更新日: 2019/06/10
機会あるごとに「多肉植物は屋外で!」と言い続けているトキイロさん。なぜ、室内でなくて屋外なのでしょう? その理由のキーワードは「光」。多肉植物が独自の進化を遂げた「光合成」に謎解きのヒントが隠されています。
撮影・文:TOKIIRO(近藤義展)
「すべての植物は本来、自然の中に存在する。」
僕はこのことが植物と人が共存するうえでのキーワードだと思っています。
多肉植物と生活するうえで何かの答えが欲しいとき、僕はいつも地球の中の自然を探します。「この子たちが生まれ育った進化を刻み込んだ環境ではどんなことが起きるんだろう?」そんな疑問を探求していくと意外と簡単にたくさんのヒントに出会えるんです。
多肉植物を育てるうえでのヒント探しのなかで最も重要だと感じた要素は「光」です。今回は光についてお話ししたいと思います。ちょっと難しい話もでてきますが、おつきあいください。
多肉植物の置き場所は基本的には屋外。種類によって光合成に必要な光量に差があります。すべての植物が生育するためには、光合成によって糖を生成しエネルギーに変換することが必ず必要です。
▲空に向く黒法師(アエオニウム属)。北アフリカの地中海性気候で進化した彼らは太陽が大好き。
言い換えると光合成しなければ生きられないということです。光合成は10℃~30℃で反応が活性するので、その温度帯にあるときは光、水、二酸化炭素をバランスよく取り入れます。
ハオルチア属やリプサリス属は緩やかなヒカリで生育していますが、その他の多肉植物は直射日光下で進化をしてきたこともあり、できるだけたくさんの日光を当てる必要があります。
そもそも多肉植物というカテゴリーはどうやって生まれたのでしょうか?葉に水分、栄養を貯蔵するもの、茎や幹に貯蔵するもの、根に貯蔵するもの、見た目はさまざまです。植物分類学上、多肉植物という分類は出てきません。では多肉植物はどこで線引きされているのでしょう?それは光合成の仕方がほかの植物とは違うのです。
▲朝日を浴びたアレンジ。人も植物も朝日に当たることは健康の源。
多肉植物は、生きてきた場所の気候や環境に適応するために長い時間をかけて適応、進化してきました。多肉植物の環境に適応するべく進化した光合成を特別に「CAM型光合成経路」といいます。この光合成経路を持つものを総称して多肉植物といっているのです。
多くの植物は日中、二酸化炭素を取り入れて光合成で糖を生成し、酸素を放出します。ですが、多肉植物の場合、夜から光合成の準備が始まります。
暑い日中は、自身の乾燥を避けるために、二酸化炭素や酸素が行き来する気孔を閉じ、水分の損失を最小限に抑えます。日没をむかえ涼しくなると気孔を開いて二酸化炭素を取り込み、経路途中段階のリンゴ酸の状態で液胞に貯蔵し、朝を待ちます。
日が昇ると貯蔵したリンゴ酸と光を反応させ糖を生成します。これがCAM型光合成経路。光合成に時間とエネルギーを多く消費するため成長も遅くなると考えられています。
▲光を探しながらコミュニティーの中を絡み合いながら育っていく。
このことから、日が落ちてから、気孔を開けるときに蒸散(気孔から水分を蒸発させる)するので根からの水の吸い上げも夜が多くなります。言い換えると、夜に湿度が高く、風もない状態が続くと、光合成に必要な水を確保できなくなり、土の中の水も循環せず、バクテリアが増え、根に悪影響を及ぼす可能性が出てきます。
ですので、ポイントは夜、風が通るということ。それは屋外ということになるのです。ただし日本の夏、夜の多湿は多肉植物にとってとても辛い環境といえます。夏の夜の管理は工夫が必要になります。
多肉植物の生育には光が大事ですが、その「光」とは一体どんな光でどれくらいの強さなのでしょうか?
光合成によって葉緑素が吸収する光の波長は青の波長(400-500nm)と赤の波長(600-700nm)です。人にとって明るいと感じる波長は500-600nmの緑、黄色です。緑、黄色の波長域の粒子が多ければ多いほど人は明るいと感じます。逆に植物はこの500-600nmはほとんど使わず反射してしまう性質を持っています。
葉緑素が吸収する波長の光の粒子を「光合成光量子」と呼び、1秒間に1平方メートルに量子が何個あたるのかを表す「光合成光量子束密度」(photosynthetic photon flux density、PPFD と略される)「μ mol/㎡/s」という単位で表します。真夏の直射日光は理論値で2000PPFD、東京の実測で2700PPFDぐらいまで達しました。東京で2700ということは多肉植物の原産地ではもっと高い数値になる可能性があるということです。曇りの日は雲の厚さによって前後します。薄い雲でしたら200PPFDぐらいあるかもしれません。ただし雨が降るなど雲が厚いときは10PPFDと数値が下がってきます。
一般的に葉物の野菜、例えば、レタスやパセリ、水菜やケールなどは100PPFDで生育し出荷できるレベルに生長するといわれています。近年、屋内に作られているLEDによる生育環境の野菜工場などは葉物野菜の生産がほとんどですので、光量は100PPFDぐらいにつくられています。実になる野菜、トマトやナスなどは200PPFD以上、必要とされます。
では多肉植物はどのくらいのPPFDを必要とするのでしょう。多肉植物の場合、ほとんどが食用で生産されるわけではないので、出荷できるレベルという表現ではなく、正常に光合成をしてバランスよく健康な株を維持するために必要な光という光合成光量子束密度でいうと日照時間中平均値で300PPFD以上必要です。冬至時期の太陽は日本では正午でもかなり角度が低くなっていますが、快晴の日は1200PPFDほどあります。夏季は前に書きましたが、2500 PPFD以上になる可能性があります。多肉植物の進化してきた地域に比べると低い数値です。砂漠で育ったことを考えるとわざわざ日陰に移す必要もなさそうですね。
▲光をたくさん浴びた葉は花のような姿に。
今の時代、植物の育て方に限らず、いろいろな情報がインターネットを通して瞬時に得ることができるだけに、一つの事柄に対して多様な検索結果がヒットしてきます。インターネットに限らず、現代にあふれる情報の中で何を選択していくかが重要であると感じています。
情報に振り回されることなく、自分自身で何かの答えを見つけるときは、「誰かが書いているから」、「誰かが言っていたから」ということだけでなく、「物事の本質を知る」ように心がけてみると、ヒントが見つかるはずなのです。そしてヒントを頼りに体験してみると、答えが導き出せるようになります。
多肉植物生活、ぜひ楽しんでください。
TOKIIRO(トキイロ)
多肉植物に特化したアレンジを提案する近藤義展、近藤友美とのユニット。グリーンデザイン、ガーデンデザイン、ワークショップ開催など多岐にわたる活動の中から、空間(器)に生きるストーリー(アレンジ)を創作している。『ときめく多肉植物図鑑』(山と渓谷社)、『多肉植物生活のすすめ』(主婦と生活社)の著書のほか、監修本も多く、いずれも英語版、中国版、台湾版に翻訳され、グローバルに活躍の場を広げている。
ホームページ:http://www.tokiiro.com/
インスタグラム:@ateliertokiiro、@tokiiro_life、@pause_story_
Facebook:@AtelierTOKIIRO
ウェブショップ:www.tokiirowebshop.com
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