスの8月といえば「ヴァカンス」。「フランス人はヴァカンスのために働いている」といわれるほど彼らにとって大事な行事。1年のハイライトといっていいかもしれません。
よって夏はパリのお花屋さんも軒並み休業。早いところは7月から、丸2か月閉めたままという店もあります。
以前、ヨーロッパのフローリストを紹介する書籍のフランス部門を担当したときのことです。編集部から打診された取材日程がよりによって8月でした。パリ市内のフローリストを調べたところ、開いているのは2店だけ。それでは満足いく内容にならないため、他の国から先に編集を進め、フランスだけ取材日程を9月にずらしてもらったほどです。
日本のお花屋さんから「そんなに休んで経営は大丈夫なんですか?」「自分の店も夏は開けていても売り上げが上がらないから休みたい。でもお客さんが離れてしまいそうで怖い」といわれます。
パリの場合、アボンヌモン(定期装花)先であるレストランやブティックが夏季休業に入るので、主力の生けこみがなくなります。また常連客も海や山へ長期で出かけてしまい、花を買いに来る人がいないので、店を開けていても商売になりません。加えてパリの花店はキーパー(冷蔵庫)がないところが多く、夏場は花の管理が大変。また花市場も営業はしているとはいえ、ほとんどのスタンドが閉まっているので、仕入れも困難です。それならば無理せず、しっかり休んで英気を養い、新年度の9月に備えよう、というわけです。
このようなオンとオフの切り替えが見事なところ、人生を愉しむフランス人を見習いたいと思います。
私がレッスンを行っている、サンジェルマン・デ・プレ界隈の「ローズバッド・フローリスト」も7月末から約1か月、ヴァカンスに突入。ホテルなど夏の間も営業している顧客には、週1回の生花を納める代わりに、ランを使った寄せ植え的アレンジを納品し、休みの間、飾ってもらいます。
以前はよく「お盆しか休みが取れないのでパリに行きますが、レッスンお願いできますか?」というお問い合わせをいただきました。簡単に、何度も来られる場所ではないと思い、一時帰国で留守の友人宅を借り、レッスンをしていました。
しかし8月15日はフランスの祝日ということもあり、その週は花市場に行っても開店休業状態。市場はがらんとして誰の姿も見えず、まるで砂漠のようでした。血眼になって広い市場内を走り回り、ようやく開いているスタンドを発見。ランやアンスリウムを使い、お客様に喜んでいただけましたが、それ以降、8月はレッスンを休業することに。
最近はオンラインでヴァカンス先でもレッスンが可能になりました。が、しっかり休んで心身ともに解放し、リフレッシュした後、一生懸命働くというメリハリが大切だと実感しています。
もし長期休業しても「この人にお願いしたい」「待ってもいいからこの店で買いたい」と思ってもらえるような仕事をすること、日頃からお客様との信頼関係を築くことが大事では?というのが前述した日本のお花屋さんの問いに対する答えです。経営についてはフランスの場合、11か月分の収入で1年まかなう感覚が身についているのかもしれません。
最近は日本のみなさんに「8月はパリに行ってもお店が閉まっているから花屋さんめぐりもできないし、花市場ツアーに行っても見応えがない」という状況が浸透してきたようです。しかし「どうしても夏休みにしかパリに行けない」という声も多く、夏でも営業しているホテルを訪ね、花装飾を見学しつつ、優雅なティータイムを過ごす「ヴィジット」を提案しています。夏はどのホテルもランを使った装飾です。
ランは高価ですが、2週間以上飾れることが多く、コストパフォーマンスがよい花材です。1輪でも存在感と高級感があるため、館内装飾を担当していたホテル・リッツでは常備していました。
そのまま花器に入れるだけでも美しいですが、スチールグラスや小ぶりのアワといったグラミネ(穂)を添えるのがおすすめ。軽やかで自然な風を感じることができます。高級花材と路傍に咲いている草という意外な組み合わせが、なんとも粋。
日本からレッスンに来る方々に、ランと野趣あふれる雑草を組み合わせたレッスンをすると決まって「ランは鉢のお祝い花というイメージが強くて、あまり好きではなかったけれど、こういう使い方ならいいですね」といわれます。
ランとグラミネは花器の水を汚さず、ほとんど減らないので、毎日水を足す手間もなく、驚くほど長持ちします。
水を入れたプラスチックチューブにランを挿し、果物を盛ったお皿にチューブが見えないよう添えるとオリジナルなテーブルデコレーションになります。観葉植物の鉢の一角に挿し、ワンポイントにしても。ランはプラスチックチューブに入った状態で入荷することが多いので、お花屋さんに聞いてみてください。
元気がなくなってきた花はカットして水盤に浮かせると、もう少しの間、涼しげに目を愉しませてくれるでしょう。アクアプランツ(浮き草)と一緒もいいですね。「花はすぐ枯れてしまう」「夏は花がもたない」という方に、ぜひランのある暮らしを試していただきたいと思います。
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/