更新日: 2019/03/11
今年から始まったグリーンデザイナー、TOKIIRO(トキイロ)さんの連載。第3回目の前編は、多肉植物を楽しんで育てていくための管理方法のお話です。
撮影・文:TOKIIRO (近藤義展)
気温が10℃を越えてくる季節。植物たちも光合成が盛んになり、俄然生き生きとしてきます。木の芽時ともいわれるこの時期にはいろいろな変化もあります。日本では年度の境でもあります。皆さんはどんな変化がありますか?
今回のお話は多肉植物の管理方法。多肉植物との生活を送るうえで様々な情報に振り回されることなく、本質をしっかり踏まえ、ご自身で管理方法を導きだせる考え方をお伝えします。
じつは生物学的分類の中に「多肉植物」という分類はありません。葉、茎、根の内部に水を貯え、生まれ育った環境に合うように、その一部を貯蔵タンクのように進化させて“多肉質”になった植物を総称して「多肉植物」と呼んでいるのです。
多肉植物のことを書籍やインターネットで調べてみるとこんな言葉をよく見かけると思うんです。「春秋型」「夏型」「冬型」。これは日本での多肉植物の生育期分類。種類や品種によって成長期が異なるため、管理分類的なモノです。
この3つの分類、一見わかりやすそうです。ところが昨今、気候変動や異常気象など、不確定で未知数な現象が起きていて、日本の暦による季節の移り変わり自体も見直す時期がきています。
急に暑くなったり、寒くなったり。これではいつ春が来て、いつからが夏なのか、はっきりしなくて、多肉植物の分類も「果たしてこれは何型?」と迷ってしまいますよね。そんなときに手がかりとなるのは、多肉植物の原産地での気候や植生、そして光合成の仕組みです。この2つを把握したうえで、今現在の気温や湿度、風、雲の量、降雨量などの気象状況とも照らし合わせてみると、「◯◯型」にしばられずに、多肉植物の育て方や管理方法がよくわかるようになります。
▲四季折々に変化する日本の多肉植物は世界一美しいといわれています。
「植生」や「光合成」など、地理や生物の授業のようですが、もうちょっと説明させてください。ちなみに、植生とは、ある場所に生息する植物のまとまりのこと。光合成とは緑色植物が光エネルギーを用いて二酸化炭素と水分から
多肉植物の植生を知るためには、生物学上の分類階級、界(かい)・門(もん)・綱(こう)・目(もく)・科(か)・属(ぞく)・種(しゅ)を知ることから始まります。
とはいえ、全部の階級を知る必要はありません。かなり大きい分類の門・綱・目や、交配種として新種が生まれている「種」は、ひとまず脇に置いておきましょう。大切なのは、「科」と「属」。この2つを押さえておくと、進化の進み方や地域属性などの特徴をつかみやすいのです。
代表的な多肉植物を科や属ごとに表にしてみると、それぞれの科や属によって原産地が違い、その属にあった気候帯が見えてきます。
具体的な多肉植物を例に考えてみましょう。例えば今まで冬型と呼ばれていたベンケイソウ科のアエオニウム属は、原産地は北アフリカのモロッコやカナリア諸島、比較的穏やかな地中海性気候です。
▲アエオニウム属の艶姿、黒法師、サンシモン。
アエオニウム属の原産地は、一日の気温差(日較差)は10℃ありませんし、年較差も10℃ほど。夏は暖かく、高湿で、乾燥状態、冬は長く、快適で、乾燥状態、年間を通じて風が強く、ほぼ晴れです。 1 年を通して、気温は 16°Cから 27°Cに変化しますが、14°C 未満または 30°C を超えることは滅多にありません。
この原産地の気候と日本の気候、温度と光合成を合わせて年間の管理を考えてみましょう。
まず、気温に着目します。気温が30℃を越えてくる時期は、アエオニウムにとって進化の過程では経験したことのない温度であり、光合成も抑制される状態でもあります。日中からできるだけ温度の上昇を回避するためにシェードをかけ半日蔭にして風を通すことが重要となります。
次に光合成について考えます。光合成の活性温度帯は10℃〜30℃。光合成が抑制されている温度帯では光合成反応への水の供給が減るので給水も減らしていくことがポイントです。ただし光合成につかわれずとも温度が高くなると蒸散(葉や茎から水分が蒸発すること)も多くなります。蒸散が増えると葉の内圧が下がり根からの吸収が促進されます。その時に水がないと上がらないので、健康に保つには断水は避けた方が良いとも言えます。冬季など10℃を下回る温度帯もアエオニウムにとっては同様に未経験。光合成が抑制されて、糖を生成できない状態にあります。
中南米原産のベンケイソウ科は高温低温にもある程度耐性を持ちますが、そうでないアエオニウムは極端な温度変化には過敏に反応してしまうケースがあります。簡易ビニールハウスなどの中に入れるなど工夫が必要になります。日本国内では、15-30℃がアエオニウムにとっては生育に適した時期とも言えます。この時期に光量不足、水不足になると光合成ができず、エネルギーも生成されず、温度変化に対応できない体になってしまいます。
多くの種を入れる寄せ植えアレンジを制作する場合、原産地の気候を合わせる、科を合わせることにより、自然に近い景色が創れるうえに管理方法もある程度似てくるので必須条件といえるでしょう。
▲たくさん種類があってもすべてベンケイソウ科の多肉植物。
こんな風に基本から導き出していくと答えはシンプルですし応用もききます。情報が氾濫している今の時代に踊らされないよう、本質を見極めて有意義な時間を積み重ねていきたいですね。
TOKIIRO(トキイロ)
多肉植物に特化したアレンジを提案する近藤義展、近藤友美とのユニット。グリーンデザイン、ガーデンデザイン、ワークショップ開催など多岐にわたる活動の中から、空間(器)に生きるストーリー(アレンジ)を創作している。『ときめく多肉植物図鑑』(山と渓谷社)、『多肉植物生活のすすめ』(主婦と生活社)の著書のほか、監修本も多く、いずれも英語版、中国版、台湾版に翻訳され、グローバルに活躍の場を広げている。
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