インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, ブーケ, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2020/04/08
フラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第5話に登場するのはリラとビバーナムです。
撮影:斎藤由美、Masako TAKANO(ランジス市場) 文:斎藤由美
生け花の先生に「春は黄色い花から始まる」と教わりました。「まず咲く」から転じたといわれるマンサク、レンギョウ、スイセン、ミモザ・・・。「春の訪れを告げる花」が黄色なら、それに続くプリュニュス(梅、スモモ)、スリジエ(桜)、マニョリア(木蓮)、リラ(ライラック)などのピンクの花木は「春爛漫を謳う花」と呼ぶのがふさわしいでしょう。
パリのフローリストたちが仕入れを行うのは、パリから車で約30分ほど南にあるランジス市場です。オランダから運ばれた花が見渡す限り並べられた広い生花棟。市場視察ツアーで訪れる人々の目が一瞬で輝きます。
ランジス市場にはオランダで競りが済んだ花が運ばれるので、ここで競りが行われることはありません。60ほどあるスタンドは仲卸という形態です。
市場の一角に旬の花だけが並んだコーナーがあります。生産者のスタンドです。冬の間は花が乏しいのでがらんとしたさびしいスペースですが、4月になるとリラが登場。冬眠から覚めたように活気づき、しばらく顔を合わせなかった生産者とフローリストが、お互いうれしそうにあいさつを交わします。
色見本に「ライラック」という、そのものずばりの色があります。明るく薄い紫色。実際のリラの花色は他に白、ピンク、赤紫があり、花びらも一重と八重があります。本格的な春を迎えた生産者のスタンドは、美しいグラデーションに彩られます。
そこには必ずといっていいほど、ビバーナムがあります。丈の長い輸入品のビバーナムは高価なうえ、水が下がりやすい(すぐにしおれる)花として、日本では使うのに少々勇気がいる花材ですが、生産者のコーナーでは庭木のビバーナムがまさにモリモリという物量で並び、気軽に使える価格で売られています。
ビバーナムにはスノーボールと呼ばれる小さなアジサイのような種類のほか、ガクアジサイのように平面的に小さな花をつけるオプルス、また葉だけで売られるものもあります。
スノーボールもオルプスもブーケにボリュームと明るさ、動きを出してくれる万能選手。4月から6月くらいまで、どんなブーケにも使える大活躍の花材です。
ランジス市場では店舗のディスプレイに映える、2メートル超えの長いものも手に入ります。
これだけ長いものや、ホテルのロビーに浅水で飾られているビバーナムを見て、日本から来たフローリストが水下がりしないことに驚いていましたが、フランスでは一度しっかり水揚げできれば、比較的長もちする花材と認識されています。
水揚げをするときは、茎をナイフで斜めにそぐように、なるべく表面積を大きくするのがコツ。その後、たっぷりの水につけます。こうすると水を吸う導管がつぶれにくいので、しおれにくくなります。覚えておくと便利なスキルですから、レッスン時にナイフの使い方を練習するときもあります。
家庭で飾る際、ナイフは使えないという場合は、ハサミで枝に十文字の切り込みを入れるといいでしょう。
またリラやビバーナムを大量に水揚げするときは、かなづちで下から10cmくらいまで、枝を叩き割ることもあります。
その後、リラはぬるま湯につけるとよい、と先輩フローリストに教わりました。リラのやわらかいグリーンの葉は美しいのですが、取り除いた方が花の先までシャキッと水が上がります。その代わりにビバーナムの葉を添えると花が引き立ちます。
リラもビバーナムも延命材が添付されていることが多く、もしお花屋さんでもらったら花瓶の水に入れると安心です。
丈が長いと水が下がりやすいので、思い切り短く切り分けて、たっぷりの水に入れて飾るのもおすすめです。種類の異なるビバーナムだけで、花らしい花がないのも目に爽やかでいいですね。
パリ郊外に家族ぐるみで親しくしているフランス人の友人宅があります。彼のお父さん、ベルナールは料理が大好き。会社勤めしていたときから、毎週日曜日は自らマルシェに行き、スタンドを何軒も回って鮮度はもちろん、産地や部位にこだわって食材を買ってきます。
「みんなの喜ぶ顔を見るのが自分の喜び」というベルナールのおもてなしと、ゲストを少々待たせたとしても、熱いものは熱々で、魚や肉は最高の焼き加減で食べさせたいという気持ちのこもったお料理は本当においしくて。それを私のブログで見たレッスン常連の方々から要望があり、一緒におじゃますることもたびたびです。
花が好きな方はおいしいものやインテリアも好きな方が多いよう。単なる旅行ではなかなか見ることのできないフランス人の家庭で、牡蠣剥きや料理の下ごしらえを手伝うなど、生きたフランスの文化に触れる機会として、ベルナールのお宅訪問はとても喜ばれています。
私のレッスン常連組から「人生を愉しむ達人」と呼ばれるベルナール。食材を選ぶときも「旬」を大事にします。花と一緒ですね。4月だと前菜は白アスパラで決まり。メインは仔羊を、天気がよければ庭でバーベキュー、急に冷え込んだときは暖炉で焼いてくれます。デザートは瑞々しいイチゴ。
もちろんテーブルには、庭で採取した花やグリーンでブーケを作って飾ります。
リラの季節はちょうどパック(復活祭)と重なります。庭でカットしたリラとノワゼチエ(ヘーゼルナッツ)の銅葉、アイビーで食卓用のブーケを作ったり、あちらこちらに隠した卵型のチョコレートを競って見つけたり。こうしてフランスの「行事」と「花」と「食」はセットになって、私たちに春の幸せな記憶として刻まれるのです。
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/