インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 季節のイベント, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 季節のイベント, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2020/04/22
フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第6話はミュゲ(スズラン)のお話です。
撮影・文:斎藤由美
5月1日に大切な人の幸福を願って、ミュゲ(スズラン)を贈り合うというフランスの習慣は、近頃、日本でも知られるようになりました。
この日はフローリストだけでなく、誰でもミュゲを売ることができるので、駅や広場、公園前などに簡易スタンドが設けられ、朝からにぎやかです。
ミュゲの日を前に、ランジス花市場はおびただしい数のミュゲが並びます。100本単位で束になっている切り花、花と葉が別々にびっしり入った箱詰めのもの、それらに比べほっそりとしているけれど香りの強い野生のミュゲ、根つきミュゲを売るスタンドのほか、大小さまざまな鉢植えもそろっています。山のように積まれた箱やケースを見て、果たしてこれが全部売れるのだろうか?と人ごとながら心配になるほどの物量です。
お店にもよると思いますが、街角のミュゲ売りから安価で買えるので、実はフローリストにとってミュゲの日は、それほど大きな売り上げを期待できる「物日」ではありません。「ローズバッド・フローリスト」では切り花より長く楽しめるのと、前もって買っておけるのでミュゲの鉢が人気です。
フランスのフローリストは「旬」を大事にしますから、私も4月末から5月第1週目のレッスンには、ミュゲを使い、ブーケやコンポジション(アレンジメント)をつくります。
ミュゲの可憐さを愉しむならば、1種類で飾るのがいいと思いますが、他の花材と組み合わせるのなら、バラやシャクヤクのように存在感の大きい花ではなく、グラミネと総称する雑草や、ビバーナムのようにグリーンの花と合わせると、その魅力を生かすことができると思います。
ミュゲも切り花だとミモザ同様、2~3日で枯れてしまう花ですが「長持ち」より「気持ち」を贈ることが何より大事。フォトジェニックな姿を生かし、お気に入りの雑貨とスタイリングして、写真に残すのもいいですね。
昨年、ミュゲの押し花をつくったので、カリグラフィー、アンティークリボンと組み合わせて、小さめの額に入れたいと考えています。ギフトにも使えそう。例え長持ちしない花でも、アイディア次第でいろいろ愉しめます。
日本でも手に入る、根つきのミュゲは根をつけたままブーケにすると、切り花よりは長持ちします。土におろすと翌年小さな花を咲かせてくれます。ただし、根には毒があるそうなので、ブーケの水を取り替えるときや、ペットが口にしないよう気をつけた方がいいでしょう。
昨年、パリのマレ地区にスタンドを設置して、ミュゲを販売する友人フローリストのお手伝いをしました。ちょうど日本からパリに来ていたフローリスト仲間と一緒に、パリ近郊で行われた準備に参加。パリから電車で30分、こんなに豊かな自然の風景が広がります。
友人が住んでいるのは、主に枝や葉ものを栽培して、週2回トラックでパリのフローリストを回って販売するフォイヤジストが住む集落。グラミネやビバーナムはすぐ隣の畑で調達できます。昔の農家を改装した大きな作業場もあり、4人で手分けをして10ユーロから50ユーロまで、大小100個のブーケとコンポジションをつくりました。
作業後は、広い畑を散歩したり、木陰で「おつかれさま」の乾杯をしたり。集中した後は一転、ゆるやかな時間を過ごしました。こういうメリハリのあるリズムは、とてもフランスらしいと感じます。
さて、ミュゲの日当日は、おしゃれで知られるマレの住人たちが興味深そうにスタンドに寄ってくれ、たくさんつくったブーケやコンポジションは、ほぼ完売。1番出足がよかったのは15ユーロのブーケでした。もっと高額のブーケがほしいという人も意外に多かったです。
私は普段、レッスンばかりで販売する機会がないので、自分が作ったコンポジションを手にしてくれたマダムに感激。心の中で何度もお礼をいいました。
販売に立ち会ったものの、あくまで「お手伝い」という気楽なスタンスなので、ときどき「プロモーションに行ってくる」といい残して近くの公園を散策したり。
カフェのテラスで食事をしたり、マッチ売りの少女よろしく営業したり。好天にも恵まれ、ミュゲの日プロジェクトを満喫しました。
実際は遊びに行ったようなものでしたが、帰りに友人から「お礼に」とミュゲのブーケをもらいました。帰宅途中にカリグラフィーを習っているお店を通ったので先生にも幸せをおすそわけ。ブーケからサッと抜いた数本でしたが、とても喜んでもらえ、お花ってこんなに力があるものなんだと再認識しました。
とても気分のいい一日の終わりに仲間とカフェのテラスで乾杯。これはフランスで覚えた「アペリティフ」という習慣です。夕方、カフェや友達の家で軽く飲む時間は、仕事の日はオンとオフの切り替えになりますし、また食事に招待するほどの負担がなく、気軽に家に集まれる機会として、パリジャンの日常的なシーンになっています。
今年はコロナウィルス対策のため、フランスでは5月中旬まで外出が制限されており、残念ながらミュゲを直接渡すことができませんが、大切な人たちにメッセージを添えて、画像を送ろうと思います。ミュゲが運ぶ幸運の鈴の音が、世界中に響きますように。
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/