インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2020/08/05
フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第13話は、コスモスのお話です。
撮影・文:斎藤由美
日本でフラワーレッスンを行っている花仲間のSNS投稿を見ると、パリとほぼ同じ花材を使っています。ただし第11話に登場したスイートピーと、今回紹介するコスモスは、出荷の時期にかなりの違いを感じます。日本では「秋桜」という名の通り「秋の花」というイメージではないでしょうか。一方、フランスでは7月から花市場にコスモスが登場。公園の花壇にも夏の陽射しを受け、たくましく咲くコスモスの姿が見られます。
ですからヴァカンス前、7月のレッスンにコスモスを使うと、日本から来た方々に「もう出回っているんですか?」と驚かれます。
2019年の7月下旬、フランスで最高気温42℃が記録されました。もちろん過去に例を見ない驚異的な数字です。
2003年の猛暑でお年寄りをはじめ1万5千人が亡くなったフランスでは、以後充分な水分補給と、日中の外出を控えること、雨戸・カーテンを閉め切って外気を遮ること、を何度も喚起しています。もともと湿度が低く、夏は過ごしやすいヨーロッパはクーラーがない家庭がほとんど。また設置したくても構造や美観の問題で難しいのです。いくら窓を閉め、熱気が入ってこないようにしても、42℃が予想される日にアパルトマンに留まるのは無理がある、と友達はクーラーのある図書館へ避難していました。
幸いなことに私は「パリ花留学・短期集中レッスン」週間で、熱波が続く中、涼しいローズバッドで過ごすことができました。このときは一日の中で一番気温が上がる16時にレッスン時間を変更し、できあがった作品はすべて、涼しい店の地下で保存。ホテルに花を持って帰っても、部屋に飾るどころか、途中でくったりすることが明白だったからです。そのおかげで、コンポジション(バスケットアレンジメント)は先につくったシャンペトルブーケとブーケ・ド・マリエを解体し、3個分の花材を使った豪華なものになりました。
気温42℃を記録したまさにその時間、店外で撮影を試みたところ、風も強くて、まるで全身にドライヤーの熱風を浴びているようでした。一瞬でコスモスがしおれそうな暑さです。強い光に照らされ、白く陽炎のように揺れていた、誰もいないオデオン広場とコスモスは、私の記憶に焼きついています。
夏といえば、フランスの結婚式はヴァカンス期に、地方の農場を改装した会場で、泊まり込みで行われることがよくあります。集まった親戚や友人たちは夜通し踊ったり、翌日広い芝生の庭でサッカーに興じたり、と連日お祭りのよう。日本の「2時間の披露宴」とはずいぶん感覚が異なります。
ある年の7月下旬、ローズバッドのフローリストが懇意にしている花器ブランドのオーナー子息のブライダル装飾のため、ブルゴーニュに出発しました。宿泊を伴う仕事だと把握できていなかった私と日本人研修生は、着替えも持っておらず、お店のトラックに乗ってからその事実を知り、顔面蒼白。細かい連絡や確認がないのは「フランスあるある」。実はこれが初めてではありません。「5分だけでいいから」と頼んで家に寄ってもらい、必要なものを2人分かき集め、急いでトラックに戻りました。
会場は、広い芝生の庭をぐるりと囲む石造りの建物。2階にゲストルームが連なっています。建物の裏にはダリアが咲く花壇があり、その向こうには教会の尖塔が見えます。反対側にはさらに広い庭があり、パラソルや寝椅子も。一応、下見ですが誰からも急きたてる圧がなく、仕事に来たという感じがまったくしません。
のんびり周辺の散策を終え、翌日やってくるケータリングのじゃまにならない部屋を作業場にし、トラックから花を降ろしたら、夕食の時間まで近所の野原で蔓や枝を採取します。シャンペトル(野山の風情)を好むフローリストたちが地方の花装飾に行ったときに必ずするキュイエット(採取)。豊かな自然に囲まれたフランスでは、少々のキュイエットに寛容なようです。もちろん私たちも景観を壊さないように気をつけ、乱獲はしません。花市場で購入した花だけでなく、現地で採取した枝や蔓を使うと、周りの風景と調和した空気を会場に演出することができるのです。
翌朝、庭に机を出し、気持ちよく鼻唄を歌いながら作業を始めると、花器ブランドの会社から発送したはずの器の一部が届いていないことが発覚しました。
発送を担当したオーナーである新郎の父は責任を感じ「これから車を飛ばして取りに行ってくる」といいますが、花器があるのは、遥か国境を越えたドイツです。「手元にある花器できれいに作るから大丈夫!」と笑顔で力強く繰り返す私たちに、新郎の母は涙をこぼしていました。そんなハプニングがあり、本来はキャンドル用の器に、白い可憐なコスモスのブーケを飾ったのでした。
予定されていた花器がすべてそろわなくても、それを感じさせないくらい素敵にできた会場を後に、パリに帰る途中。今度はトラックの前方からガタガタと大きな音がします。高速道のサービスエリアで点検すると、どうやらバンパーの片方がはずれた模様。トラックに積んであった太い針金でなんとか車体にくくりつけ、約2時間後、無事にパリまで戻りました。
このように、最初から最後まで日本ではありえないことが続くフランス。しかし、彼らの臨機応変なところ、というか「出たとこ勝負の強さ」には毎回感服します。この柔軟さと度胸、そして日本の用意周到な「段取り力」の両方を備えることができたら最強!と私は常々思っているのです。
さて。どんな花を飾るときにも共通する「ネトワイエ」。フランス語でいらない葉やトゲなどを取り除く下処理のことをいいます。基本的に花器の中に入る部分の葉はすべて取り除き、すっきりと茎だけにする、と覚えておくといいでしょう。
コスモスは細かい葉がたくさんあります。花器に入る下部だけでなく、上の方も葉を間引くと、そよそよと揺れる風情が増します。
猫じゃらしのような雑草と一輪挿しに入れると涼やかで粋な感じに。アプリコットカラーやフューシャピンク(マゼンダ)のバラと組み合わせると華やかになります。
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/
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