インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2020/07/01
フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第11話は、スイートピーとカラーのお話です。
撮影・文:斎藤由美
フランスの学校は7月初旬から年度末のヴァカンスに入ります。新学期が始まる9月まで、約2か月間の長い夏休み。さすがに大人はこれほど休めませんが、7月14日の国家の祝日(革命記念日)前後に2週間のヴァカンスを取る人が多数。アパルトマンの鎧戸が軒並み閉まり、この日を境に人口が減るのが目に見えてわかるほどです。いつも路上駐車している車が激減するので、7月のパリは道幅が広くなったように感じます。
自然を求めて海や山へ向かうパリジャンたち。彼らの休暇は周遊して観光にいそしむというより、拠点を1つに絞り、浜辺や田舎の庭でのんびり日光浴をする、というスタイルです。
最初、毎日同じ場所で食べて寝てばかりいて飽きないかと思っていましたが、実際にやってみると、これがなんとも心地よく。時間に追われず縛られず「自由」を満喫できるのです。長椅子に寝そべって本を読み、眠くなったらうたた寝して、暑くなったらプールや海に入る。その土地ならではの名産品を愉しむ。
マルシェに行けば「並べるだけ」のおいしいものがパリより安価で手に入るので、料理したくなければ買えばよし。変化がほしくなったら、近隣の名所を訪ねて気分転換。そうこうしているうちに、あっという間に1〜2週間が過ぎていってしまいます。
パリを脱出すると、車窓から鮮やかな濃いピンクが目に入ります。ポワ・ド・ソンター・ソヴァージュ(野生のスイートピー)の花色です。
日本でスイートピーといえば「春の花」というイメージですが、フランスでは夏の花。サマースイートピー、宿根スイートピーと呼ばれるものです。線路脇や庭、公園にも咲いていますし、ランジス花市場にもスイートピーが並んでいます。日本のものよりかなり短いですが。
というわけで、7月はスイートピーのブーケやコンポジションのレッスンが続きます。スイートピーは名前の通り甘い香りと、バリエーションに富む色が魅力的。とりわけシャンペトル(野山の風情)を好むフローリストたちは、クルクルとした蔓の造形に惹かれます。
ブーケ・ド・マリエ(ブライダルブーケ)のレッスンでは、主役のローズ・ド・ジャルダンを引き立てるため、あえてスイートピーの花は取り除き、蔓と曲線の美しい茎の先端だけを使ったほどです。
毎年この時期に、岡山のスイートピー農家Aさんがパリに来て、レッスンに参加してくださいます。それがご縁で、ある年の4月、出荷が終わったAさんの畑で自由奔放にくねるスイートピーを自ら摘み、デモンストレーションとレッスンをする機会に恵まれました。
結婚されたばかりのAさんのためにデモで制作した、赤いスイートピーのブーケ・ド・マリエをサプライズでプレゼント。会場にいたみんなで「赤いスイートピー」を歌いながらお祝いしました。スイートピーといえば思い出すシーンです。
Aさんと同様に異業種から就農し、千葉県君津でカラーの生産をしているTさんとは、Aさんを通じてSNSでつながっています。台風が来るたびにハウス倒壊の心配をするふたりの投稿を見て「どうぞ岡山と千葉をはずれてくれますように」と祈ります。
しかしみんなの願いも届かず、被害に遇ってしまったカラーを泥まみれになって刈り取るTさん。「泥パック中です」「地に足を着ける生活がしたいと思って就農したのに、より博打的な人生になってしまいました」と、どんな逆境でもユーモアを込めながら、お互いを励ますふたりの「作品」共演はこの機会しかない。そう思った私はTさんにお願いしてカラーを送っていただき、デモンストレーションでAさんのスイートピーと一緒にグラフィックブーケ(縦長のブーケ)を束ねました。
ブライダルと母の日の需要期で多忙を極めていたTさんと岡山での対面はかないませんでしたが、今度は千葉のTさんの畑に伺って、精魂込めて育てられるカラーでイベントができたら、と密かに願っています。私は言葉の力を信じているので、こうやって書いたことは、何年か後に必ず叶うと思っているのです。
ところで、みなさんはカラーが咲く時期をご存知ですか? 花市場に通年出回り、チューリップと春に、アンティークアジサイと秋に、モミと一緒に冬に、レッスンに登場しているカラー。
ある夏の日、郊外の庭に白いカラーがすっくりと立っているのを見たときは、思わず近くに寄って確かめました。カラーが大地から咲いている姿を見るのは初めてだったのです。カラーは夏の花だったのだ、と知り、生き生きとした姿に感動しました。
最高気温38度が予想された友人の結婚式の際は、迷わずカラーのブーケを作りました。
会場にクーラーもなく、陽射しに溶けそうなパリの夏には、肉厚で暑さに強いカラーが最適。数時間のパーティーやイベントなら保水なしで、そのままテーブルに飾ることもできます。
折れてしまった短いカラーは、スグリの実と一緒にグラスに入れました。
パリ6区のフラワーショップ「ローズバッド」では、カラーと同じくらい暑さに強く、長持ちするグロリオサを、すっきりしたラインを生かしてディスプレイ。かなり個性的な花ですが、この組み合わせも夏におすすめです。
カラーは、ほんの少しの水があれば大丈夫。水に浸かった部分の茎が腐りやすいので、水を替えるときに茎を少しずつ切り戻すとよいでしょう。
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/
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