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暮らしの本
著者:田口奈津子
読んだ人:水谷 花楓(ライター)
この世の中には、それひとつでも美しいけれど、重ねることでさらなる魅力を放つものがたくさんある。声や楽器の音色しかり、色彩しかり。けれど、まさか消しゴムはんこまでとは夢にも思わなかった。
『押して描く! 消しゴムはんこ』は、これまでの概念を180度覆すような一冊だ。消しゴムはんこといえば、自分の名前や好きなモチーフを消しゴムに彫って、持ち物や手紙の最後にポン!と押すもの。個人的にはそんなイメージだったのだが、本書の表紙を見た瞬間「これが消しゴムはんこ?」と目を疑ったほど。そこには、見るも素晴らしいアート作品が並んでいる。
というのも、著者の田口さんが指南するのは、複数の消しゴムはんこを重ねて押すことで、多色刷りのように仕上げる手法。ひとつ押すだけでももちろんかわいいけれど、同じ絵柄を並べたり、重ねたり、他の絵柄と組み合わせたりすることで、作品のクオリティがぐんとアップするのだ。
また、押し方にもポイントがある。ひとつのはんこに単色のインクを乗せるか、2色以上の色を乗せるか。複数色を乗せる場合も、境界線をぼかすかハッキリ分けるかで、印象はガラリと変わる。薄い色から濃い色の順でインクをつけてグラデーションにしたり、同系色で陰をつけて立体感や奥行きを出したり。一度はんこを作れば、色を変えて、押し方を変えて、アレンジも自由自在である。
「無機質な書類や宅配便の封筒、伝言メモなどに消しゴムはんこを押すことですぐに個性的になります。またこの本で紹介している『重ね押し』はアート作品と言えるので、ぜひ『消しゴムはんこアート』を体験してほしいです」とは担当編集者談。私自身、手紙を書くために便箋をよく使うのだが、送る相手によって種類を変えなければいけないことが悩みの種だった。その点、消しゴムはんこを使えば、無地の便箋さえあればいい。フォーマルな相手への手紙も花をひとつ押すだけで雰囲気が和むし、友人相手になら重ね押しをして、ちょっとしたアート作品のような素敵な便箋で手紙をしたためることもできる。絵心がない私でも、消しゴムはんこなら楽しく作品がつくれそうだ。
田口さんは、人気バラエティ番組『プレバト!!』で有名人たちの作品を添削していることでも話題。本書でも、生徒の作品をちょい直ししている様子が紹介されており、自らの作品に活かせるアドバイスが満載だ。
なお、「北風と太陽」や「ラプンツェル」などのおとぎ話を描いた作品も集録されているので、こちらも必見である。どんな世界観が広がっているかは、ページを開いてのお楽しみ。アイデア次第で作品の可能性は無限大! 消しゴムはんこから目が離せない。
テレビ番組『プレバト』でもおなじみの田口奈津子先生が、今までに見たことのないアートな消しゴムはんこの世界を紹介します。