インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, 暮らし, 植物, 花
インテリア, フラワーアレンジメント, フランス, 暮らし, 植物, 花
更新日: 2020/03/11
2月からスタートしたフラワーデザイナー&フォトエッセイスト斎藤由美さんの連載、「パリスタイルで愉しむ 花生活12か月」。第3話のお話はチューリップです。
撮影・文:斎藤由美
「花の名前はまったくわからない」という人でも、チューリップは知っているのではないでしょうか? そのくらいポピュラーで、ふっくらと愛らしいチューリップ。パリでは日本よりかなり早く、1月から出回ります。
パリに住んで最初の年だったでしょうか。マルシェ(朝市)でおじいさんが野菜、魚のスタンドに寄った後、ごく自然にチューリップも買っていく姿に衝撃を受けました。「あんなに普通に、年配の男の人もお花を買うんだ」。おじいさんに引っ張られ、遠ざかるカートからオレンジ色のチューリップが顔を出していた光景は、今でも鮮やかに思い出せます。
童謡で「赤、白、黄色」と歌われているチューリップ。現在はオレンジ、ピンク、黒に近い濃紫や、白と緑のバイカラーもあり、カラーバリエーションは豊富です。
また、先がツイードの端のようにちりちりしているフリンジ咲き、パーロット(フランス語ではペロケ)と呼ばれる八重咲き、茎が50cm以上もあるすらりとしたフレンチチューリップ、尖った花びらがくるりと外を向いている種類もあり、フラワーレッスンに参加される方々から「え?これもチューリップなんですか?」といわれることがよくあります。
しなやかで奔放なフレンチチューリップを束ねたり、アレンジメントに使うときに頼りになるのが枝ものです。この季節はウメ、スモモ、ボケなど花木も豊富にそろいます。
シャクヤクやアジサイなどに比べ、同じ本数を使ってもボリュームが出ない早春の花に、伸び伸びとしたスケール感を与え、柔らかい茎をしっかりささえてくれるので、ぜひ花と枝を組み合わせてみてください。
チューリップでコンポジション(アレンジメント)をつくるときは、まず枝もので柵のように枠をこしらえてから花を挿していくと、花が倒れずにおさまります。
先日、チューリップのコンポジションをカフェで撮影していたら、白髪のマダムに「なんてすばらしいんでしょう!私も写真を撮っていいかしら?」と声をかけられました。
「もちろん、どうぞ!これはレッスンでつくってもらったんですよ」と説明すると、マダムは興味を持った様子。日程やプライスを聞かれ、内心「フランス人によくありがちな、その場だけのラテンのノリでしょう」と思っていたのですが、マダムは本気だったようで、その場で予約。本当にレッスンに来てくれました。
チューリップではなく、ミモザのコンポジションスペシャル(器を花や葉で装飾し、中にブーケを入れるデザイン)を提案しましたが「これはとってもオリジナルね!習いに来た甲斐があったわ」と大喜びしてくれました。普段、日本人を対象にレッスンをしている私にとって、チューリップがきっかけの思い出深い出来事になりました。
家でチューリップを飾るときは、豊富なバリエーションを生かして、キッチンには赤、寝室には白、バスルームには黄色というように、場所ごとに色や種類を変えて置くのも楽しいですね。チューリップは1本でも流れと存在感があるので、絵になります。水の量は少なくて大丈夫ですが、花器が軽い場合は水を増やして、倒れないように調節してください。
ひと味違う飾り方としておすすめしたいのは、パリのように同じ種類を10本買って、一方向に流れるようにそろえるデザインです。ポイントは葉をすべて取り除くこと。すっきりモダンな印象を演出できます。この場合は毎日水を取り替え、茎を洗うと傷むのを防げます。またキュッキュッと音がするような、みずみずしい葉や茎に触れるのは、とても気持ちのいいものです。
そして「ちょっと元気がなくなってきた」と思っても、そのまま観察を続けてください。花びらが飴細工のように透き通ったり、ちりめんのような質感に変わっていったりするのも実に魅力的です。そんな花びらだけを集めてガラスボウルに入れるのもいいでしょう。
また花びらが外側にひっくり返り、蕊(しべ)を見せている姿などは、まるでチューリップとは別の花を見ているようで、新鮮な発見があります。
「花なら蕾、人なら若いことが美しい」とは思わないフランスの文化のおかげでしょうか。あるいは自身が年齢を重ねているからでしょうか。日本にいるときは意識しなかった「花の朽ちていく美しさ」にも、とても心惹かれるのです。
実をいうと、たとえ1週間水替えをしなくても元気でいてくれるチューリップは、ホテルやレストランなど定期装花の強い味方です。以前、勤務していたホテル・リッツでもよく使っていました。
深夜、チューリップの生けこみ中、通りかかった宿泊客のムッシューが「花の仕事をしているなら、一度はxxxxxxに行ったほうがいいよ」と話しかけてきました。
「本当にすばらしいところなんだ」とうっとりするような表情で勧めてくれるのですが、何度聞いても場所の発音が聞き取れません。申し訳なさそうにしていると、あきらめて行ってしまったと思ったムッシューがメモを持って戻ってきました。わざわざコンシェルジュのデスクまで行って書いてくれたようです。
「Keukenhof」
それはオランダのキューケンホフ庭園のことでした。
パリ北駅から電車で約3時間半。飛行機なら1時間で行けて、定期的にパリまでレッスンに通ってくださる方がいるくらい近い国なのに、まだあのムッシューとの約束は果たせていません。来年あたり、10年来の約束を果たしに行こうと思います。
斎藤由美
パリ在住フラワーデザイナー/フォトエッセイスト。信州で花教室主宰後、2000年パリへ花留学。著名なフラワーアーティストの元で修行。コンペに勝ち抜きホテル・リッツの花装飾を担当。現在は驚異のリピート率を誇るパリスタイルの花レッスンと執筆が主な活動。花市場と花店視察など研修ツアーも手がける。著書に『シャンペトルのすべて』『コンポジション』『二度目のパリ』などがある。
インスタグラム: @yumisaitoparis
ブログ「パリで花仕事」:https://ameblo.jp/yumisaitoparis/